稲尾産業の企業価値、50億円は超える
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ニシケンのM&Aの渦中に巻き込まれた稲尾産業
福岡地区での地元建設機械レンタル業者のトップは(株)ニシケン(本社:久留米市)と稲尾産業(株)であった。売上規模はニシケンが大きく上回っていたが、建設機械レンタルの分野かつ福岡都市圏・福岡南部地区という同エリア内では、同等のシェアを分け合ってきた。
ニシケン・水田明義会長は、長年上場を志向してきた。今回、突然に業界第2位の(株)カナモト(本社:北海道札幌市)へ身売りした。戦略家・水田会長の最終的決断の根拠として、『事業継承の一番の安全策は大手の軍門に下ることだ。社員たちにとっても、それが一番ハッピーだ』という認識であった。
さー、ニシケンがカナモトの傘下に入ることが発表されてから、稲尾産業は騒然とした問い合わせの渦中に巻き込まれた。『稲尾さん!!御社はアクティオさんに買収されるのですね!!』といった、問い合わせというよりも確認の電話だったそうである((株)アクティオは業界トップ)。
『私のところは、身売りすることは一切ありません。また、ご存知のように、する必要もないではありませんか!!』ときっぱりと否定した。それにもかかわらず、相手は『いや会社売却するのは間違いない』と断定するのである。『もう勝手にしろ』と腹をくくり、沈静化を待った。
噂が収まるまで、1週間の時間がかかった。ニシケンの売却は、関係者にとって想像を絶するほどの驚きであった。だから良きライバルである稲尾産業へ、『次は稲尾だろう』という噂が爆発したのである。稲尾産業の業績・資産背景・営業基盤のトータルの企業力から判断しても、売却する必要もないことは自明の理である。それでも恐ろしい。良い意味でも悪い意味での、煮詰まると風評は一瞬にして飛び交う。しかし、いずれ風評は静まる。
今回の取材に対しても、稲尾産業側は『我が社は独立独歩の道を歩いて行きます。会社売却を検討したこともありません』と断言した。創業者・稲尾長亮氏が日田市から今の福岡県小郡市に移って木材業を始めたのが、1957年である。1959年6月に法人化して、建機レンタルを主力へと舵を切っていた。その方向転換の選択が、同社の今日の強固な基盤を築いた。加えること、“日田者”は商売上手である。この福岡において、日田出身で成功をした経営者は数多くおられる。稲尾氏はそのなかでも、3本指に属すると筆者は評価する。
ニシケンは100億円強。稲尾産業はいくらの評価かな
『ニシケンのM&Aの金額はいくらであったか?』と囁かれている。諸説が流れているが、妥当なところ100億円~110億円内での取引であったとみる。カナモト側から高価格の提示があったとも聞かれるが、上記した金額範囲で成立した。
さて、稲尾産業の企業価値はいくらになるか。まずは試算表(2015年5月期)から眺めてみよう。このレベルの超優良企業になれば、落とせる負の資産はすべて落とす。加えること、レンタル業の特性をフルに生かして、資産をすべて償却している(詳細は後記する)まず基本評価額は、純資産(自己資本)が58億4,292万円ある。自己資本率80%(15年5月期)になる。まず買値のスタートは、58億円なのである。
レンタル会社の決算の特性と指摘した。どういうことを指すのか。資産の項目を参照されたし。売上38億円の会社なのに、商売道具が計上されていない。稲尾産業は仕入れて販売する業種ではないのだ。機械・器具類を保有してレンタルする商売である。だから、売上38億円に見合う商売道具=レンタル機器類が、資産に計上されているはずなのだ。ところが、だ。驚くことばかり。まず業種柄、在庫・商品がほぼゼロであることは納得できる。
次が驚嘆の声を上げるところである。機械装置・車両運搬・工具備品総計が3億5,498万円しかないのである。稼ぐ道具の資産評価3億5,498億円で、10倍以上となる売上38億円をどうやって上げるのか!!不思議だ。しかし、業界を知る人たちは充分に理解できる。ここで、少しレンタルに知識のある人が知ったかぶりをする。『レンタル会社から再レンタルして商売するから、保有機械が少ないのだ』と叫ぶであろう。
『馬鹿な!!貴方は厳しい稲尾産業の商法を知らないのか』と反論してあげよう。再レンタル主体で商売をやっていたら、これだけの高収益を上げられることは不可能ではないか!!同社の建機類は大方償却しているので、機械装置などの資産額の総計は僅少なのである。建機の仕入れの大半は、子会社・稲尾建機リースが行っている。稲尾産業はこの子会社から借り受けてレンタルビジネスを行っているのである。要は、2社で利益を分け合っているのだ。
そして同社の最大の強みは、仮設資材レンタルの売上が3分の1あることだ(推定12億円前後)。この仮設資材は10万円以下の仕入れになるから、税法上一括償却できる。資産計上ゼロに近い仮設資材類が、年間12億円を叩き出しているのである。であるから、この償却済仮設資材と保有する建機類(償却済み)をどれだけ評価するかで、M&A評価額が決定されるのである。
仮に筆者が、買う意向を抱いたアクティオから資産評価人に選任されたとする。入手した情報を総合的に判断すれば、レンタル機器類の総額を20億円前後と判定する。となると、自己資本額とプラスすると稲尾産業の価値は78億円となる。
稲尾産業とニシケンの売上の差は4分の1である。ニシケンのM&Aの評価額が100億円台に対して同社が78億円となるとなれば、金額で70%内外になる。この評価額は素晴らしい指数である。ちなみに、上場しているタマホームの時価評価は123億円になっている(3月9日相場)。こうなれば、上場する必要がないことを物語っているであろう。なお、建機レンタル2番手のカネモトは、3月9日相場で860億円前後の値がついている。
自主独立を貫けるか
では稲尾産業は、独立路線を堅持するのか!!
その回答として、『2年間は堅持する』ことは明言できる。だが、その先は不明である。
(1)在の2代目・稲尾達哉氏は、今年9月で60歳になる。自分の役割を真剣に検討する時期に達している。実子がいないことも選択の判断材料になる。
(2)稲尾産業がいかに福岡都市圏・県南部に商圏を固めていても、大手が本格的な価格競争を挑み始めたら一たまりもない。稲尾産業は地元死守に必死にならなければならないが、大手は単なる局地戦に過ぎないから何でも無茶ができる。
(3)そして最後は、稲尾達哉社長の判断次第だ。同氏の性格からして、冷静に先を読むであろう。ニシケン水田会長と同様の、先見性ある決断をすると推測する。地場企業で、M&Aで78億円の大枚を握れる可能性の企業は稀有だ。
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