(株)うぇるねす
多くの人々が暮らすマンションでは、人手不足のなかでいわゆる管理人(清掃、建物点検、住民からの問い合わせ対応など)が不足している。(株)うぇるねすは、平均年齢70歳のマンション管理「代務員」によるサービスを展開し、マンション管理の現場を支えている。
最高齢92歳も活躍
三連休の最終日となった今年10月13日、マンション管理代行事業を展開する(株)うぇるねす(東京都新宿区)は、年に1度の研修会「うぇるねすシップ」を福岡市内で開催した。
今回の「うぇるねすシップ」には、福岡県、佐賀県、大分県、長崎県の北部九州から「代務員」と呼ばれるシニア世代約170人が参加。熱心に研修に取り組んでいた。当日は、表彰式のほか、各地域での業務への取り組み状況の説明などが行われ、参加者は今後の業務において改善すべき点などに耳を傾けていた。
代務員とは、マンション管理会社の常駐管理員の休職・退職にともない、単発・長期で業務を代行する管理員のことをいう。うぇるねすは全国で事業を展開しており、代務員の総数は3,780人(2025年7月時点、フロントサービスなどを行うコンシェルジュも含む)にのぼる。平均年齢は70歳で、最高齢は92歳だという。代務員は15年の565人から、20年には1,524人と大幅な増加を続けており、25年には前年の3,240人から500人以上増え、3,780人(うち女性は1,147人、コンシェルジュ含む)となった。代務員が増えている背景にあるのが、マンション棟数の増加と、それを管理する人材の不足だ。
不足する管理人材
【表①】は国土交通省がまとめた分譲マンションストック数の推移だが、右肩上がりに増加し、24年末時点で総数は約713万戸となっている。その一方で、マンション管理は課題も多い。
うぇるねすがマンション管理会社に対して23年8月に実施したアンケートによれば、管理員採用時の課題として「求めている人数の採用ができない」【表③】という回答が多く寄せられており、管理者が不足している状況が浮き彫りになっている。【表②】は国土交通省がまとめた「不動産管理業の未来」と題する資料から抜粋したものだが、マンション管理業者数も減少傾向にある。
(うぇるねす実施)
うぇるねすでは代務員の業務の質向上に取り組んでおり、それがマンション管理会社に評価され、業務代行の受注数は24年度に32万403件(23年度は29万873件)となるなど、年々数を増やしている。業務の質向上については、全員を対象にスマートフォンを活用して行うe-ラーニングをベースとしている。これにより、清掃の知識や技術の定着、現場トラブルなどの情報を共有するだけでなく、出退勤・業務報告なども行っている。
国家資格取得に挑戦
うぇるねすの会長兼社長・下田雅美氏は今回のイベント開催にあたり、「人口減少のなかで高齢世帯が利便性を求めて中心市街地のマンションに移る趨勢があり、今後もより高い管理品質、専門性の高い人材への要求が高まる。また、国土交通省によるマンション評価制度が施行され、管理会社の運営実績が公開される仕組みが進行中であり、水準向上と法令順守が求められている」と述べ、うぇるねすは代務員に対して、国家資格である「管理業務主任者」試験への挑戦を奨励していることを強調していた。
「管理業務主任者」とは、マンション管理業者が管理組合などに対して管理委託契約に関する重要事項の説明や管理事務報告を行う際に、必要となる国家資格。管理業務の委託契約や、管理組合の会計に関する簿記や財務諸表などの知識、マンション管理に関する法律などの知識が求められ、例年約1万5,000人が受験し、合格率約20%という高難度の試験だ。うぇるねすでは、スマートフォンで気軽に勉強できる自社開発のe-ラーニング「たんぽぽ講座」で支援するほか、受験料の負担やお祝い金制度を設けることで、24年度から管理業務主任者資格試験の受験を促し、代務員514人が受験。31人が合格し、最高齢は77歳(2人)だった。
下田氏は平均年齢70歳を超えるベテラン層の活動に誇りをもち、高齢者が活躍できる社会の重要性を指摘。「日本の労働人口減少を補う力としてシニア就労を推進し、元気に働き続けることが誇りと価値を生む」と呼びかけていた。
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総務省がまとめた「統計からみた我が国の高齢者-『敬老の日』にちなんで-」によると、25年9月15日現在で65歳以上人口は3,619万人と過去最多で、かつ総人口に占める割合も29.4%と過去最高となっている。また、65歳以上の就業者数は20年連続で増加して930万人と、これも過去最多だ。このように、高齢者が働くことは当たり前の状況になっているが、高齢者の雇用を躊躇する風潮はいまだに根強い。うぇるねすの取り組みは、「人生100年時代」において、デジタル活用に加えモチベーションを高める仕組み、無理のない労働環境を整えることで、高齢者を「戦力」として生かす先進的なものといえそうだ。
【田中直輝】
マンション支える「走る管理員」
福岡支店代務員
篠原喜満(しのはら・よしみつ)さん(71歳)
──これまでのご経歴を教えてください。
篠原 長く金融関係の仕事に携わり、法人営業や顧客情報管理を担当してきました。60歳で定年を迎えた後、ハローワークで介護や管理員の研修を受けたことがきっかけで、マンション管理員の仕事に興味をもちました。人と接することが多い営業職の経験が生かせそうだと感じ、自分のペースで働ける点にも魅力を感じました。
最初は常勤の管理員として働いていました。65歳までのつもりでしたが、担当していたマンションの大規模修繕工事が終わった68歳のとき、「もう少し働きたい」と思い、22年10月にうぇるねすに登録して代務員に転向しました。今は週4~5日、1日3~7時間ほど、複数のマンションで勤務しています。夜勤もありますが、依頼があればできる限り引き受けるようにしています。
──代務員として働く魅力は、どんなところにありますか。
篠原 さまざまな現場を経験できることです。管理会社や管理員の方との交流もあり、日々刺激を受けます。なかにはマンション管理士や宅建、管理業務主任者など3つの資格を持つ方もいらっしゃって、10年間試験を受け続けたという話を聞いたときは本当に感服しました。私も現在、管理業務主任者試験に挑戦中で、今回が2回目の受験です。難しい試験ですが、学び続けることが励みになっています。
──仕事のモチベーションはどこにありますか。
篠原 一番はマラソンですね。60歳から始めたのですが、今ではすっかりはまっています。北海道の洞爺湖マラソンや沖縄の那覇マラソンなど、全国各地の大会に出場しました。コロナ禍の影響でホノルルマラソンに行けなかったのが心残りです。大会には妻と一緒に旅行も兼ねて出かけます。仕事は、その資金づくりと体力づくりのためでもあります。
──仕事とマラソンの両立は大変ではありませんか。
篠原 走ることが、働くリズムを整えてくれます。体力維持にも役立ちますし、何より気持ちが前向きになります。仕事で住民の方と挨拶を交わしたり、会話したりするのも、マラソンと同じで積み重ねが大切です。顔を覚えてもらえると信頼につながり、「ありがとう」と声をかけてもらえるのが本当に嬉しい瞬間です。
75歳までは働くつもりですが、うぇるねすには80歳を過ぎても元気に働いている先輩がたくさんいます。私も走れる間は続けたいですね。働くことも走ることも、私にとっては人生を前向きにする力です。年齢を理由にあきらめるのではなく、自分のペースで挑戦を続けたい。元気でいられる限り、走りながら働きたいですね。

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