選挙争点になる皇室典範改正

政治経済学者 植草一秀

 

 夏の甲子園高校野球も決勝を終えた。夏休みも終盤。宿題を終えていない子どもが焦り始める時期になった。国会でもたくさんの宿題が残されている。強引に会期を閉じて夏休みに突入したが未解決事案が山積みだ。

 最大の問題は高市首相問題。多くの疑惑が残されたまま。国会の会期を閉じれば逃げ切れると考えてはいけない。
経歴詐称
誹謗中傷動画
サナエトークン
タオル無料配布
統一協会問題
が残されている。

 法令上の明白な問題はサナエトークン。暗号資産としてサナエトークンが発行された。しかし、発行体は金融庁の認可を得ていなかった。これは資金決済法に抵触する。3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその両方が科せられる重大犯罪。

 金融庁は無認可で暗号資産を発行、媒介した事業者を刑事告発する責務を負う。ところが、金融庁が動かない。高市首相に関係する事案だから刑事告発しないのか。そのようなことが許されてよいわけがない。

 高市首相はかつて米国のシュローダー下院議員の事務所に研修生として在籍した。無給の研修生の立場である。この経歴を選挙公報に米国連邦議会立法調査官として掲載した。米国連邦議会立法調査官は米国議会が雇用する正規の公務員の官職名である。一議員の無給の研修生とはまったく異なる。

 英語の肩書を日本語に訳す際に識者と相談したとのことだが、自分自身の経歴を選挙公報に掲載する場合に、経歴について最終責任を負うのは自分自身。誰に相談しても自由だが公報に掲載する場合の責任は自分自身が負う。あたりまえのことだ。識者に責任転嫁できない。

 誹謗中傷動画とサナエトークンの首謀者は松井健氏とされる。松井健氏について高市首相は自分自身も秘書の木下剛志氏も全然知らない人だと国会で答弁した。昨年12月17日のオンライン会議に木下氏が松井氏と同席したことを認めていたことについて国会で質問されると、週刊誌への木下氏の回答書の記載内容が間違いであると高市首相が答弁した。ところが、その後、回答書記載の内容は真実であったと高市首相が修正した。

 高市首相は国会に陳述書を提出したが、その記載内容に不備が多い。週刊現代が得た木下剛志氏からの多くの回答書に記載されている内容と時系列的に食い違うことが記述されていることが明らかにされている。真相を明らかにするためには松井健氏と木下剛志氏の国会招致が必要だ。

 誹謗中傷動画も高市首相が言葉で否定しているだけで事実を否定できる十分な証拠が示されているわけではない。なかったことをなかったと証明するのは難しいと言うが、疑惑が残っている以上、関係者を招致して国会の場で事実関係を明らかにするべきだ。

 国会の会期が終了して野党も夏休み気分かもしれない。しかし、重大な問題について野党が責任をもって追及し続ける気迫を持たなければ与党の悪事を明らかにすることなどできない。

 特別国会では皇室典範改正が強行されたが、およそ「国民の総意」からかけ離れている。今後の国政選挙に際して、皇室典範再改正問題が大きな争点として浮上するだろう。「長子による皇位継承」を皇室典範に明記する改正が必要不可欠だ。

 現行の皇室典範は「男系男子による皇位継承」を定めている。
第一条 皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。
他方、憲法の規定は第二条にある。
第二条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

 憲法は「世襲」としか定めていないが、皇室典範が「男系男子による継承」を定めている。敗戦後、天皇制を存続させるかどうかが最大の焦点だった。GHQのマッカーサーの方針を背景に天皇制が存続した。ただし、敗戦後の天皇制は戦前のものとはまったく異なる。

 日本国憲法は第一条で天皇制について次の規定を置いた。
第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
天皇の地位は「主権の存する日本国民の総意に基く」とした。

 天皇制は「主権の存する日本国民の総意」の上にしか成り立ち得ない。日本国憲法の下で皇室典範を定める際に「男系男子」についての論議があった。男女平等の原則に反するとの主張も国会で示されている。しかし、十分な審議が行われずに「男系男子による継承」が残存した。「残存した」という意味は、これが「明治の残骸」ということである。

 もともと皇位継承に「男系男子による継承」という「規則」は存在しなかった。明治に「創作」されたのが「男系男子による継承」である。天皇家の系譜に「万世一系の男系男子による継承」という歴史事実は存在しない。これが歴史学の定説である。

 天皇家の系譜が途中で断絶したとの有力な説も存在する。第26代継体天皇の代で家系の断絶があるとの有力な説が存在する。少なくとも「万世一系の男系男子」が「歴史の真実」として存在するとの主張は極めて根拠が薄い。

 過去に女性天皇は存在しているし、女系での皇位継承もあったと考えられている。日本国憲法は「法の下の平等」を明確に定めている。また、何よりも天皇の地位が「主権の存する日本国民の総意」に基くとしている。その「国民の総意」がどこにあるのかが問われる。

各種調査は、主権の存する国民の総意が、
「女性天皇容認」
「女系天皇容認」
「長子による継承」
にあることを示している。

 「男系男子による継承」を維持するために、旧宮家からの養子を容認するというのは「邪道中の邪道」である。「養子」そのものが皇室典範によって禁止されてきたものである。これらの事情を踏まえれば、日本国憲法の下にある皇室典範を改正して「長子による皇位継承」を定めることが順当である。

 今後の国政選挙で、「皇室典範再改正問題」が最大の争点として浮上する可能性がある。どの政治勢力が「家父長制」や「男尊女卑」の思想に染め抜かれているのかが明らかになるだろう。国会が閉じてしまったらおしまいということではない。

 国会が正統性のない取り決めを行った、あるいは明らかにするべき事項を明らかにせずに閉幕したなら、次の国会に向けて直ちに適切な対応を示すべきだ。閉会中審査の制度も存在するから、野党は精力的に取り組みを示すべきだ。

 日本政局秋の陣に向けて、まずは首相の大きな疑惑を明らかにするところから始めなければならない。


<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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