福岡大学名誉教授 大嶋仁
イスラエルとイランの衝突は、中東だけの問題ではない。そこにはアメリカの覇権、イスラエルの安全保障、イランの反米姿勢、ロシア・中国を含む国際秩序の変化が絡み合っている。本連載では、複雑な世界情勢を図式的に整理しながら、日本がこの対立構造をどう受け止めるべきかを、4回にわたって考える。
以下の論は国際政治の現状を分かりやすくするための図式的説明であって、その依拠するところは何人かの識者の意見を出ない。それらの意見がどこまで正しいのか、正直わからない。しかし、そうであっても、何らかの手掛かりがないと、今の世界で何が起こっているのか見当もつかない。「こういうことが起こっているのだ」というおおよその認識は、あったほうが良いに決まっている。
たとえば、高市首相が自民党総裁に選ばれるに際して、他の候補者を中傷する動画を作らせ、それをSNSによってバラまいたという話がある。このことの真相は私たちにはわからない。しかし、ある程度の真実が見えてくるというのも、これについての野党からの質問に対応する首相の狼狽ぶりを、テレビ中継を通じて見ることができるからである。
世界情勢の場合、実況中継はなかなか見られないので真相がわかりづらい。しかし、その道に通じていると思われる人たち、たとえば在米日本人の伊藤貫、アメリカの判事ナポリターノ、シカゴ大学のミアシャイマー、コロンビア大学のサックス、その他もろもろの民間インテリジェンス組織の意見は参考になる。以下の論は、そうした人たちの意見を基にしたもので、少なくとも私には役立っている。「なるほどそうなのか」と納得させられることが多いのである。
世界情勢が緊迫していること、またその情勢が一向によくならないことは、誰もが感じている。世界情勢に最も影響を与えている国がアメリカだとすれば、そのアメリカの大統領であるトランプは「10分ごとに意見を変える」と言われており、このこと自体大問題である。だが、そのトランプが現代世界の不安定の原因なのかというと、そうとはいえない。むしろ彼は、現代世界の混乱・無秩序・不安定の指数に過ぎない。
ウクライナ戦争を例にとってみる。一向に終わらないこの戦争は、ウクライナの背後に西欧勢力があり、その西欧が現在のロシアがソ連だったときからこれを警戒し、さらには敵視してきたという歴史的背景がある。ウクライナ自体はそうした西欧勢力の「盾」のようなもので、これを知っておればこそ、ロシアはウクライナを押さえつけることで西欧に一線を越えさせないようにしているのだ。
いま「西欧勢力」と言ったが、事実上はイギリスとEU諸国である。これらの国々はいずれもNATOを通じてアメリカと連携し、ロシアに対抗してきた。西欧は根底においてアメリカとソ連の対決、すなわち冷戦の延長線上に位置するもので、アメリカ対ロシアという対決図式に組み込まれているのである。このことを念頭に置かないと、ウクライナ戦争の真相は理解しがたい。
つまり、ウクライナ戦争とは西欧対ロシアの戦争であり、同時にそれはアメリカとロシアの戦争でもあるということだ。冷戦は終わったはずでいて、実は終わっていない。
ロシアとアメリカの関係は、一期目のトランプ政権のときに和らいだかに見える。しかし、アメリカの対露戦略の本質がトランプによっても変えられないと見るや、ロシアはトランプをも「信頼できるパートナー」とは見なくなっている。ロシアにすれば、「誰が大統領になろうと基本は変わらない」という認識なのである。
ノー天気なトランプは、それでもプーチンを懐柔できると思ったようだが、とんでもない勘違いである。ロシアは依然として西欧を警戒し、アメリカの思惑に従わないよう気をつけている。そういうわけで、ウクライナ戦争はいつまでも続く。ロシアがウクライナを属国としない限り、あるいは西欧がウクライナを利用価値のないものとして打ち捨てない限り、この戦争は終わらない。
ウクライナ戦争はさておき、いま注目されているイスラエルとイランの戦争に目を向けよう。ここにアメリカが絡んでいることは、アメリカが直接にイランを攻撃し、イランがそれに対して報復したことからも分かるが、それとイスラエルとの関係について日本のメディアは十分な説明をしていない。次稿では、イスラエルとイラン、そしてアメリカの関係についての全体像を示したいと思う。
(つづく)








