武雄アジア大学の事業継続性を問う(4)住民監査請求が受理 問われる補助金19.5億円の判断過程
住民監査請求が受理、9月8日までに監査結果
武雄市が(学)旭学園(佐賀市、溝上泰弘理事長)に交付した武雄アジア大学関連補助金をめぐって、7月10日に武雄市民3人が武雄市監査委員に提出していた住民監査請求について、7月24日付で受理されたことが分かった。
住民監査請求は、監査委員が所定の要件を満たすと判断して受理されたのち、監査手続きに入る。地方自治法では、監査および勧告は請求があった日から60日以内に行うこととされており、今回の請求は7月10日に提出されたため、同日を起点に数えれば、9月8日(火)までに監査結果または勧告が示される見通しだ。監査の結果、請求に理由があると認められれば、監査委員は市長その他の関係機関に対して必要な措置を講じるよう勧告する。一方、請求に理由がないと判断されれば棄却となるが、請求人が監査結果を不服とする場合は、通知を受けた日から30日以内に住民訴訟を提起することができる。
住民監査請求が問題視した判断過程
提出された住民監査請求書を基に、あらためて請求側の主張を確認しておきたい。請求側は、武雄市を通じて旭学園に交付された補助金19億4,809万円について、補助金交付決定に至る判断過程が合理性を欠き、裁量権の逸脱・濫用にあたる違法・不当な支出だったと主張している。そのうえで、市長及び財務会計責任者に対し、旭学園に対する補助金返還請求を行うよう勧告すること、返還がなされない場合には関係者に損害賠償請求を行うよう勧告することなどを求めている。
請求側は、補助金支出が違法または不当であると主張する理由として、主に以下の4点を挙げる。
①大学運営について赤字経営が続く見通しが示されていたにもかかわらず、私学助成金を含めた収支見通しについて十分な検討がなされなかったこと。
②学生確保について、旭学園が実施したアンケート調査結果に依拠するだけで、学生需要について十分な検証がなされなかったこと。
③大学設置による経済効果の試算について、実現可能性の低い前提に基づいていた可能性があること。
④武雄市の財政規模からみて極めて多額である約19.5億円の補助金額について、合理的根拠が十分に説明されていないこと。
さらに請求側は、実際の初年度入学者が定員140人を大きく下回る37人にとどまった現状を踏まえれば、市は旭学園に補助金返還を請求すべきであり、それをしていないことについても違法または不当であると主張する。
当社はこれまで、武雄アジア大学構想をめぐって①旭学園の財務内容と、②学生確保見込みの2点について繰り返し検証してきた。以下では、この2点について、当社のこれまでの検証に照らして解説する。
経常補助金比率が高い旭学園の収支構造
請求側の主張①
大学運営について赤字経営が続く見通しが示されていたにもかかわらず、私学助成金を含めた収支見通しについて十分な検討がなされなかったこと。
請求側はこれにかかわる事実経過について、「武雄市は、令和5年6月22日、大学設置に関する特別委員会を発足させた。(中略)特別委員会では、武雄アジア大学開学後に赤字が続くことが見通されており大学の財政的な収支に関する疑問が呈されたり、学生確保の見通しについて厳しい追及がなされるなどしたり、大学設置に関する経済効果について実現可能性が問われたりするなどしたが、十分な検討がなされたとは言えない状況であった」と住民監査請求書で指摘し、補助金支出が不当であったと主張する。
さて、請求側の主張の前提として、旭学園の経営について重要な指摘をしておく必要がある。それは、旭学園が収支構造において経常費等補助金に対する依存度が極めて高い学校法人であるということだ。
上に再掲した表は、旭学園の事業活動収支計算書の要約の推移を示したものだ。赤枠の24年3月期(23年度、令和5年度)の決算は、武雄市議会が補助金を含む補正予算を議決した24年6月定例会の時点で確認可能だった最新の決算である。この表を掲載した過去記事では、旭学園が教育活動収支差額と経常収支差額いずれでも長年赤字で推移している学校法人であることを指摘した。
もう一つこの表から分かる重要なことは、経常補助金比率が21年3月期以降ずっと45%を超えているということだ。23年度の全国平均の経常補助金比率は31.0%であり、旭学園の教育活動収入が経常費等補助金に大きく支えられていることが分かる。しかも、ずっと赤字であることは、学校法人全体が必要とする経常経費に対して経常費等補助金の収入の見込みが崩れれば、経営の安定性に影響が及びやすい収支構造であることを示している。
そのような状況にある旭学園が、新たに四年制大学を開設するとなれば、新設大学の私学助成金がどの程度見込まれるかは、武雄アジア大学ばかりでなく旭学園全体の経営安定にとって重要な要素となる。そして、その私学助成金の交付額は、学生確保数により大きく左右される。
旭学園にとっての「学生確保見込み」の重大さ
請求側の主張②
学生確保について、旭学園が実施したアンケート調査結果に依拠するだけで、学生需要について十分な検証がなされなかったこと。
大学運営において、学生数は収支計画の根幹だ。新設大学の場合、最初の4年間は学費収入が学校運営を支える屋台骨となる。そして、開設後5年目以降に初めて交付対象となる私学助成金も、収容定員に対する在籍学生数の割合(定員充足率)によって増減し、充足率が著しく低い場合は不交付となり得る。したがって、学生数の確保見込みは、学費収入だけでなく、将来の補助金収入の見通しにも直結する問題である。
入学生数が見込みを大きく下回ることは、短期的な学費収入の不足とともに、中長期的な私学助成金収入の減少をも意味する。それは経常費等補助金への依存度が高い旭学園にとって、学生確保見込みの甘さが将来の事業継続性を大きく左右しかねないことを意味する。もし武雄市が武雄アジア大学の構想段階で、このような旭学園の収益構造を十分に把握していれば、旭学園における学生確保見込み精度の重要さについても認識することはできたはずだ。
武雄市は「学生確保見込み」の判断を旭学園に丸投げ
ところが、当社の過去記事で見た通り、24年6月定例会において小松市長は、学生確保見込みについて、「(学生確保見込みを調査する)アンケートについて、現在、集計の段階ではありますけれども、武雄アジア大学を第1志望として受験をする、かつ、合格したら入学するという回答をした生徒数につきましては、認可申請に必要といわれております入学定員を超えたというふうに、最新の情報として連絡があっている」と答弁し、旭学園からの報告のみをもって学生確保見込みとして十分との認識を示していた。
また、当社が25年5月に武雄市の担当部署である企画政策課に取材した際にも、市の担当者は、アンケートの具体的な内容については把握していないこと、アンケートは大学の設置認可申請のために実施されたものであり公開を前提としたものではないとして、旭学園に結果の公開を求める予定はないこと、そして、学生確保の見込みについても、旭学園からの「アンケートの結果、定員を満たす見込み」との回答をもって十分との判断を示していた。
このような武雄市の姿勢に見えるのは、武雄アジア大学構想において学生確保見込みの精度がいかに重要であるかについての認識不足であり、そのような認識にとどまった理由としては、当社の過去記事で指摘してきたように、武雄市が構想段階から旭学園の財務について積極的に認識を深めようとしなかった結果と考えざるを得ない。
補助金交付側に問われる検証責任
武雄アジア大学構想の基本構図は、既存校の運営において経常補助金比率が高い旭学園が、総事業費36億円規模のうち19.5億円を武雄市と佐賀県の補助金に依存する形で、新たに四年制大学を設置するというものだった。この構想は、学費収入と将来の私学助成金による収支計画が十分に担保されない場合、財務状況の安定性を損ないかねないものだった。そのため、補助金を交付する武雄市は、旭学園の財務状況と学生確保見込みを十分に確認すべき立場にあったはずだ。
しかし、武雄市は補助金交付を判断する過程で、旭学園側の報告を重要な根拠として扱った。これは、補助金の交付を受ける側である旭学園が示した学生確保見込みを、補助金を出す側である武雄市がどこまで客観的に検証したのかという問題であり、住民監査請求が「判断過程の合理性」を問うている核心部分でもある。
本件は、単なる大学誘致の成否にとどまらない。自治体が多額の補助金を特定の民間主体に交付する際、相手方の財務状況や事業計画をどこまで検証すべきかという問題でもある。武雄市監査委員がどのような判断を示すのか、注目される。
(つづく)
【寺村朋輝】









