【特別インタビュー】ガザを「見捨てない」ために 映画で伝える、戦争に奪われた人間の姿

ユナイテッドピープル(株)
代表取締役 関根健次 氏

ガザ

 2023年10月以降、ガザは壊滅的な被害を受け、停戦後も多くの人々が安全な水や医療、住まいを奪われたまま生活を続けている。一方で、外国人ジャーナリストの入域は制限され、現地からの情報発信も困難さを増している。惨状に「慣れる」ことに抗い、遠い日本から関心を持ち続けることにはどのような意味があるのか。映画配給や写真展を通じてガザの現実を伝えるユナイテッドピープル(株)の代表取締役・関根健次氏に聞いた。

ガザとの出会い 子どもの夢を歪める現実

ユナイテッドピープル(株) 代表取締役 関根健次 氏
ユナイテッドピープル(株)
代表取締役 関根健次 氏

    ──ガザとの関係、その始まりから聞かせてください。

 関根健次氏(以下、関根) ガザとの出会いは、大学の卒業旅行で世界半周の旅をしていたときのことです。1999年1月、エルサレムで福岡市出身の藤永香織さんという方と偶然出会いました。藤永さんは当時、ガザ地区でボランティア活動をされており、「ガザに来ないか」と誘っていただいたのです。それが、私が旅行者として初めてガザ地区に入ったきっかけでした。

 当時のガザ地区は、オスロ合意からしばらく経った時期で、情勢は比較的安定しており、平和への期待が漂っていました。危険を感じることはなく、むしろガザの人たちの優しさが強く印象に残っています。当時できたばかりのガザ国際空港にも行きました。パレスチナ人にとって初めての国際空港で、管制塔に入れていただき、エジプトから飛んできたばかりのパイロットとも話をしたことも覚えています。現地の人たちは、自分たちの国際空港ができたことを心から喜んでいました。私にとっても、非常に印象深い体験でした。

 ただ、その一方で、ガザ地区で子どもたちにインタビューをしたとき、ある少年が「将来の夢はユダヤ人を大虐殺することだ」と真剣に語ったのです。当時の私は、パレスチナ・イスラエル間の紛争についてほとんど予備知識がなかったため、大きな衝撃を受けました。話を聞くと、その少年は4歳のとき、自分の叔母が目の前でイスラエル兵に銃殺されるのを見たといいます。家族を殺された体験が、悲しみを憎しみに変えてしまっていたのです。

 私は、何も知らない旅行者として入ったガザで、世界の不条理な現実に出会いました。子どもが子どもらしい夢を描けない。戦争や紛争が、子どもたちの夢を歪めてしまう。その現実を目の当たりにしたことが、現在のユナイテッドピープルの活動につながっています。

 私たちはガザに限らず、世界の戦争や紛争の解決、平和の実現に向けて映画を配給しています。その原点の1つが、大学を卒業したばかりのころに訪れたガザでの体験です。あの少年は、紛争の犠牲者だったと思います。もし家族を殺されていなければ、誰かを憎み、殺したいという夢を抱くことはなかったはずです。戦争や紛争がなくなれば、彼を含めた子どもたちも、世界中の子どもたちと同じように、子どもらしい夢を描ける。そうした平和の土壌をつくることが、ユナイテッドピープルの大きな目的です。

抑圧の蓄積から10月7日へ

©Fatma Hassona
※画像の人物はファトマ・ハッスーナではありません。

 ──その後、ガザをめぐる状況はどのように変わりましたか。

 関根 私が最初にガザを訪問した当時も平和的な雰囲気があったものの、イスラエルがパレスチナ人を抑圧する構造は続いていました。オスロ合意後も、パレスチナ、とくにヨルダン川西岸地区では一部で状況が改善した面はあったかもしれませんが、占領の構造は残り、入植問題やパレスチナ人の土地の収奪は止まっていませんでした。

 そうした占領と抑圧の構造のなかで、日々虐げられてきたパレスチナ人の側に蓄積した圧力が、ある意味で爆発するようなかたちになった。その最も先鋭的な存在として出てきたのが、ハマスの軍事部門の攻撃だったのだと思います。

 2023年10月7日に起こったハマスによるイスラエルへの大規模な奇襲攻撃は、突然起きた出来事ではあります。しかし、その背景には、長年にわたって虐げられてきた人々の社会的な抑圧があったと見ています。

 ──ハマスの攻撃をきっかけとしてイスラエル軍はガザ地区への空爆と大規模な地上侵攻を開始し、その事件の直後からユナイテッドピープルもガザの現状について数々の情報発信をしてきました。しかし、それから2年半近くが経過しても、なおガザでは悲惨な状況が続いています。

 関根 このような状況がいまだに続いている現実を信じがたいというのが率直な思いです。ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃について、私は当然否定する立場ですし、あらゆる暴力に反対しています。

 ただ、その反撃としてのイスラエルによるガザ攻撃が、ここまで長期化するとはまったく想像していませんでした。仮に反撃的な攻撃があったとしても、1カ月、2カ月程度で収束するだろうと思っていました。しかし実際には、途切れることなく、際限のない攻撃がガザ地区に続きました。その結果、被害はガザ、パレスチナ側に極めて不均衡なかたちで集中しました。

「底なし地獄」と化したガザ 崩れる国際秩序

©Sepideh Farsi Reves d'Eau Productions
©Sepideh Farsi Reves d'Eau Productions

 関根 私はこれまで、ガザ地区はもはや「底なし地獄」になってしまった、と何度か表現してきました。人間が住める場所とはいえないほど、あらゆるものが奪われ続けてきたからです。

 現在はかろうじて停戦という状況になっていますが、停戦後も街には瓦礫の山が広がっています。建物の8割以上が破壊され、学校についても9割以上が全壊または一部損壊したとされています。子どもたちは学ぶ機会を奪われました。現地では医薬品、機能する病院、建材、安全な水など、あらゆる物資が不足しています。多くの人がテントでの生活を余儀なくされ、安全な水を手に入れることにも苦労している。繰り返しになりますが、本当に信じがたい状況になってしまったと思います。

 この状況を考えるうえで、イスラエルの後ろ盾としてのアメリカの存在は大きいと思います。国際法違反とも指摘される攻撃が続くなかで、それを十分に止められなかった、あるいは咎めることができなかったという点では、世界全体にも責任があるのではないでしょうか。

 国連のグテーレス事務総長は26年のはじめに、現在の世界は「法の支配」から「ジャングルの法」が支配する世界に入りつつある、という趣旨の発言をしています。無秩序な世界に入ってしまったということです。その延長線上に、イランへのアメリカ・イスラエルの攻撃や、イスラエルによるレバノンへの攻撃もあると見ています。

 レバノンでも多数の死者が出ており、ガザと同じように、医療従事者が攻撃され、水道などのインフラが破壊される事態が起きています。世界全体として、国際秩序や法の支配を取り戻さなければ、ガザで起きたことがほかの地域にも広がり続ける。人類全体にとって、非常に危機的な歴史的局面に入ってしまったと感じています。

閉ざされるガザ 封じられる現地の声

©Sepideh Farsi Reves d'Eau Productions
©Sepideh Farsi Reves d'Eau Productions
©Sepideh Farsi Reves d'Eau Productions
©Sepideh Farsi Reves d'Eau Productions

    ──現地で悲惨な状況が続く一方で、私たちは日本から、現地の状況や紛争を取り巻く各国の動きをさまざまなメディアを通じて見聞きしています。しかし同時に、一種の情報戦にも晒されていると思います。情報発信をめぐる変化について、どのように見ていますか。

 関根 現在も私はさまざまな方法で現地から情報を得ています。現地の人と直接やり取りすることもありますし、ガザから脱出した人から話を聞いたこともあります。また、ガザに出入りしている日本人、たとえば国際赤十字に所属する日本人医師にインタビューしたこともあります。この2年半、ガザ地区とは何らかのかたちで接点をもち、情報を入手し続けてきました。

 しかし、現地からの情報は限られるようになっています。とくに危惧していることは、イスラエル政府によって、外国からのガザ入域が引き続き禁止されていることです。日本を含む海外のジャーナリストが、自由にガザに入ることができません。唯一の入域手段は、イスラエル軍に同行する従軍取材のようなかたちです。日本の新聞社でも、今年に入って毎日新聞の記者がイスラエル軍に同行してガザに入った例があります。ただ、そのかたちでは、イスラエル政府や軍が見せたい場所しか見ることができません。本来の意味でのジャーナリズムは難しくなります。

 私たちに必要なのは、国際的なジャーナリストが客観的な目でガザに入り、そこで起きていること、起きたことを取材し、レポートすることです。たとえば死者数についても、「ガザ保健省によると」という前置きがどうしても付きます。そこに外部の目が入ることで、数字の正確性や客観性を検証できるようになります。

 現地で直接インタビューし、調査報道を行うことの重要性は非常に大きい。だからこそ、日本だけでなく世界中のメディアが、イスラエル政府に対してガザ入域を認めるよう働きかけることが重要だと思います。いま、ガザ内部の状況を知るための数少ない手段は、ガザにいるジャーナリストから情報を得ることです。しかし、そのジャーナリストたちもイスラエル軍による攻撃の対象になっている状況です。

関心を持ち続けることが現地の希望につながる

©Fatma Hassona
※画像の人物はファトマ・ハッスーナではありません。

 ──アルジャジーラのジャーナリストがイスラエル軍によって意図的に殺害されているとの報道もあります。イスラエルによる情報発信の封殺が強化されているように見えます。一方で、戦争が2年半近く続くなかで、私たちの側にも別の問題が生じているように感じます。ガザの情報はインターネットやニュースを通じて見聞きできますが、悲惨な映像を見ることに慣れてしまい、それに対する無力感にも慣れてしまっている。悲惨な状況を当たり前のものとして見てしまうような恐ろしさがあります。

 関根 ガザの現実が私たちにとって当たり前になってしまったことを、「当たり前であってはいけない」と問い続けなければならないと思います。私は現地に入れないので、ガザの人たちの感情を完全に代弁することはできません。ただ、外の世界の人たちに見捨てられたと感じることは、絶望よりもさらに深い絶望につながるのではないかと思います。逆に、遠い日本の人たちが自分たちのことを気にかけてくれていると伝われば、それは生きる希望につながるはずです。

 最近、2人の日本人女性に出会いました。2人はNGOを通じた寄付ではなく、SNSで直接知り合ったガザの人に送金していました。1人は、学校に通いたいが学費が足りないという生徒に送金していました。もう1人は、医療従事者に送金していました。その人に送金することで、現地で医療を届けることができるわけです。ガザの人たちは外の世界の人とつながることで、生きる希望が湧いてくる。支援は、単に食べ物や物資に代わるだけではありません。生きる支えにもなるのです。そのことを、私はその2人の行動から強く感じました。すばらしい行動だと思います。

 1人ひとりの力は、本当は絶大です。1人が1人の命を救うことができたなら、それはとてつもなく大きな成功です。自分ができる範囲で行動する。その成功体験が連鎖していくことを期待しています。その前提となるのは、関心を持ち続けることです。そして関心をもってもらうためには、知る機会をいかにつくるかが重要です。

映画と写真で1人の人間の姿を伝える

©Fatma Hassona
©Fatma Hassona

    関根 ユナイテッドピープルも、映画を通じてガザで起きていることを伝えるという意味で、メディアの役割の一端を担っています。これまでガザ地区に関する映画を5作品配給してきました。最新作が『手に魂を込め、歩いてみれば』です。ガザで生きていた、当時24歳の女性フォトジャーナリストを描いたドキュメンタリーです。この作品でも、映画監督はガザのなかに入ることができませんでした。そのため、ガザにいたファトマ・ハッスーナさんとのビデオ通話を通じて映画をつくりました。ビデオ通話によって、ガザの人々の暮らしをうかがい知ることはできたわけです。

©Fatma Hassona
©Fatma Hassona

    しかし残念ながら、ファトマさんは、この映画が25年のカンヌ映画祭で上映されることが決まった翌日、イスラエル軍の空爆で殺害されました。ファトマさんは、フォトジャーナリストであり写真家でもありました。彼女が残した写真をお預かりしており、昨年から今年いっぱいにかけて、全国10カ所程度で写真展を展開しています。

 ユナイテッドピープルはこれからも映画や写真を通じて、ガザについて知る機会をつくり続けたいと思っています。そのときに大切なのは、「ガザの人」という前置きから一度離れ、1人の人間として見てもらうことです。そこには、私たちと何も変わらない人間がいて、家族がいて、子どもたちがいる。その人たちが戦争の被害に遭っている。そのことを映画、写真、ジャーナリズムを通じて伝えることができれば、同じ人間として共感する心が生まれるはずです。人間には本来、そうした共感する力があると思っています。だからこそ、伝え続けることをあきらめたくありません。

 そして、伝わった先に行動があります。先ほどお話しした2人のように、直接ガザの人とつながって支援する方法もあります。そうした機会がなければ、日本のNGOのなかにも、現在も現地で活動を続けている団体があります。そうしたNGOを支援することも選択肢です。また、ユナイテッドピープルが配給している映画の上映会を開いていただくことも、大きな力になります。場所をもっている会社や、カフェを経営している方などが、映画を上映し、知る機会をつくる。そうした1つひとつの取り組みが、伝える担い手を増やしていくのだと思います。

【寺村朋輝】


<PROFILE>
関根健次
(せきね・けんじ)
ユナイテッドピープル(株)代表取締役。(一社)国際平和映像祭代表理事、認定NPO法人PEACE DAY 理事。ベロイト大学経済学部卒。大学卒業旅行中に偶然訪れたガザ地区で紛争の現実に触れ、平和の実現を人生のミッションと定める。2002年、「人と人をつなぎ、世界の課題解決に貢献する」を理念に、戦争、貧困、飢餓、気候変動などのグローバルな課題に取り組むユナイテッドピープル(株)を設立。09年より映画事業を開始し、14年には映画上映会プラットフォーム「cinemo(シネモ)」を立ち上げる。映画『もったいないキッチン』プロデューサー。21年9月21日、ピースデーにワイン事業「ユナイテッドピープルワイン」をスタート。北海道余市町にて、100カ国出身の人々が国境や宗教を越えて協働する「余市ピースワイン・プロジェクト」に挑戦中。


<COMPANY INFORMATION>
ユナイテッドピープル(株)

代 表:関根健次
所在地:福岡県糸島市二丈浜窪491-1
設 立:2002年7月
資本金:1,250万円

手に魂を込め、歩いてみれば<INFORMATION>
手に魂を込め、歩いてみれば

2025年12月5日(金)
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか
全国順次ロードショー
上映予定は下記の専用ホームページからご確認ください。
https://unitedpeople.jp/put/

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