多死社会を支える「終活ビジネス」 家族に代わる終活産業の成熟が求められる
拡大する「多死社会」
日本はすでに本格的な「多死社会」に入っている。
厚生労働省の人口動態統計によると、2024年の日本人の死亡数は160万5,378人に上った。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計では、40年ごろに年間167万人程度でピークを迎えると見込まれている。
だが、多死社会の問題は単に亡くなる人の数が増えることだけではない。家族のかたちそのものも変わっている。これまで高齢者が病院へ入院したり、介護施設へ入居したりするとき、身元保証や緊急時の連絡、住居や財産の整理、さらに死亡後の葬儀や各種契約の解約などは、家族や親族が担うことが暗黙の前提だった。
しかし、独居高齢者が増え、子どもがいても遠方で暮らす家庭が珍しくなくなれば、その前提は成り立たなくなる。高齢者本人にとっても、自分が元気なうちに住まいや財産をどうするのか、病気や認知症になった後を誰に託すのか、亡くなった後の手続きを誰に頼むのかという問題は、これまで以上に切実になる。
「人生の終わり」を誰が支えるのか。それ自体が社会課題になり始めている。その受け皿の1つとして、民間の終活サービスが広がっている。
終活の「入口」になる
その1つの取り組みが、全国で展開するシニアライフ相談サロン「めーぷる」だ。
めーぷるは(一社)シニアライフカウンセラー協会が運営する相談ネットワークで、不動産、士業、相続、介護、医療、遺品整理、葬儀などさまざまな分野の専門家が連携する。福岡中央店のサイトでは全国155拠点以上としている。
福岡市中央区で「めーぷる福岡中央店」を運営するのが代表の崎詰亮氏だ。崎詰氏は17~18年にわたり不動産売買に携わり、相続にともなう不動産処分などを数多く扱ってきた。その経験から、相続や終活の問題は不動産だけでは解決できないことを実感してきたという。
たとえば、高齢者が自宅を離れて介護施設へ入居する場合、自宅を売却して入居資金に充てることがある。しかし実際には、その前後に家財の整理や身元保証、財産管理などが必要となり、その先には遺言や相続、葬儀、死後事務の問題も待っている。終活では、法律、不動産、税務、介護など複数の問題が1人の生活のなかで同時に発生する。一方、相談する側が最初から「司法書士に相談すべきなのか」「不動産会社に行くべきなのか」「身元保証が必要なのか」と自ら問題を整理できるとは限らない。
めーぷるでは相談を受けると、まず家族構成や資産、住まいなど相談者の状況を整理し、必要に応じて司法書士、税理士、弁護士、葬儀社、遺品整理業者などにつなぎ、相談窓口として伴走する。すべてのサービスを1社で提供するというより、相談者が抱える問題を整理し、それぞれの専門家につなぐ「終活の入口」としての役割を担う仕組みだ。
崎詰氏の場合は、とくに不動産が強みとなる。施設への入居にともなう自宅売却、相続後に残された空き家の処分、地主が保有する土地を売るのか残すのかといった相談まで扱う。従来の不動産業が「売りたい」という需要が顕在化したところから始まるのに対し、終活や相続という、そのさらに手前の段階から生活全体の問題に関わることになる。
地域に相談窓口を増やす
めーぷるが現在重視しているのが、加盟店ネットワークの拡大だ。崎詰氏によれば、めーぷるは首都圏を中心に店舗網を広げてきた一方、九州ではまだ拠点が少ない。福岡県内でも新たな加盟を検討する事業者から相談が寄せられており、南区や直方などで新たな展開も進んでいるという。
終活支援は、身近な地域で相談を受けることが重要である一方、解決には複数の専門家の連携が必要になる。高齢者本人やその家族にとっても、遠方にある専門機関より、普段生活する地域に「まず相談できる場所」があることの意味は大きい。
一般的なフランチャイズであれば、近隣への出店は加盟店同士の競合につながりかねない。しかし、めーぷるの場合、加盟店ごとに本業や得意分野が異なるため、拠点が増えることが専門性を補完し合うネットワークの拡大にもつながる。つまり加盟店を増やすことは、単に店舗数を増やすだけではない。終活という複合的な課題について、地域の事業者がそれぞれの専門性を持ち寄り、相談を受け止める網を広げることでもある。
一方、そのためには加盟する事業者の質も問われる。崎詰氏によれば、めーぷるでは加盟時の研修に加え、定例会などを通じてコンプライアンスや倫理について共有している。また加盟者自身が利用者から遺贈寄付を受けることを禁止し、身元保証などで扱う預り金についても信託を利用する仕組みを採っているという。
崎詰氏は、「これから『大相続時代』を迎えるなかで、1つの専門分野だけでは解決できない課題がますます増えていきます。終活は家族同士では話しにくいことも多く、第三者が間に入ることで話が進むこともあります。だからこそ、『敷居の低い専門家』が身近な街のなかにいることが大切です。福岡でも、めーぷるの仲間がどんどん増えていけばよいと思っています」と話す。
ビジネスだからこそ問われる「信用」
終活を社会的なサービスとして持続させるには、ボランティアや家族の善意だけに頼ることはできない。相談や各種手続き、専門家との調整、身元保証や死後事務には人手と時間がかかり、それを継続して提供するには適切な対価を得るビジネスとして成立させる必要がある。
一方で、利用者の多くは高齢者であり、事業者は財産状況や家族関係など極めて重要な情報に触れ、場合によっては財産管理や死後の手続きにも深く関わる。高齢者を支えるサービスを持続可能なビジネスにすることと、そのビジネスに十分な信用をもたせること。この2つを両立できるかが、今後の終活産業に問われている。
終活関連サービスの広がりを受け、政府もルール整備に動き始めている。政府は24年6月、「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を策定した。対象となるのは、高齢者らに対して身元保証、日常生活支援、死後事務などを行う事業者だ。ガイドラインでは、契約内容や料金の説明、預り金の管理、寄付・遺贈への対応など、利用者保護の観点から事業者が留意すべき事項を整理している。
家族が担ってきた役割の一部を、地域の事業者が仕事として引き受ける。多死社会の進展は、葬儀や相続市場を拡大させるだけではない。「人生の終わり」を支える仕組みそのものを社会がつくり直すことを迫っている。その担い手となる終活産業が、利用者の信用を得られるルールと倫理を備えながら、社会インフラの1つとして成熟していけるか。めーぷるのような地域の取り組みは、その可能性を探る1つの試みといえるだろう。
【寺村朋輝】
<COMPANY INFORMATION>
めーぷる 福岡中央店
代 表:崎詰亮氏
所在地:福岡市中央区平尾5-4-2
TEL:0120-605-339
受付:平日 午前9時半~午後5時半 (予約で夜間や土日も対応可能)









