【鮫島タイムス別館(47)】麻生・石井ラインが動く 「ポスト高市」をめぐる自民党暗闘

ポスト高市レースに異変

 進次郎か、コバホークか──。ポスト高市をめぐる自民党内の権力ゲームが、ここにきてじわりと動き出している。

 これまで「本命」と見られてきたのは、昨年総裁選の決選投票で高市早苗首相に敗れた小泉進次郎防衛相(45)だった。ところが、自民党大会で株を落とした。陸上自衛隊音楽隊に所属するソプラノ歌手が登壇して国家を斉唱した後、彼女とのツーショットをSNSに投稿。自衛隊の政治利用との批判が噴出すると「事前に報告を受けていなかった」と釈明し、投稿を削除した。

 自民党も防衛省も「私的行為」として違法性の否定に躍起だが、防衛相の迷走ぶりは目を覆いたくなる。現役自衛官が刃物を手に在日中国大使館に侵入した事件が起きたばかり。不運も重なり、党内では早くも「進次郎は脱落した」という空気が広がりつつある。

 代わって急浮上してきたのが、「コバホーク」の異名を持つ小林鷹之政調会長(51)だ。東大卒、財務省出身のエリート。政治家4代目の小泉氏とは正反対のキャラだ。

 昨年総裁選では派閥横断的な中堅若手に担がれ、5人中4位だった。決選投票では高市支持の麻生太郎元首相(現・副総裁)に応じ、5位の茂木敏充元幹事長(現・外相)とともに高市支持に回って逆転勝利に貢献。高市首相は政調会長に女性登用を検討していたが、キングメーカーの麻生氏が論功行賞として小林氏をねじ込んだ経緯がある。

進次郎失速で浮上した「コバホーク」

 高市首相が麻生氏に無断で1月解散を断行した後、ふたりの関係は冷却した。高市首相は総選挙圧勝後に麻生氏を衆院議長に棚上げする人事を打診し拒否され、首相とキングメーカーの亀裂は決定的になっている。

 小林氏は政調会長就任後、高市首相が訴える「食料品の消費税ゼロ」と一線を画し、むしろ減税に批判的な麻生氏と歩調を合わせている。麻生氏はポスト高市の有力カードとして、腹心の茂木外相に加え、小林氏も想定しているとの見方が広がり始めた。

 小林氏を後押しするもう1人の実力者が、参院自民党のドンである石井準一幹事長だ。地元は小林氏と同じ千葉で、昨年総裁選でも小林陣営の重鎮役を担った。旧安倍派の世耕弘成参院幹事長が裏金問題で離党に追い込まれた後、参院自民党の実権を握った。高市首相が目指した「新年度予算の年度内成立」を阻み、今や自民党内のアンチ高市の急先鋒とされる。

 かつての「参院のドン」青木幹雄元官房長官の流れを汲み、派閥解消後の流動化した党内で参院議員40人超の独自グループを旗揚げし、高市首相は警戒感を募らせている。石井氏は唯一存続している麻生派以外に参加を呼びかけ、麻生氏への配慮ものぞかせる。

 麻生氏と石井氏が急接近し、小林氏を担ぐのではないか――。そんな見方が急浮上してきた。

麻生・石井ラインがにらむ高市包囲網

 それをうかがわせるのが、麻生氏に近い国民民主党を加える連立拡大論の再燃だ。自民党の総選挙圧勝を受け、高市首相は予算審議で国民民主の提案を拒否。国民民主は予算反対に回り、連立拡大論は下火になっていた。ところが麻生氏の義弟である鈴木俊一幹事長は4月12日の党大会後、連立拡大への意欲を改めて表明。石井氏はその2日後の記者会見で「望ましい形」と歩調をあわせたのである。

 自民と維新の連立与党は衆院の4分の3を占め、参院では保守党やチーム未来を予算賛成に引き込み、過半数を事実上回復した。数の上ではもはや国民民主は必要ない。そのなかで麻生氏や石井氏が連立拡大に前向きなのは、維新との連立強化で自民党内を押さえ込もうとしている高市首相への反発にほかならない。

 後半国会は、維新が求める定数削減や副首都構想の法案の成否が大きな焦点となる。アンチ高市派が維新の影響力を削ぐため、法案提出に抵抗する可能性は十分ある。岸田文雄元首相や石破茂前首相らが加わり、麻生・石井ラインの高市包囲網が拡大していくのか。そこが政局の最大の焦点だ。

焦点は改造人事、次の軸は誰になるか

 では、高市首相は追い込まれているのか。結論からいえば、現時点での退陣シナリオは現実的ではない。国政選挙は当面予定されていない。総裁選も来年秋までないうえ、総選挙で圧勝した高市首相を引きずり下ろすのは容易ではない。高市首相が心身ともに疲弊して自ら投げ出すこと以外、政権が倒れるシナリオは見えてこない。

 しかし、「高市包囲網」が意味をもつのは、今すぐ倒すためではなく、次を見据えるためだ。ポスト高市をにらみ、誰を軸にするのか。その候補として「進次郎ではなくコバホーク」という認識が広がりつつある点が、目下の政局の重大ポイントである。

 今後の最大の焦点は、国会閉会後の党役員・内閣改造人事だ。自民党の麻生体制が崩れ、高市カラーの新執行部が誕生するのか。

 麻生氏の義弟の鈴木幹事長や麻生氏に近づいた小林政調会長が留任するのか、それとも旧安倍派の萩生田光一幹事長代行や西村康稔選対委員長、麻生氏と宿敵関係にある旧二階派の武田良太元総務相らを幹事長や政調会長に抜擢するのか。

 武田氏は旧二階派を受け継ぐかたちで独自グループを旗揚げしたが、旧二階派ホープだった小林氏は参加を見送った。高市首相に近づく武田氏と、麻生氏に近づく小林氏の路線対立は、もはや明らかだ。

 進次郎からコバホークへ。ポスト高市の軸が動く水面下で、党内実力者たちの激しい権力闘争が始まっている。

【ジャーナリスト/鮫島浩】


<プロフィール>
鮫島浩
(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト/鮫島 浩1994年に京都大学法学部を卒業し、朝日新聞に入社。99年に政治部へ。菅直人、竹中平蔵、古賀誠、町村信孝ら幅広い政治家を担当し、39歳で異例の政治部デスクに。2013年に原発事故をめぐる「手抜き除染」スクープ報道で新聞協会賞受賞。21年に独立し『SAMEJIMA TIMES』を創刊。YouTubeでも政治解説を連日発信し、登録者数は約18万人。著書に『朝日新聞政治部』(講談社、22年)、『政治はケンカだ!明石市長の12年』(泉房穂氏と共著、講談社、23年)、『あきらめない政治』(那須里山舎、24年)、『政治家の収支』(SB新書、24年)。

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