「日本一、市民の声を集める市長に」福岡市長選に挑む新村まさる氏

新村優氏

 2026年11月1日告示、15日投開票の福岡市長選挙。4期目の高島宗一郎市長が今期限りでの退任を表明したことで、九州最大の都市の「次のかじ取り」をめぐる動きが本格化している。そのなかで無所属での出馬を表明したのが、福岡市議会議員3期目の新村優(にいむら・まさる)氏(46)だ。新村氏に、立候補への思いと描く福岡の未来を聞いた。

新村まさるとは──アサヒビール出身の「現場型」市議

 新村氏は福岡市生まれ、福岡育ち。福岡市立柏原中学校、福岡大学附属大濠高校を経て早稲田大学・大学院に進み、卒業後はアサヒビール(株)に総合職として入社した。その後、参議院議員の公設秘書やNPO法人「次世代のチカラFUKUOKA」の設立、ベンチャー企業の取締役などを経て政界を目指した。

 11年の福岡市議選では1,797票で落選。それでも挑戦を続け、15年に6,287票で初当選した。以降、19年に7,591票、23年に6,555票を獲得して連続当選を果たし、現在3期目。南区選出で、3期目からは他の有志議員と地域会派「新しい風ふくおか」を立ち上げた。

 市議会では経済振興委員会に所属するほか、少子・高齢化対策特別委員会の副委員長、議会運営委員会の運営理事を務め、子育て政策などに力を入れてきた。

 出馬表明の際、新村氏はこう語った。
「ひとりひとりの幸せを絶えず応援できる福岡市政、私はそうなることを願って、その先頭に立って、この市長選の出馬の決意を固めた」

何を実現しようとしているのか──3つのキーワード

①「成長は止めない」──高島市政の流れを継承

 取材で新村氏が繰り返し強調したのが、福岡の成長を継続させることだ。天神ビッグバン、博多コネクティッドといった再開発に加え、スタートアップ支援やエンジニアなど専門人材の育成・集積、国際金融都市構想を挙げ、「これらはまだ道半ば。この流れは絶対に止めちゃいかん」と話す。10年、15年という歳月をかけて育ててきた都市成長の勢いを、次につなぐ考えだ。

 一方で、都市の成長にともなって生じる課題にも目を向ける。多くの人が市外や国外から集まる福岡では、都市防災や交通混雑への対応、高齢化にともなう独居高齢者や介護世帯への支援など、さまざまな課題が顕在化している。

 新村氏は「発展するが故に生じる都市問題が必ずある。これは行政を挙げてしっかり考えていかないといけない」と話す。

 政策の骨格として掲げるのが「8本の柱」だ。子育て・教育を通じた子どもの将来への支援、高齢者や介護を必要とする人、障害のある人とその家族への支援、「誰もが幸せを感じられる街」の実現、さらなる都市戦略の構築などから構成する。その下に具体策を積み上げた「アンサー100」という政策集も準備しているという。

②「日本一、市民の声を集める市長」──タウンミーティング・ボイス

 今回の取材で新村氏が最も熱を込めて語ったのが、「日本一、市民の声を集める市長」への挑戦だ。

 高齢者から働く世代、子育て家庭、大学生まで、さまざまな市民を対象としたタウンミーティングを市内各地で開催する。新村氏はこれを「タウンミーティング・ボイス」と名付けた。そこで集めるのは、「福岡をどんな街にしてほしいか」「どんな政策を盛り込んでほしいか」「今、何に悩み、困っているか」といった市民の生の声だ。

 「聞きっぱなしではいけません。いただいた声を一つずつ公開していく。市民の皆さんが発した声が政策という形になり、これからの福岡市の活動の源になり得る──そういう期待を持ってもらいたい」

 目標は「1万人との直接対話」。ただ、新村氏は「人数が目標ではない。1人でも多くの声を集めるのが目的」と語り、あえて「1万人プロジェクト」と銘打った大々的な発信はしない方針だという。公式LINEでも「新村まさるのボイス」として、いつでも意見を届けられる仕組みを設ける考えだ。

 その土台にあるのが、市議として約11年半にわたり、地域活動のなかで市民の声を聞いてきた経験だ。

 「ただ聞いてきただけじゃなく、共有して取り組んできた。そこに一番の重みがある」と新村氏は話す。

③ 政党に頼らない「28チーム」──独自の組織づくり

 無所属での挑戦を支えるため、新村氏が独自に編成したのが「28の応援チーム」だ。

 新村氏によると、政党や政治的なつながりによる組織ではなく、これまでともに活動してきた仲間のグループや地域単位の後援会、同窓会、PTA、ライオンズクラブ、応援する企業関係者など、自身と直接の関わりを持つ人々を28チームに分け、それぞれにリーダーを置いているという。

「基礎票とか組織票とか、積み上げていく概念が全くない。福岡市の未来への純粋な期待をもとにした一票一票を集めて、初めて『市民市長』が誕生すると思う」

 すでに「私より先に走っている」と表現するほど、それぞれのチームが自主的に動き始めているという。従来型の組織選挙とは異なるかたちで、市民参加型の選挙活動を広げようとしている。

原点は町内会──「民主主義の根幹は地域活動」

 新村氏の政治観の原点の1つに、自らが暮らす約450世帯の町内での活動がある。

 2年前まで「名前も顔も知らない、挨拶もしない」という関係だった父親同士のつながりをつくろうと、女性の自治会長と2人で活動を始めた。まず「ジュース&ビアガーデン」というイベントを企画し、地域の父親たちに協力を呼びかけた。最初は20人ほどだった集まりは、現在では「ヒーローズ」と名付けた約50人のコミュニティに成長したという。「餅つき&ラーメン道場」やファミリーバーベキュー大会など、新たなイベントも立ち上がっている。

「仲良くなったらどうなるか。自分や自分の家族だけでなく、隣にいる人の幸せを少しでも考える価値観が芽生える。この価値観の芽生え方こそが、民主主義において『自分のためだけじゃなく、町全体のことを考えるきっかけ』になる」

 自治協議会制度については、「今は過渡期。このまま手を打たないと20年後には地域の自治活動が消滅しかねない」と危機感を示す。

 一方で、「潜在的に協力してもいいと思っている人は周りに必ずいる。いかにマッチングさせるか。そして、楽しくないと続かない」とも話す。地域ごとに住民主体のイベントや活動が生まれる環境づくりを、行政として後押ししていきたい考えだ。

「この町だけじゃない。大げさに言えば、この国全体がもっと人に優しくなれる。そこまで壮大に、地域活動の中に夢を描いている」

高島市政16年が育てた土壌

 高島市長は8月24日の会見で、次期市長選に出馬せず、「次の世代にたすきをつなぎたい」と今期限りで退任する考えを示した。

 この言葉について、新村氏は「私の胸に突き刺さった。突き動かされた」と振り返る。

 36歳で市長に就任した高島氏のもとで進められてきた福岡市政。その16年間で、市議会にも世代交代が進み、新たな考え方を受け入れる土壌が育ってきたと新村氏はみる。その流れを受け継ぎながら、自らが掲げる「市民市長」を目指す構えだ。

選挙の構図と今後

 福岡市長選は11月1日告示、15日投開票。現職の高島市長は不出馬を表明している。新村氏のほか、元経済産業省職員で貿易会社を経営する渡辺久也氏(58)、民間教育機関講師の荒牧明楽氏(41)が立候補を表明している。告示までに、さらに候補者が名乗りを上げる可能性もある。

 政党の後ろ盾を持たず、無所属で臨む新村氏にとって、市長選は容易な戦いではない。そのなかで新村氏が前面に打ち出すのが、市民の声を聞き、それを市政につなげるという姿勢だ。

「成長都市・福岡の大枠はそのまま成長を続けながら、そこで生活する人たちの質を一緒に上げていく。都市の発展を止めてしまったら、皆さんと分かち合うための継続的な財源を失う。『市民市長』が日本全国の自治体で当たり前という時代が来てほしい」

 都市の成長を継続しながら、市民一人ひとりの声をどう政策に反映させていくのか。「日本一、市民の声を集める市長」を掲げる新村氏の挑戦が始まっている。

【児玉崇】

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