バナナ事業が残した資産
佐賀県みやき町は2019年、鹿児島県南九州市の農業法人と連携し、町有地約3,700㎡を活用した国産バナナ栽培に着手した。事業の中心にあったのは、植物を一度凍結させることで耐寒性や成長力を高める「凍結解凍覚醒法」と呼ばれる技術である。熱帯植物であるバナナを国内で栽培し、完全無農薬で皮ごと食べられる高付加価値商品として展開する構想だった。
初収穫時には地域イベントも開かれ、ふるさと納税の返礼品や加工品展開への期待も高まっていた。しかし、20年、21年と続いた記録的大雨で農地が浸水。生産基盤への被害は大きく、安定生産の見通しが立ちにくくなった。結果として事業者の経営状況は悪化し、25年11月、契約期間を10年以上残して撤退することになった。
解体せず民間活用へ
事業撤退後、町に残されたのは9棟の農業用ハウスだった。通常であれば、施設を解体して更地に戻す選択もある。しかし、解体には多額の費用がかかるうえ、一定の設備能力をもつハウスを廃棄すれば、過去の投資が完全に失われる。
そこで町は、プロポーザル方式により新たな民間事業者を募った。選ばれたのは、地元のみやき町で不動産賃貸業を営む(有)ベターライフである。町は同社に土地を売却し、ハウス9棟を現状のまま無償譲渡する方針だ。町にとっては解体費用を抑えられ、事業者にとっては初期投資を軽減できる。事業が予定通り進まなかった後も、施設を次の用途へ振り向ける実務的な対応といえる。
陸上養殖で再出発
新たに計画されるのは、クルマエビや海ブドウを対象とした陸上養殖である。陸上養殖は、水温や水質、餌、飼育環境を人為的に管理できる。閉鎖式の循環型養殖システムを導入すれば、外部への排水を抑えながら、安定した生産環境をつくることも可能だ。大雨や台風など外部環境に左右されやすかったバナナ栽培に比べ、ハウス内で完結する養殖は、気候変動への耐性が高い。
クルマエビや海ブドウは、付加価値の高い商品として展開しやすい。地域の特産品として確立できれば、飲食店向け販売、観光との連携、ふるさと納税返礼品としての活用も期待できる。バナナ事業で目指していた「町の看板商品づくり」は、形を変えて継続されることになる。
失敗を成長資産に
今回の転換は地方創生における重要な示唆を含んでいる。新しい特産品づくりや企業誘致は、必ずしも成功するとは限らない。市場環境、自然災害、事業者の経営力など、さまざまな要因に左右されるからである。だからこそ、失敗後の対応が自治体経営の力量を示す。
みやき町は、「神バナナ」事業を当初の期待通りに進めることはできなかった。しかし、残されたハウスを負の遺産として放置せず、陸上養殖という新たな産業へつなげる道を選んだ。過去の投資を完全に失わせるのではなく、次の成長の土台に組み替える「失敗の資産化」といえる。
土から水へ、農業から陸上養殖へ。みやき町の産業転換は、地方が失敗を糧に再び成長の道を探るモデルケースとなるかもしれない。
【内山義之】








