中国の観光地、大量倒産の苦境に

 かつては経済成長の原動力として期待された中国観光業が、今や「最も難しいビジネス」と化している。国慶節と中秋節の8日間連休が終わったばかりだが、青海省旅游投資集団(以下、青海旅投)およびその傘下13社が一斉に破産清算を宣言し、業界に衝撃を与えた。このような大量倒産の波は、単なる一過性の現象ではなく、産業全体の構造的問題を露呈している。

大量倒産の事例

 青海旅投は2016年に設立された省級国有文化旅行プラットフォームで、「3年で投融資100億元(約2,100億円)、5年で上場」をスローガンに掲げていた。しかし、登録資本4.8億元(約100.8億円)をすべて使いはたし、2025年6月、西寧市中級人民法院が破産清算を裁定した。高管の多くが辞任や調査を受け、2,371万元(約5億円)を無所有権のキャンプ地に投じたり、負債超過の企業を買収して3,000万元(約6.3億円)の損失を出したりと、運営の荒唐無稽さが目立つ。ネットワーク資料によると、この破産は地方文化旅行企業の「爆雷」(爆発的な失敗)の象徴で、青海旅投は観光投資の失敗例として広く報じられている。

 同様に、湖南省張家界市の「大庸古城」は、典型的な人造古鎮の失敗例だ。総投資額約24億元 (約509億円)を投じて2021年から試運営を開始したが、3年半で5.47億元(約115億円)、最新資料では4年で10億元(約210億円)以上の累積損失を計上している。

 損失の主因は巨額の減価償却、財務費用、不動産税などで、2023年だけでも減価償却が5,000万元(約10.5億円)を超えた。張家界のような観光地でも、駐車場だけが唯一の黒字事業という皮肉な状況だ。このプロジェクトは、張家界市の「明星プロジェクト」として推進されたが、今や「空殻景区」(空っぽの景区)と化している。

張家界 イメージ    これらの事例は孤立したものではない。雲南、桂林、西安、大連、西蔵などの文化旅行企業も苦境にあり、2025年第1四半期の44社上場企業の財務報告では、25社(57%)が売上高マイナス成長を記録した。

 航空会社も影響を受け、南部航空、中国東方航空、中国国際航空はそれぞれ7.47億元(約158億円)、9.95億元(約210億円)、20.44億元(約433億円)の赤字を計上している。また、過去5年で10のA級景区が倒産し、そのうち3つは5A級という国家級ブランドだった。これらの倒産ブームは、文化旅行プロジェクトの「バブル崩壊」を象徴している。

倒産の原因 同質化と盲目的投資

 中国の文化旅行産業が直面する最大の問題は、人造古鎮の大量生産と同質化だ。中国旅游研究院のデータによると、51.3%の回答者が全国の古鎮が「やや似ている」と感じ、38.5%が「非常に似ている」と答えている。商品・サービスから建築様式まで、すべてが千篇一律で、手串、焼き腸、イカ焼き、青レンガ緑瓦の街並みが繰り返される。多くの古鎮は後天的につくられたもので、文化的な奥深さに欠け、知名度の高い知財がないため、観光客を呼び込めない。

 さらに、投資のプロセスに問題がある。不十分な調査と論証で、迅速な決定を優先し、プロジェクトが無管理状態になる。損失が出ても責任者が異動すれば終わり、という無責任体質だ。業界メディア『旅界』は、これを「文化旅行の殼で財政資金を調達し、不動産開発をする」借殼基建と批判している。ネットワーク資料でも、こうした文化旅行プロジェクトが本来的に収益を期待せず、インフラ投資の手段として使われたケースが多いと指摘されている。

 一方で、観光客数と消費額は増加している。中国文化・旅行部のデータでは、2025年第1四半期の国内延べ旅行者数は17.94億人(前年比26.4%増)、総支出1.80兆元(約38兆円、同比18.6%増)。なぜ業界が苦しむのか?資金が大規模プロジェクトの固定費に吸収され、効率的な運用ができていないからだ。

ユーザー行動の変化

 しかし、この倒産ブームは産業の終焉ではなく、「集団進化」の機会だ。ITBChinaの『2025/2026観光趨勢報告書』によると、中国観光業は復興を続け、出境観光が1.45億人を超え、総消費額5.75兆元(約122兆円、前年比17%増)と堅調だ。

 観光客の趨勢は以下の通り。

 感情主導型観光:インターネットの影響で、観光を感情に寄り添った場、ソーシャルつながりの場とする。テーマツアー、文化体験が人気。

 深い体験の爆発:小グループでの自由な行動や現地での体験を好み、非伝統観光地(周辺の県)の人気が上昇。ピーク時を避けた外出やレジャーが増加。

 短距離旅行と自由行:週末游、ちょっとしたレジャーが主流。自家用車での外出がよく選ばれている。

 消費の個性化:深く浸ることのできる体験を求め、特色ある製品にプレミアムを払う。文創、演芸消費が増加。銀髪族(高齢者)とZ世代の需要が成長中。

 突破のカギは、短期的な移動をめぐる争奪から長期的な価値の蓄積へ移行すること。核心行動は3つ

 一、現地文化の深掘り:歴史、非遺、民俗を体系化し、テーマツアーや深く浸る工房、知財派生品に変換。独自の市場識別度を形成。
 二、運用管理の精緻化:観光客データ分析で、客群別サービス設計(親子向け託児、シニア向け改造)。動線最適化、予約分流で体験を向上。
 三、長期にわたり効率性の高く整ったシステム:政府・企業・コミュニティの連携で、持続開発公約を作成。スマート監督・管理でサービス品質を調整、文化の真正さを守る。

 また、建国記念日連休の消費は2.7%増、観光業が旺盛だが、映画業は縮小。世界旅游組織によると、中国は世界最大の観光支出国で、国際観光客数は3億入超。

 2025年の中国文化旅行倒産ブームは、上辺の仮面を剥ぎ、投機の浮ついた心を払う契機だ。倒れたプロジェクトは、土壌の養分となる。真の文化旅行は、賭博的な土地開発ではなく、敬虔な職人精神による長期耕作だ。文化の土壌に根ざし、内容創造に精進し、市場と消費者を敬う者が、寒い冬を乗り越え、再生するだろう。


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