二つの重大な経歴詐称疑惑

政治経済学者 植草一秀

 特大ブーメランの襲来である。静岡県伊東市の田久保眞紀市長が経歴詐称で徹底追及された。警察は家宅捜索まで行い、田久保前市長を公選法違反などの疑いで書類送検した。メディアは連日連夜、田久保氏の経歴詐称問題を大々的に取り上げた。

 田久保氏は東洋大学に入学し、在籍したが、卒業はしておらず、除籍になった。田久保氏は東洋大学卒業としており、除籍であれば経歴詐称だと騒がれた。除籍であるのに卒業としていたら経歴詐称になる。それはそれで問題ではある。しかし、全国放送のキー局が連日連夜、トップニュース扱いで報道し続けたことには強い違和感があった。

 卒業ではなく除籍であったことを田久保氏は認め、市長も辞職した。出直し市長選に立候補したが落選した。それ以上に激しく追及するようなものではないと感じられたが、メディアは大々的な報道を展開し続けた。そのブーメランが舞い戻った。

 高市首相が「米国議会立法調査官」であったとの経歴が詐称である疑いが濃厚になっている。「米国議会立法調査官」という名称は、米国議会の職員であることを示すもの。職名が「官」であるから、連邦議会所属の公務員であることを意味するものと受け取られる。ところが、実際は連邦議会の公務員ではなかった。シュローダー下院議員の事務所のインターンでしかなかったと見られている。しかも、在籍したのはワシントンDCではなく、シュローダー議員の地元であるコロラド州の議員事務所だったようだ。高市氏は「無給のインターン」としてシュローダー事務所に籍を置かせてもらっただけのようだ。「無給のインターン」であったことは、高市氏の自著「アズ・タックスペイヤー:政治家よ、こちらに顔を向けなさい」に高市氏自身が記述している。

 米コロラド州デンバーの独立系メディア” Westword”は本年2月9日に、“Japan’s First Female Prime Minister, Sanae Takaichi, Learned From a Colorado Trailblazer”と題する記事を公開。記事はシュローダー議員のもとで18年間働いていたキップ・チェルーテス氏の証言に基づくもの。

 チェルーテス氏はシュローダー議員が高市氏を”a congressional intern”として在籍させたと述べている。また、在籍地についてはシュローダー議員のコロラド州の選挙区事務所であったことを証言している。

 高市氏が「無給のインターン」としてシュローダー議員の事務所に籍を置かせてもらったことが事実なら、高市氏の自著における記述と符合する。「無給のインターン」は議員事務所の「研修生」であって、議会の「立法調査官」などという「公職」とはまったく異なるもの。「連邦議会立法調査官」は日本で言えば「衆議院法制局調査官」といったイメージの職名であり、議員事務所の「見習い」とはまったく違う。

 田久保市長をあれだけ追及したのだから、首相の経歴についてメディアが大騒ぎしないことはあり得ない。小都市の一市長の経歴詐称と一国の首相の経歴詐称と、どちらが重いテーマであるのかは説明の必要がない。経歴詐称で選挙に立候補していれば公職選挙法違反になる。田久保氏の場合は、「除籍」であった事実を「卒業」と勘違いしていたと田久保氏が述べていたので、その証言の信ぴょう性を点検することが必要だった。高市氏の場合、「議員事務所見習い」を「連邦議会立法調査官」としていたとすると、「経歴詐称」の疑いは濃厚だと言わざるを得ない。特大ブーメランの襲来で高市首相が首相辞任に追い込まれる可能性が高まりつつある。

 もう一人、疑惑を持たれている人物がいる。小泉進次郎氏。小泉氏は2004年3月に関東学院大学を卒業している。首相官邸サイトに掲載されている小泉進次郎氏のプロフィールには
平成16年 3月 関東学院大学経済学部卒業
平成18年 5月 米国コロンビア大学大学院政治学部修了
とある。
https://x.gd/ianA1

 平成16年は2004年、平成18年は2006年。小泉氏が2004年秋にコロンビア大学大学院に入学しているなら、2006年5月の大学院卒はあり得ない話でない。しかし、コロンビア大大学院入学には一定の英語力が必要で、小泉氏が大学院に入学できたのは2005年9月であったとの説がある。仮に2005年9月の大学院入学であると、2006年5月の大学院卒業=修士の学位取得は極めて困難であると推察される。

 小泉氏のコロンビア大学修士課程入学に関与したとされるのがコロンビア大学のジェラルド・カーティ教授。カーティス氏は日本政治を専門とし、日本政治に深く関わりを持つ人物。ジェラルド・カーティス氏の名はCIAの上級オフィサーで2000年に没したロバート・クロウリーが残した協力者一覧「クロウリーファイル」に掲載されている。

 カーティス氏は2024年12月に日本経済新聞の『私の履歴書』を執筆している。12月26日付の『私の履歴書』にカーティス氏は2009年に発足した鳩山由紀夫政権について次のように記述した。カーティス氏は「政権交代が視野に入った09年の衆院選前、私は鳩山氏に3点アドバイスをした」と記述。「第1に普天間基地に関し拙速な判断は避けること。第2に米国を含まず反米に映り得る『東アジア共同体』に肩入れしすぎないこと。第3に官僚機構をうまく活用する戦略を描き、決して彼らを敵として扱わないこと、の3つだ。」「しかし首相に就いた彼は逆のことをした。普天間基地の県外移設を唱え、東アジア共同体を支持し、官僚機構を支配した。今年6月に会った彼は『先生の言うことをもっと聴けばよかったな』と話した。」

 カーティス氏はCIAの指令に基づいて動いてきたと見られる。このカーティス氏が仲介して小泉進次郎氏のコロンビア大大学院進学が実現したと見られる。 

 それでも、入学が2005年9月だとすると2006年5月の学位取得は極めて不自然である。どのような単位取得の実績があったのかについて国会で追及される可能性が高い。

 米国の大学は「特殊な機能」を有している面があるため、小泉氏がどのようなプロセスを経て学位を取得したのかを検証する必要がある。学位を取得していなければ、これも「経歴詐称」の疑いが生じることになる。

 首相官邸サイトのプロフィール欄には「修了」としか記載されておらず、「修士」の学位を取得したのかどうかは判明しない。問題は警察・検察とメディアが田久保眞紀氏に対して激しい追及を行ったこと。これが「巨大ブーメラン」となって現時点に襲来している。

 メディアは一地方市長の経歴詐称であれほどまでの大騒ぎをしたのだから、日本の首相の疑惑について大騒ぎする責務を負う。一地方市長の経歴詐称をあれほど騒いだのに、首相の経歴詐称疑惑を取り上げないのは「どう考えても」説明がつかない。

 高市首相は昨年の総裁選の出馬会見で「私が米国連邦議会のCongressional Fellowであったということは事実でございます。文書もございます」と断言しているので、まずは、国会審議において「米国連邦議会のCongressional Fellowであったことを示す文書」を開示するよう、高市氏に求めなければならない。


<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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