「無縁社会」という潜在的課題
全国で高齢化が進むなか、福岡と熊本で孤立する高齢者の支援を長年行っているのが安心サポートネットグループだ。若者が多い福岡市でも高齢化は潜在的な課題として確実に進行しており、その支援活動の重要性は高まっている。
NPO法人高齢者・障害者安心サポートネット福岡の豊留一理事長は、かつて日本社会を支えてきた家制度はもはや機能しておらず、現代は人と人とのつながりが断ち切られた「無縁社会」という過酷な現実に直面していると話す。とくに大きな問題となっているのが、子どものいない高齢者の増加である。
従来であれば兄弟姉妹が互いに支え合うことが期待できた。しかし、平均寿命が伸びた現代では、本人も兄弟も高齢という「老老介護」の状態となり、日常的な生活支援や「身上監護」※1を担うことは困難になっている。若い世代は共働きで自身の生活に追われている。そもそも、親族関係そのものが極めて希薄化している。
このように現代の日本では親族による支援を期待することは難しい。その結果、たとえ認知症を発症しても、支援の担い手が周囲にいないという絶望的な孤立状態に陥る高齢者が続出している。こうした事態に対し、行政や社会福祉協議会も「市民後見人」※2の育成に取り組んでいる。しかし、豊留理事長によると、福岡市の人口規模やニーズの急増に対して育成が追いつかず、人数は圧倒的に不足しているのが実情という。
これを終活ビジネスのチャンスと見る民間企業によるサービスも充実してきた。しかし豊留理事長は、それらの多くは多額の前受け金や高額な月額費用が発生するため、資産が限られている高齢者にとっては手の届かないサービスだと指摘する。このように経済的な格差が老後の安心も左右する不条理な状況が生まれている。誰もが安心して最期まで暮らせる社会をいかに構築するかが問われている。
※1:成年後見人が被後見人の意思を尊重しつつ、生活状況や健康状態を確認し、必要な支援や法律行為を行うこと
※2:弁護士や司法書士、社会福祉士などの資格をもたない、親族以外の市民による成年後見人など
財産管理より身上保護を
法務省出身で公証人の経験も持つ樋口健児副理事長は、成年後見制度の捉え方についても疑問を投げかける。弁護士や司法書士といった専門職による従来の後見は効率性が優先され、事務的な「財産管理」に終始する傾向が強いという。しかし樋口氏は、後見の本質とは財産を守ること以上に、本人の生活、療養看護、介護、医療といった身上監護にあるべきだと断言する。たとえ財産管理が完璧であっても、本人の日々の暮らしや医療の質が置き去りにされては、真の支援とはいえない。同法人は設立当初からこの身上保護こそが後見のメインの仕事であると定義し、実践してきた。
この理念を制度として支えるのが「任意後見制度」である。裁判所が後見人を選ぶ「法定後見」に対し、任意後見は「自己決定権の尊重」という観点で優れていると樋口氏は話す。任意後見の契約には即効型、移行型、将来型の3類型がある。
契約締結後即実際の支援が始まるのが即効型。判断能力がしっかりしているうちに将来の身体機能や判断能力の低下に備え、元気なうちに信頼できる支援者を選んで契約を結んでおくのが移行型と将来型だ。将来どのような生活を送り、どのような医療や介護を希望するか、詳細な要望を契約に盛り込むことが可能である。移行型は、本人が元気なうちは後見人が見守り事務などを行い、本人の判断能力低下後に任意後見契約に切り替わるものだ。豊留理事長らは将来の不安をもっとも解消できるものとして、この移行型を重視している。
家族に代わる「寄り添い」の具体像
豊留理事長は支援の現場で後見人に求められるのは単なる法律行為の代行ではないと話す。具体的な支援事例として、認知症が進行し自身でインスリン注射を打つなど投薬のコントロールができなくなった場合、後見人が通院に同行して病状を確認し医師と連携する。自宅での生活が困難になった際には、本人の希望に沿った施設を家族に代わって探し、入居の手続きや身元保証人としての役割を担う。入院や施設入居の事務、不動産の処分、遺産分割など必要な手続きを遂行する。
樋口氏は高齢者本人の立場に立って身上監護を徹底することの重要性を強調する。こうした地域後見の実現こそが、高齢者が最期まで自分らしく生きるための基盤となるという。
最期まで責任をもつ「死後事務」
高齢者が最も不安に感じるのは亡くなった後のことである。葬儀の執行、納骨、遺品整理、公共料金の精算といった煩雑な事務が必要となる。樋口氏によると任意後見契約を結ぶ人の多くが「死後事務委任契約」も締結しており、これらの事務も同法人が引き受けている。
支援の現場で頻発している問題の1つが遺骨の引き取り手の不在だ。行政が火葬を行っても遺骨は相続人の財産であるため行政では処分できず、保管し続けなければならない点が制度上の問題だと豊留理事長は指摘する。同法人は本人との契約に基づき事前に納骨についての要望を確認し、その通りに実施されるよう見届けている。近年では墓の維持が難しいという事情から海洋散骨を希望するケースも増えており、そうした個別の要望にも応えている。
広がる支援の網
NPOの運営は決して容易ではない。公的な予算はまったくつかず、収入源は会員の会費や寄付、後見報酬の一部である。支援を必要としながらも年金暮らしで月額約2万円の利用料を支払う余裕がない低所得層も少なくない。こうした経済的格差による孤立を防ぐために創設されたのが「安心サポート基金」である。経済的に困窮している高齢者や障がい者が利用しやすいよう後見費用の一部を助成する目的で設立され、原資は市民からの寄付金や遺言による寄付だ。
豊留理事長は誰かが最期を支えなければならないと強調する。「安心サポートネット福岡」が目指すのは、資産や親族の有無にかかわらず誰もが住み慣れた地域で尊厳をもって人生の幕を閉じられる社会の実現である。同法人は市民センターでの無料相談会、市民後見人の育成研修などを行っており、支援の網は福岡市のほか福岡都市圏や宗像、久留米にも広がっている。

【茅野雅弘】
<INFORMATION>
NPO法人高齢者・障害者安心サポートネット福岡
所在地:福岡市中央区舞鶴3-6-23-306
TEL:092-737-2345
URL:http://anshin-net.jp/annshinfukuokatop.html








