あなたが故人となっても、企業は存続できるだろうか(1)ムライケミカルパック新経営陣インタビュー
ムライケミカルパック(株)の創業者・村井正隆氏が亡くなったのは既報の通りである。4月13日にお別れ会が行われ、翌14日、筆者は本社に向かい、新社長・山本善樹氏に取材を行った。
本社に到着した際、目に飛び込んできた光景がある。本社棟とは別棟としてつくられた研究開発室を覗くと、20人ほどの開発部隊が真剣に議論を交わしていた。会社の当面の課題について討議している様子だった。
前日はオーナーのお別れ会であり、討議に参加しているメンバーたちも一日中、列席者の応対をしていたはずである。疲労もあったと思われる。しかし、社員たちはオーナーの死去に浮足立つこともなく、今日明日からの仕事の討議に専念していた。「あぁ、これで会社の経営存続は十分に可能である」と筆者は確信した。詳細は後述の対談内容を参照されたし。
最後の遺言めいた言葉
ところで、話は1年半前に遡る。筆者は故人にこう尋ねたことがある。「この4年程、急ピッチで業績が伸びてきた。驚異的な進展のようだが、その要因は何か?」と。
回答はシンプルであった。「意外な人物が大化けしてくれた。塗装開発のヒントも、お客の要望から開発部隊と研究開発を一心不乱に追求してくれた。結果、すばらしい業績躍進を得た」という。その時点で、筆者は村井氏が「一族への継承」を断念したと判断した。
世間では「ムライケミカルパックは村井さんの会社だ。もし村井さんの健康に支障が出れば、会社も立ち行かなくなるのではないか」と囁かれていた。しかし、その懸念は老婆心に過ぎなかった。企業存続への不安は皆無だ。
【児玉直】
創業者の遺志を受け継ぎ、次の会社をつくる
ムライケミカルパック新代表インタビュー
ムライケミカルパック(株)
新社長・山本善樹氏 × 副社長・津田業氏
インタビュー
前代表者・村井正隆氏の逝去を受け、3月にムライケミカルパック(株)の代表取締役社長に就任した山本善樹氏。創業者が築いた会社を、これからどう引き継ぎ、どう発展させていくのか。取締役副社長・津田業氏とともに、今後の経営の方向性や事業の強み、組織づくりについて聞いた。
──このたび山本社長が代表に就任された経緯を教えてください。
山本善樹氏(以下、山本) 前代表から「山本君、社長をやってくれ」と託されたことが、大きなきっかけでした。ただ、私自身はオーナーではありませんし、株を持つ立場でもありません。だからこそ、会社を預かる者として、株主の皆さまや社員の信頼を得ながら経営していかなければならないと強く感じています。今回お引き受けしたのも、会社のスタッフがしっかり育っていて、この組織なら次へ進めるという確信があったからです。
津田業氏(以下、津田) 私から見ても、創業者が山本社長に託したのは自然な流れだったと思います。現場には力のある社員がそろっており、体制として次へ進める土台ができていました。だからこそ、トップが代わっても会社は前に進める、という実感があります。
──新体制では、どのような会社にしていきたいと考えていますか。
山本 創業者が強いリーダーシップで引っ張ってきた会社ですから、その良さは大切にしながらも、これからはみんなが力を合わせて動く組織へ、いわば“ソフトランディング”させていく必要があると思っています。急激に何かを変えるのではなく、創業者の遺志を受け継ぎつつ、社員一人ひとりが主体的に動ける会社にしていきたいですね。
津田 現場ではすでに、その空気がかなりできていると思います。社内でも「これから自分たちは何をやるのか」を確認し合いながら、前向きに進もうという意識があります。トップダウンだけではなく、社員みんなで会社を支える段階に入ってきたと感じています。
──津田副社長は、これまでどのような役割を担ってこられたのでしょうか。
津田 私はもともと営業を担当してきました。前代表のもとで、実務面についてはかなり任せていただいていたと思います。入社は20年前で、もともとは別業種にいましたが、ご縁があってこの会社に入りました。営業としてお客さまを回るなかで、「どんなことに困っているのか」「どんな製品があれば助かるのか」を拾い上げ、それを技術部門につないでいく役割を続けてきました。
山本 創業者も、津田君をはじめ、次を担う人材の名前をよく挙げていました。会社がここまで伸びてきた背景には、そうした実務を支える人材が育ってきたことが大きいと思います。
──ムライケミカルパックの事業の強みはどこにありますか。
津田 当社の強みは、工場や事業所の屋根改修に特化しながら、自社で開発した機能性塗料を使って、お客さまの困りごとに直接応えられるところにあります。塗料の特徴としては、まず夏場の屋根表面の温度上昇を抑える機能がありますし、塗ることで屋根の強度を高めることもできます。さらに、いまとくに伸びている「ケミカルカチオンパック工法Ver.2」という製品は、雨漏りを止める性能に優れているのが大きな特長です。工場のなかでは人が働いていますし、何千万円、何億円という高額な機械設備が動いているケースもあります。そこに雨漏りが起きると、生産や設備に大きな影響が出てしまう。だからこそ、屋根の機能を回復させる当社の製品や工法に強いニーズがあると感じています。
また、市場の広がりという面でも大きな可能性があります。私たちが主に手がけているのは新築ではなく改修で、築40年、50年といった工場が増えてきているなかで、屋根の老朽化対策はこれからも継続的に必要になってきます。業界ごとに景気の波はありますが、どの業種にも屋根はありますから、私たちは幅広い分野に提案できるのが強みです。
山本 さらにいえば、単に材料を売るだけではなく、お客さまの課題に合わせて提案できることが大きいですね。社員たちが各クライアントに深く入り込み、ニーズと製品をうまく結びつけられている。その積み重ねが今の業績につながっていると思います。
──近年、業績が伸びてきた背景はどこにあるのでしょうか。
津田 大きいのは、営業が現場で拾ってきたお客さまの困りごとを、製品開発につなげてきたことです。最初は試行錯誤の連続でしたが、約8年前からようやくそれが軌道に乗ってきました。良い商品ができただけではなく、それを受け入れていただける関係づくりも進めていました。その両輪がかみ合ったことで、結果として大きな伸びにつながったのだと思います。
山本 業績面では、25年9月期には、売上高が26億717万円となり、5年前と比べて約4倍の水準まで伸びました。当期純利益も2億6,683万円を計上しており、収益性の面でも一定の成果が出てきたと受け止めています。こうした実績を踏まえれば、今後は将来を見据えた投資にも、より前向きに取り組んでいける段階に入ってきたと考えています。
とくに創業者が長年にわたって築いてきた人と人との信頼関係も、非常に大きかったと思います。お客さまや関係先とのご縁を大切にする姿勢は、社員にも浸透している。そこに商品力が加わったことが、今の会社の強さになっています。
──今後の市場性については、どのように見ていますか。
津田 まだまだ大きな可能性があると見ています。私たちが対象にしているのは主に既存建物の屋根改修ですが、日本全体で見れば、そうした改修が十分に行き届いているとはいえません。工場の多くは築40〜50年を超えていて、雨漏りや老朽化に悩んでいるところがたくさんあります。しかも屋根は、どの業種の建物にも必ずある。造船、自動車、さまざまな産業に対応できる市場があります。
山本 社会全体として設備の維持更新が欠かせない時代ですから、私たちの仕事は一過性ではなく、継続性のある事業だと考えています。派手さよりも、必要とされ続ける仕事を着実に積み重ねていきたいですね。
──組織づくりという点では、どんな課題と可能性がありますか。
山本 創業者の時代に比べると、会社の規模も期待値も大きくなっています。だからこそ、次の世代をどう育てるかが重要です。今いる人材は非常に頼もしいですが、その次、そのまた次まで見据えて、組織として人を育てていかなければならない。これからの会社は、誰か1人の力だけで成り立つものではありません。
津田 社員の平均年齢は40歳前後で、比較的若い組織です。実際、現場にも前向きな空気があります。この若さと機動力を生かしながら、経験をどう受け渡していくかが大事だと思っています。
──事業承継や資本の問題については、どう考えていますか。
山本 創業者自身、必ずしも一族承継にこだわる考えではなく、「社員のために優秀な人材がいるなら、その人に任せればいい」という思いをもっていたと受け止めています。一方で、株式会社である以上、株主の考えも大切です。私たちは資本家ではない経営者ですから、まずはしっかりと利益を出し、強い会社をつくることが先決だと思っています。
津田 今はまず、足元をさらに強くしていく段階です。将来の選択肢を狭めないためにも、数年先を見据えて、会社としての基盤をより強固にしていくことが何より重要だと思います。
──前代表者から受け継ぎたいものは何でしょうか。
山本 やはり、人との縁を大事にする姿勢ですね。創業者は社会貢献にも熱心で、多くの方から長年支えられていました。お別れの場でも、本当にたくさんの方がきてくださって、その大きさを改めて感じました。私たちとしては、その遺志をしっかりつないでいかなければいけないと思っています。
津田 社員もみな、その思いは共有していると思います。担当者を大事にしなさい、お客さまとの信頼を大切にしなさいという創業者の姿勢は、会社のなかにちゃんと残っています。それをかたちだけではなく、日々の仕事として引き継いでいきたいです。
──最後に、これからのムライケミカルパックをどう描いていますか。
山本 創業者が築いた会社を守るだけではなく、次の時代に合ったかたちへ進化させていくことが、私たちの役割だと思っています。すぐに何かを大きく変えるのではなく、社員の力を結集し、信頼を積み重ねながら、着実に強い会社をつくっていきたい。その先に、さらに大きな成長の可能性が見えてくるはずです。
津田 現場で拾った課題を製品や提案に変え、お客さまに必要とされる会社であり続けること。その積み重ねが、会社の未来をつくると考えています。新体制のもとでも、私たちらしく、足元を固めながら前へ進んでいきたいですね。
【内山義之】









