今本工業(株)
代表取締役 今本健一 氏

鉄筋工事を手がける今本工業(株)が、7月に新社屋と新工場を稼働させた。新たな拠点づくりは、単なる設備更新ではない。祖父の代から受け継いできた土地への思いと、職人が安心して長く働ける環境を整えたいという、代表取締役・今本健一氏の強い信念がかたちになったものだ。新社屋建設の経緯や、新工場に込めた思いについて話を聞いた。
悲願の現地建替え
──新社屋・新工場建設のきっかけを教えてください。
今本 以前から「いつかは建て替えたい」と考えていました。社屋は老朽化していましたし、工場も屋根がなく、ほぼ野ざらしの状態でした。受注量も年々増え、会社の規模も大きくなってきたことから、施設面で限界を感じていました。
ただ、この場所は市街化調整区域だったため、先代のころから建替えを検討しても、実現できませんでした。私自身も半ばあきらめていた時期がありましたが、幾度も行政への相談を重ね、多くの方々に力を貸していただいたことで、ようやく新社屋と新工場の建設を実現することができました。
銀行やゼネコンの皆さまにも、本当に支えていただきました。これまで積み重ねてきた実績や取引関係に加え、「今本工業なら将来性がある」と評価していただけたことが大きかったと思います。多くの方々の協力があって完成した社屋です。
──この場所への思い入れも強かったそうですね。
今本 そうです。この土地は、祖父が鉄筋工事業を始めた場所でもあります。もともと祖父は、ここから車で10数分離れた大手製造会社の隣で鉄筋業を営んでいましたが、その製造会社の工場拡張にともなって当社が移転することになり、代替地として現在の場所へ移ってきました。この場所には、会社の歴史そのものが詰まっています。祖父が築き、父や叔父が守り、私が引き継いできた会社です。だからこそ、新しい場所へ移るという選択肢は考えませんでした。この土地で新社屋と新工場を建てることに意味がありましたし、それが創業者への恩返しにもなると思っています。私にとっては、「この場所で新しい社屋を建てる」ということ自体が1つの悲願でした。
立地条件も非常に恵まれています。九州自動車道八幡IC・北九州高速道路(都市高)金剛ICから車で約1分というアクセスの良さに加え、周囲に住宅が少なく、道路の突きあたりに位置しています。鉄筋加工では音の発生は付きものですが、ここなら周囲へ過度に気を遣うことなく、職人が仕事に集中できる環境があります。これほど鉄筋工場に適した土地はなかなかありません。

働く環境への投資
──完成した新工場に対する社員の反応は、いかがですか。
今本 みんな喜んでくれていますが、一番喜んでいるのは、工場で鉄筋加工を担当する職人たちでしょうね。以前は屋根がないなかでの作業が中心でしたから、雨の日はもちろん、真夏は直射日光に晒され、冬は冷たい風を受けながら仕事をしていました。熱中症対策にも毎年苦労していましたし、天候によって作業効率も大きく左右されていました。雨だから仕事が進まない、暑いから作業効率が落ちるという環境を、できるだけなくしたいと強く思っていました。
今回、新工場を整備したことで、こうした環境は大きく改善されました。天候に左右されず、年間を通じて安定した環境で仕事ができるようになったことは、職人の体調管理だけでなく、仕事へのモチベーション向上にもつながっています。
私はこれを、「労働環境の平準化」だと考えています。毎日同じ環境で仕事ができることは、安全面だけでなく、生産性の向上にもつながります。職人が気持ち良く働ける環境を整えることが、会社にとっても一番大切な投資だと思っています。鉄筋工事は、人がつくる仕事です。どれだけ機械化が進んでも、最後は職人の技術が品質を左右します。だからこそ、人への投資が、そのまま品質への投資になると考えています。私にとって、新社屋・新工場への投資は、設備への投資ではなく「人への投資」です。それが結果として、お客さまにより良い品質を提供し、会社の信頼をさらに高めていくことにつながると信じています。
建設業は、人材不足が深刻な業界です。そのなかで人を採用し、定着してもらうためには、給与だけでは十分ではありません。「この会社なら長く働ける」「ここで技術を磨きたい」と思ってもらえる環境づくりが必要です。新工場は、その第一歩だと考えています。
職人目線の新社屋
──新社屋では、どのような点にこだわりましたか。
今本 現場で汗を流す職人が快適に働けることを、第一に考えました。社屋は、斜面の高低差を生かした構造になっています。道路側から見ると正面玄関と事務所が1階にありますが、一段低い場所にある工場側から見ると、そのフロアは2階になります。工場からは地下1階へ直接入ることができ、作業を終えた職人がスムーズに休憩や着替えを行える動線を意識しました。
地下1階には休憩室のほか、男女別の更衣室やトイレ、シャワールームを2室設けています。さらに、洗濯機3台とガス乾燥機3台を備えた洗濯ルームも整備しました。鉄筋工事は、汗や汚れが避けられない仕事です。工場や現場から戻ってすぐにシャワーを浴び、作業着を洗濯して帰宅できる環境を整えることで、職人が気持ち良く働ける職場を目指しました。
現在、当社には女性職人も1人在籍しています。今後さらに女性が活躍する時代になることを見据え、更衣室やトイレなども女性が安心して利用できる環境を整えました。職人不足が続くなか、性別を問わず安心して働ける会社であることが大切だと考えています。

──新工場の特徴は何でしょう。
今本 一般的な工場は壁で囲うことが多いですが、当社ではあえて一部の壁を設けませんでした。鉄筋加工では鉄粉が舞いますし、機械の熱もこもります。壁をなくすことで自然に風が抜け、夏場でも作業環境を改善できます。空調設備だけに頼るのではなく、建物そのものの構造で、働きやすい環境をつくることを意識しました。
また、事務所から工場全体が見渡せる設計にもしています。どこで誰がどのような作業をしているのかを把握でき、安全管理や危機管理にも役立ちます。同時に、「見られている」という適度な緊張感が、品質や安全への意識向上にもつながると考えています。
次世代へ引き継ぐ
──今回の設備投資は、将来も見据えたものなのでしょうか。
今本 もちろんです。私がいつまでも会社を経営するわけではありません。将来、次の世代へ会社を引き継ぐことを考えたとき、古い工場や社屋よりも、しっかりした経営基盤や働きやすい環境が整っている会社のほうが、安心してバトンを渡せます。会社としての土台を今のうちにつくっておくことも、経営者の大切な役割だと思っています。
──今後の展望を教えてください。
今本 鉄筋工事業は、これからも会社の柱です。ただ、それだけに頼るつもりはありません。今後は鉄筋工事だけでなく、鉄筋工事に関連する分野にも事業を広げたいと考えています。まだ計画段階ですが、新たな事業を展開できれば、会社としての安定性はさらに高まります。
鉄筋工事業だけでは建設工程の影響を受けやすく、どうしても閑散期があります。しかし、当社は先代の時代から、「職人を1日たりとも休ませない」という思いで仕事を続けてきました。元請企業や協力会社の支えもあり、何とか実現できていますが将来を考えれば、仕事が途切れない保証はありません。だからこそ、閑散期にも対応できる仕事を増やしたい。そして、逆に仕事が落ち着いたときには、「今はしっかり休んでください」といえる会社にしたいと思っています。
私は社員によく「仕事に大小は関係ない」と話しています。どんな仕事でも、いただけること自体がありがたい。社員には「どんな現場でも全力で取り組めば、必ず次につながる」と話しています。1つひとつの仕事を大切にする姿勢が、お客さまとの信頼関係を築き、それが会社の成長につながってきています。
職人が誇りをもてる業界へ
──最後に、鉄筋工事業界の未来についてお聞かせください。
今本 現在、(公社)全国鉄筋工事業協会の岩田正吾会長や、九州鉄筋工事業団体連合会の宮村博良会長を中心に、鉄筋工事業の社会的地位向上に向けた取り組みが進められています。私もその取り組みにしっかりと歩調を合わせ、鉄筋工事業の地位向上に力を尽くしていきたいと思っています。
これまでは、元請企業が作成した工程表に従って仕事を進めることが当たり前でした。しかし今後は、専門工事業者も主体的に工程づくりへ関わり、「土日は休みたい」「この工程なら品質を確保できる」といった、現場の声が反映される業界へと変わっていく必要があります。
そのためにも、まずは自分たちの足元から変えていくことが大切だと考えています。新社屋・新工場は完成しましたが、これはゴールではありません。職人が誇りをもって働き、次の世代へ技術をつないでいける会社づくりを、これからも一歩ずつ進めていきたいと思います。
【内山義之】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:今本健一
所在地:北九州市八幡西区野面2008-4
設 立:1972年10月
資本金:1,000万円
URL:https://imamotokogyo.com/
<プロフィール>
今本健一(いまもと・けんいち)
1984年8月生まれ、北九州市出身。社会人となり複数の会社勤務を経て、2004年、今本工業(株)に入社。19年に取締役に就任、21年6月に代表取締役に就任した。技能職団体連合会の青年部に所属し、小学校への出前授業などに携わる。

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