【トップインタビュー】建材卸から建設エンジニアリング商社へ インフラとDX時代の成長戦略
OCHIホールディングス(株)
代表取締役社長 越智通広 氏
建設資材業界は、この数十年間、サプライヤーの再編、新築住宅市場の成熟、そしてインフラ老朽化という社会課題の浮上といった、構造変化の奔流に洗われてきた。こうした激動の市場環境を追い風に変え、OCHIホールディングス(株)は50社超のM&Aを駆使して事業ポートフォリオを大胆に転換し、成長を続けている。同社代表取締役社長・越智通広氏に、変化の潮流をいかに捉え、未来に向けてどのような羅針盤を描いているのか、そのビジョンと哲学を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役会長 児玉直)
淘汰を生き抜き
30年で変わった業界の景色
代表取締役社長 越智通広 氏
──社長が就任されてから、業界は大きく変わりました。昔の九州の建材業界を思い返してみると、まるで景色が様変わりしました。
越智通広氏(以下、越智) 私が社長に就任したのが1991年ですから、もう35年経ちました。それ以降、業界では九州でも問屋の合併や倒産が相次ぎました。地元の製造メーカーが淘汰されたり、大手商社の系列化が進むなどして、独立系として生き残るのはなかなか容易ではない時代だったと思います。建材業界の景色はすっかり変わってしまいました。
──かつての取引先も、今では大手ハウスメーカーの軍門に降るか、姿を消しているのではないでしょうか。
越智 環境変化のなかで、大手ハウスメーカー各社も、今や国内市場だけを見ているわけではありません。各社のアメリカでの着工件数は日本を上回るほど海外へシフトしています。九州でも地元の不動産プレーヤーが、フィリピンやベトナム、タイといった東南アジアに100億単位で投資をしています。海外事業は現地のデベロッパーと組まねばならず、それなりに大変な道のりでしょう。
住宅から土木・インフラへ
需要動向を見据えた戦略転換
──国内市場は大きく変化しました。とくに、主戦場であった住宅市場が直面している課題と、そこに生まれている新たな機会について、どのように考えますか。
越智 おっしゃる通り、市場構造は根本的に変わりました。かつての主軸であった新築住宅市場は、今や頭打ちの状態です。一方で、新たな事業機会も生まれています。たとえば大都市圏を中心に、中古住宅を買い取り、リノベーションして再販する市場が大きく伸びています。建築コストが上昇していることも、この流れを後押ししています。
──住宅着工件数は減少傾向にありますが、そのなかで御社グループは「エンジニアリング事業」を大きく伸ばしています。2026年3月期中間期では、このセグメントの売上高が前年同期比48.0%増と驚異的な伸びを見せていますね。
越智 国内の新築住宅着工件数が右肩下がりとなることは、少子化などの影響もあって避けられません。当社がこれからのビジョンとして考えているのは、「土木・インフラメンテナンス」分野の強化です。民間需要である住宅と、公共需要である土木との構造的差異を見極めることが肝要と考えています。
まず住宅事業は民間需要であり景気にも大きく連動します。個人の購買力や金利、景気動向に大きく左右され、現在は資材高騰がボリュームゾーンの需要を直撃しています。他方、公共工事である土木・インフラ事業では、とくに近年、老朽化対策として、建設から40〜50年が経過した橋梁や下水道などの老朽化対策がもはや待ったなしの状況です。これは景気に関わらず遂行されなければならない「国民生活の安全を支える不可避の使命」ですから、その需要に応じた事業戦略の構築が重要と考えています。
──そのような状況でありながら、公共工事の落札不調は深刻だと聞きます。とある自治体の水道局が「予算を執行するために、どうか今年中にこの工事を受けてほしい」と、業者に対して頭を下げて回ることすらあるとの話も聞いています。
越智 現在のインフラ整備の現場では、人手不足などを背景としてパワーバランスの逆転が起きています。典型的なのが、「予算はあるが、施工能力が不足している」というものです。このような状況下にあって当社グループは、自社で施工機能を抱えることで、できる限り需要に応える体制をさらに強化していきます。公共性の高い安定需要をグリップすることは、経営の「質」を根本から安定させる戦略的要諦になると考えています。
──インフラメンテナンスの方法として「事後保全」から「予防保全」への切り替えが重視されるようになりました。
越智 「事後保全」から「予防保全」に切り替えることによって、今後30年で約90兆円のコスト抑制効果があるとされています。事後保全だと突発的な事故リスクもありますが、計画的な『予防保全』なら安全性が高まるうえにトータルコストを抑えられる。当社は橋梁・トンネル・道路施設の点検・診断を行う専門会社を有し、また、橋梁下部工事や高速道路IC建設、耐震補強など幅広い土木・建設工事まで一気通貫で対応できるネットワークを構築しています。この『予防保全』の分野は、民間の住宅需要と違い、公共事業の主力として今後も確実に伸びる事業だと確信しています。
30社超のグループ企業
価値観共有と自主性尊重
──御社グループは戦略的なM&Aでグループを拡大してきました。現在、全体で何社になられましたか。また、主な事業分野は。
越智 現在は30社を超える企業グループになりました。分野としては、祖業である建材事業をはじめとして、先ほどお話ししたエンジニアリング事業、住宅用木材の加工販売を行う加工事業、主に東北や関東などで冷凍冷蔵・空調機器などの販売を行う環境アメニティ事業、その他には、人材派遣会社なども含まれます。直近では24年10月に福島県の(株)弓田建設を、25年7月にはIT企業の(株)日本システムソリューションをグループに迎えました。
──多業種を包括したグループを統括する秘訣はなんでしょうか。世間では成功例ばかりでなく、失敗例も聞きます。たとえば、親会社の論理を押し付けた結果、子会社で20代の若手社員が大量に辞めてしまったなどという話です。また、医療機器大手が買収先に過度な干渉を行い、経営陣の判断力を奪ってしまった失敗例も聞きました。
越智 異業種をグループに迎えるにあたってまず大切なことは、各社の自律性を尊重することだと思います。親会社の論理を押し付けないことではないでしょうか。こちらも本業以外の業界をすべて理解しているわけではありません。また、地域ごとに商習慣も異なりますから、九州のやり方を他県で押し付けてもうまくいかない。信頼できる経営陣に任せ、自主性を重んじています。ただし、その前提として欠かせないのが、共通の価値観「安全安心でサステナブルな(持続可能な)社会を創造する」(パーパス)を共有することです。運営は任せつつ、グループとしての社会的責任については足並みをそろえる。建設・資材業界の本質は「顔の見える信頼関係」です。企業の社会的責任としての価値観を共有したうえで各社の自律性を尊ぶことが、30を超えるグループ企業の個性を1つのシナジーにつなげる道だと考えています。
DX推進をグループの核に
利益最大化を実現する
──異業種を迎えることによるグループシナジーとして、どのようなことが想定されますか。
越智 シナジー形成の核の1つとして位置づけているのがDX活用です。グループ内のIT会社が開発する関連ソリューションを、各社で共通して使える業務基盤として整えていくことで、作業効率の向上とグループ全体の収益力強化を加速させます
──DX化を進めることについて教えてください。
越智 先述した日本システムソリューションは、建設・土木業向けのCADシステムやBIM/CIMソリューションの開発に強みをもつ企業です。同社をグループに迎えたのは、ソフトウエア開発事業の内製化と、IT分野の専門人材確保によって、グループ全体として社会環境の変化に適応し、持続的な成長を実現していくことを目的としています。同社は「建設・建設業界に特化したITソリューションパートナー」として、グループ全体のDXを牽引する役割を担います。
具体的に今後のビジョンとして進めるのがBIMの開発です。BIMは、建設・土木業向けの設計・管理手法の一種で、従来の2次元的な設計とは異なる新しいデジタル技術ですが、単なるITツールではなく、業界構造を変える基盤技術となります。BIMは単に設計のデジタル化ではなく、土木構造物の情報をデジタルモデルとして構築し、設計から施工、さらには維持管理に至るまでのプロセスを一体で管理することによって、プロジェクトにかかわるあらゆる分野の横断的な管理の効率化に飛躍的に貢献します。
当社グループには建設、資材関係の多様な企業があります。BIMを活用することで、グループ内の異なるセグメント同士が自然に連携し、その結果として、さまざまなかたちでの収益改善が図れると考えています。まず、設計・施工の最適化です。従来の設計手法からBIMによる設計に切り替えることで、施工時の無駄を省き、その結果として、工事会社における原価構造の改善を、より直接的に実現できるようになります。また、資材供給との連動にも大きな威力を発揮します。BIMデータを活用して必要な建材や設備、プレカット木材を正確に把握し、強力な購買力をもつ建材卸が資材を供給することで、「グループ調達による資材単価の低減」と「建材事業の供給力強化」を同時に実現させます。
当社グループで開発するBIMは、グループ内で「テストマーケティング」として活用していきたいと考えています。現場のフィードバックを即座に反映させることで、シンプルで実用性の高い製品を開発できます。まずは自社グループ内で実績を積み重ね、その成果を基に、顧客である工務店やビルダーへとBIMを広げていきます。その結果として業界全体のデジタル化を牽引するソリューションプロバイダーとしての立ち位置を築いていきたいと考えています。また、単なるモノの販売(卸)から、ITソリューションと施工能力を組み合わせた「建設エンジニアリング商社」へと進化することで、他社との差別化を図ります。
──建設業界は「人手不足」という最大の課題を抱えています。これについても御社の構想は威力がありそうですね。
越智 DX推進は人手不足という構造問題に対して、現実的な解決策の1つになると見ています。1つは、教育の効率化です。昔のようなOJT(現場教育)だけで育てるのは限界があります。そこで期待されるのがBIMやAIを活用したシステムを構築して、そのなかで熟練者がもつ暗黙知や経験を効率的に継承し、営業や施工の現場を継続的にサポートできる仕組みを機能させることです。
グループシナジーによる
利益率の拡大
──建材業界は、従来、利益率の低い業界だと思われてきました。
越智 グループ内でさまざまな業種が連携し、さらにITやDXによって業務を効率化していけば、従来の建材卸売業の収益構造から脱却することは十分に可能です。建材卸としての強力な購買力を生かし、まずグループ内の工事会社の資材単価を下げることができます。そこに、日本システムソリューションが開発するITソリューションと、各工事会社の施工能力を組み合わせることで、グループ全体の生産性を底上げし、結果として利益率を高めていきます。この連携こそが、私たちが目指す姿です。グループとして最終的に、5〜10%あるいはそれ以上の利益率で、安定的に利益を出せるビジネスモデルへと転換していきたいと考えています。
また、今後の展開としては、建設分野に特化したグループ内の人材派遣会社の活用も考えています。ITシステムとこうした人材機能を組み合わせて、単なる人材供給にとどまらず、労働力不足という市場課題に対するトータルなソリューションを提供していきます。私たちは、IT(BIM/DX)を単なる補助的なツールではなく、「建設エンジニアリング商社」としての競争力の源泉であり、高収益体質への転換を実現するための最重要戦略として明確に位置づけています。
ただし、汎用的なシステムをグループ内の企業にそのまま当てはめるつもりはありません。グループには事業内容も規模も異なる会社があり、それぞれに業務の特性があります。各社の需要や業務フローに合わせてBIMやシステムをカスタマイズし、現場で本当に使える、実用性の高いツールに仕上げていくことを重視しています。DXは一度導入して終わりではありません。私たちはこれを「永遠のテーマ」と捉え、現場とともに磨き続けることで、グループの競争力そのものを底上げしていきたいと考えています。
【文・構成:寺村朋輝】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:越智通広
所在地:福岡市中央区那の津3-12-20
創 業:1955年5月
設 立:2010年10月
資本金:4億円
売上高:(25/3連結)1,170億8,400万円
<プロフィール>
越智通広(おち・みちひろ)
1957年福岡市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、79年福岡銀行入行。87年越智産業(株)入社、89年同社取締役経理部長を経て、91年同社代表取締役社長に就任。








