NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は、10月2日付の記事を紹介する。
このところAIロボットを巡る論争が世界的に巻き起こっています。中国では急速なロボットの社会進出が見られるようになりました。家庭用のロボットが販売され、人気を博しているようです。スポーツの現場でも軍事の世界でも、ロボットアスリートやロボット兵士が注目を集めているではありませんか。
特に軍事の世界では、一人っ子政策の影響で軍人を目指す若者が減少する一方の中国で、ロボット兵士への期待や需要が高まるばかりです。それどころか、理想のロボットパートナーを自ら設計、製造したエンジニアが、そんな人型ロボットと結婚するというニュースも伝わってきました。
そんな中国と張り合っているのがアメリカです。最近も世界を驚かせるニュースが飛び込んできました。何かといえば、学校という教育現場で、AIロボット教師が活動を始めたとのこと。厳しい労働環境に嫌気がさして、職場を去る教師が増えているのが昨今のアメリカです。その穴埋めにロボット教師が採用され始めたといいます。
ニューヨーク郊外にあるカタラウガス郡学区は、「AIティーチング・アシスタント」を促進する目的の試験的プログラムの一環として、同学区内の高校向けにRealbotix(リアルボティクス)社の「Mシリーズ」ロボットを購入しました。同学区は、「こうした最先端技術を導入するのは全米初だ」と主張しています。
しかし、教師や保護者、そして地元住民たちからは疑問や反発する声も聞かれています。サラマンカ教師組合のピールブラッド会長曰く「Realbotix社の背景について懸念を抱いています」。その理由は後述しますが、同社がセックスロボットメーカーだったという経歴にあるようです。
更に、同会長はデータプライバシーへの不安を挙げました。「導入されるソフトウェアのセキュリティ、データの保存の有無や収集方法、そして録音・録画機能の有無について、非常に懸念しています」。
言い換えれば、人間の姿をしたロボット教師という監視装置を子供たちの前に置こうとしているのに、そのロボットが収集するデータがどう取り扱われるのか、誰にも説明できないということへの疑念です。
また、ニューヨーク州統一教師組合のパーソン会長は、この新たな動きについて「不気味だ」と評しています。同会長曰く「生徒の前に生命のない機械を置くのは愚策です。人間関係を築くスキルを学んでいる最中の若者に対し、人間との関係を模倣することに主眼を置いた機械をあてがうとは何たることでしょう。教育という現場の人間性を損なうことにつながりかねません」。
とはいえ、ロボット教師の採用を決めた学校側はこうした異議を唱える動きに対して「反科学的」と決めつけ、聞く耳を持っていないようです。しかも、事態は悪化するばかりです。
実は、ロボット教師を製造したRealbotix社はトロントを拠点とする企業で、2024年4月にリアルなセックスドールの製造で知られるラスベガスの企業Simulacraを1,670万ドルで買収した後、暗号資産事業からヒューマノイドロボット事業へと転換したことで知られています。
同社は、セックスドールを扱う子会社と、この学校用ロボットとの間には何の関係もないと否定しています。しかし、子供たちと接する機械を作る相手として、本当にこのような企業がふさわしいのでしょうか?そんな疑問も噴出しているようです。
これは単に、ある学校に教育用のロボットが1台導入されるというだけの問題ではありません。人間同士のつながりをアルゴリズムに、教師を機械に、そして地域社会を企業による監視体制に置き換えようとする、AI企業によるより広範な動きの一環ではないかと懐疑的な見方も出ているからです。
そのため、ニューヨーク州教育局は、「生徒のプライバシー、適切な保護措置、そして本来は訓練を受けた有資格の専門家が担うべき役割をロボットが代行することになるリスク」について、深刻な懸念を表明しています。
しかし、学校や学区側は耳を貸そうとしません。教職員組合は計画の一時停止を求め、保護者も説明を求めています。一方、Realbotix社は、これらの疑問や反発について一切コメントしていません。
日本の学校現場では教師が生徒に対するセクハラ問題が話題になっています。ひょっとすると近い将来には「誘惑に弱い生身の人間教師よりAIロボット教師の方が安全で、頭脳レベルも高いに違いない。優秀なロボット教師を採用すべき」という声が聞かれるようになるかもしれません。その意味では、ニューヨークでの試みがどう決着するのか、今後の展開に注目したいものです。
著者:浜田和幸
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