議長の椅子はカネで買えるのか──福岡県議会の闇を考える

 福岡県議会(87人)の議長、副議長ポストをめぐって、議員同士の金銭授受の疑惑が浮上、自民党福岡県議団が激しい逆風に見舞われている。ブロック紙の西日本新聞の特報で始まったが、全国紙やテレビ局も追随、自民党県議団幹部らに「金を渡した」という議長、副議長経験者の「告発」も相次ぐ。幹部らは「事実無根」と主張しているが、収束のメドは立っていない。福岡県ではこのところ、議会の力が強くなりすぎていることが背景にあるのかもしれない。

行政と議会は対等?

 「行政と議会は車の両輪」。新しく選出された議長がよく口にする言葉と言って良い。議員が首相を選ぶ国会と違い、地方自治体は「二元代表制」で、首長も議員も有権者から選ばれる。「独立対等」の関係なのだが、どちらかが強くなりすぎると、両輪のバランスが崩れ、まっすぐに進めなくなる。自民党の実力県議が幅を利かす状況が、県庁の互助組織「部課長会」による県議の政治資金パーティー券の購入、高額な公費支出や不透明な契約問題が明らかになった県議の海外視察、規定を上回る講師謝礼金などにつながっているのではないか。

 福岡県では1995年から4期16年におよんだ麻生渡県政以来、オール与党状態が続いているが、麻生渡の前は、革新県政だった。社会学者の奥田八二が、社会党や共産党の推薦を受け、自民党推薦の亀井光の5選を阻止すべく、83年(昭和58年)に出馬、当選した。知事公舎建設やハワイ州との姉妹縁組が高額すぎるなどの問題が表面化したこともあって、亀井は無念の涙を飲んだ。
 奥田県政は3期12年続いたが、少数与党だったことから、予算案など議案を提出するたびに、最大会派の自民党の了承を取り付ける必要があった。社会党の県議らが、自民党の重鎮県議に「(議案の)御説明」に回っていた。当時を知る元県議の1人は「亀井時代に比べると、こちらの要望が何でも通った。革新県政も悪くないと思った」と振り返る。

 現在の服部誠太郎知事は大学を卒業した77年に福岡県に入庁。財政課長や福祉労働部長などを歴任した。副知事だった2021年、前知事の急逝に伴い、現議長の蔵内勇夫県議(筑後市)らから担ぎ出された。25年に再選し、2期目だが、知事就任の経緯からか、蔵内議長らに頭が上がらず、「強力なリーダーシップが感じられない」と話す県議もいる。その姿は、自民党県議の意向を忖度せざるを得なかった40年ほど前の奥田県政と重なるという。このため、県議会が海外視察で税金にたかるような構図になったのかもしれない。

議長は1年交代

 いうまでもなく、県議会の代表者は議長になる。歴史を遡ると、初代議長は1879年(明治12年)3月から88年(明治21年)10月まで務めている。蔵内議長は74代目。3人が二度、議長をしているため、これまでに計71人の県議が議長に就任した。ちなみに、蔵内議長(筑後市)も2001年から1年間、議長を務めており、二度目の登板だ。「県議会のドン」とも呼ばれていることはよく知られている。

 議長には議長室(個室)が与えられ、専用車も付く。条例などによると、議長の報酬は月額111万円、副議長は98万円、議員は89万円。議員と議長の差額は22万円だが、報酬以上の価値があり、支持者へのPR効果も大きい。

 福岡県議会では、最大会派の自民党県議団(41人)が議長ポストを独占しており、1975年(昭和50年)ごろから、議長職の「1年交代」が通例となっている。次の議長を誰にするかが決まらない場合、2年近く続けた議長もいるが、一般的には、「一身上の理由」で前の議長が辞任し、6月議会で交代している。

時計の針を戻さない

 自民党県議団に所属する県議のうち、当選4回の4期生から選出されることが多い。議長ポストをめぐる争いは3期生のころから本格化する。県議の任期は4年なので、同時期の初当選組が5人以上いると、4期生でも議長になれないままの県議が出てくる。
 今回、「幹部らに金銭を渡した」と「告発」した2人の県議のうち、吉松源昭(もとあき)県議(糟屋郡)は、68年(昭和43年)5月生まれの58歳。2020年6月から1年間、議長を務めた。前後の議長は、慣例通り4期生だったが、03年に初当選した吉松県議は、5期生の議長だった。自民党県議団では、「(議長の順番は)時計の針を戻さない」という不文律があり、吉松県議は「上の方」の力を借り、議長就任にこぎつけたという。「時計の針を戻した」吉松県議に対し、次の議長の順番待ちをしていた3期生の間から相当な異論も出たと聞く。

 当時、県議団幹事長だった中尾正幸副議長(若松区)は、「県議会のドン」とされる蔵内議長から「吉松を議長に何とかできないか、と相談を受けた」と説明。「上の方」は、自民党の麻生太郎・元副総裁だったのではないかという関係者もいる。議長に就任するには、1,000万円、副議長は500万円が相場とされていたらしいが、時計の針を戻した吉松県議の「議長就任費」は相場より高額になったといわれる。

 その後、吉松県議は、自民党の現職がいる衆院選(24年10月)福岡4区に無所属で立候補したが、落選している。その後、党を離党し、補欠選挙で県議に返り咲いたが、自民党県議団に戻れず、同じように県議団を締め出された中村明彦・福岡県議(小倉北区)とともに、「自由と繁栄の会」を結成している。連日のようにメディアに登場、県政界のヒーローになったような感もあるが、「カネで議長の椅子を買った議員」ではないのか。「自民党県議団の慣例を止めないといけない」と「告発」した理由を説明しているが、「カツアゲ」とまで言って古巣を罵倒したのは本心なのか。それとも裏で糸を引く政治家に言わされているのか。「辞職して自らの責任を果たすべきだ」という関係者もいることを付記しておきたい。

事件になるのか

 福岡県議会で明るみに出た不祥事のうち、高額な公費支出や不透明な契約が明らかになった海外視察問題は、背任容疑で刑事告発されている。議長ポストをカネで買ったという証言が相次いでいる。捜査当局は大騒ぎになっている県議会の問題をどうするだろうか。

 議員の互選で議長を決める地方議会の議長選は、公職選挙法の対象ではない。特別職の地方公務員である議員が、証言通り、職務に関して金品を受け取れば贈収賄罪になる。過去には摘発された地方議会もあるが、贈賄罪の公訴時効は3年、収賄罪の公訴時効は、加重収賄で10年、その他の収賄で5年となっており、「事件化」できるかは分からない。カネを最終的に受け取った幹部が適正な届け出や手続きをしていなければ、所得税法、政治資金規正法などに抵触することも考えられるが、いずれにしろ多額の現金が誰に、どのように流れていったのかの解明が必要になる。

来春の県議選はどうなるのか

 今回の疑惑を受け、県議会は全議員87人を対象に聞き取り調査を行うことを決めている。弁護士など第三者による調査とする方針だが、だれがメンバーになるか、具体的な道筋は見えていない。

 現在の県議会議員の任期は2027年4月29日まで。来春には選挙が予定されているが、「任期満了を待たずに自主解散」の声もちらつき始めた。地方公共団体の議会は、4分の3以上が出席、5分の4以上の同意があれば、自ら解散を決議することもできるので、早く県民の禊(みそぎ)を受けようというのだろう。

 選挙になれば、金銭を受け取った、仲介したとされる自民党県議団幹部は、これまでのように再選を果たすことができるか。議長、副議長のポストを金で買いながら、刑事事件としては時効になった時期に証言を始めた県議に、県民はどのような審判をするのだろうか。

【議長ポストをめぐる金銭授受疑惑】
 西日本新聞が7月7日付けの朝刊で、吉松県議と江藤秀之県議(飯塚市・嘉穂郡)が、議長就任前に自民党県議団幹部に、合わせて約2,750万円を渡したと証言したことを報じた。「他会派への根回しのゴルフ代」などの名目だった。

 吉松県議は幹部の声だという「大金やけん。管理しておかんと」といった音声データや料亭の請求書、ゴルフ会の案内状などを「証拠」として示した。その後、別の元議長や副議長経験者も金銭の授受を証言したが、幹部らは「事実無根」と主張し、大きく食い違っている。

【西嶋太朗】

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