非通知の電話が鳴る~相談者は女性派遣社員
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便利な世の中である。ダイヤルさえプッシュしてしまえば、電話先に番号が自動通知される。非通知とするには、意図的な操作が必要だ。意図して、「番号を知られたくない」という方からの電話が一日に何度かあるのは事実である。
先週、終業間際の「非通知」を偶然取り上げたのが筆者であった。ゆっくりと事情を説明し始める女性。どうやら派遣社員として、とある企業で仕事をしているが、人材派遣会社との間で残業代を巡ってトラブルになっているというのだ。
簡潔にまとめると、こうだ。
【相談者のAさんは派遣社員。Aさんは人材派遣会社B社に対し未払いの残業代を労働組合を通じ、請求した。B社はAさんに対し、合意書を交わした上で、支払うことを通知。合意書の内容は、第三者に残業代の請求及び支払いについて他言しないこと、円満に解決したことを認めることが含まれていた。B社としては、口止めの目的があると思われ、Aさんはそれを不審に思い、サインしたくない。しかし、サインせねば残業代がもらえない】
事情を確認したうえで、何かアドバイスできることがあるのか。人材派遣会社B社の対応に、法的に問題はないか気になった。そこで、2名の弁護士に相談してみた。
弁護士X氏の回答
「合意書を交わしたうえで、残業代を支払うのは当然のことであり、合意書の中に、第三者に残業代の請求及び支払いについて他言しないこと、円満に解決したことを認めることが含まれることもよくあることであって、それ自体も法的には問題がありません。Aさんがそのような内容が含まれるのが嫌であれば、その文言を削除するようB社に求めることになります。B社がこれに応じればそこで解決ですし、B社が拒否すれば(1)Aさんが譲歩してB社の要求を受け入れて合意書を取り交わすか(2)訴訟や労働審判を起こすということになります。」弁護士Y氏の回答
「Aさんが任意で守秘義務条項に応じるならいいですが、嫌なら応じる必要はありません。残業代未払い分は、時効でもない限り、支払ってもらう権利があり、これに条件を付けられるいわれはありません。守秘義務条項なしで払うことを請求し、相手が拒否するなら労働審判でも起こせばいいと思います。」この2つの回答をすぐにAさんに通知した。すると、Aさんは開口一番「吹っ切れました」と言った。回答を読み終えたAさんのなかで、方向性は決まった。まずはB社に対し、合意書内の守秘義務の文言を外すように求める。そしてB社に拒否されれば譲歩し、合意書を交わす。ここまでだ。悔しいが、労働審判を起こすまでの時間も体力もお金もないという。
Aさん本人にとって、完全勝利とならずとも、歩みを進めるきっかけとなった。「非通知」といえど、事情を告発しようと決断した勇気はたいしたものである。
【東城 洋平】
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