佐賀は全線フル規格の夢を見るか?~九州新幹線長崎ルート6者合意を読む(4)
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複線化は肥前山口―武雄温泉
リレー方式はあくまでもつなぎであって、現状の本命はFGTだ。この開発について、国、鉄道・運輸機構、JR九州は引き続き最大限努力するとした。国が明らかにしている計画では、開発が順調に進んだと仮定して、1~2両編成のFGT先行車の導入は2022年度前半、量産車が24年度末の見込みとなっている。つまり25年の春だ。
一方、武雄温泉―長崎間の新幹線施設は22年度の完成時点での供用開始を目指す。しかしFGT先行車は25年春まで博多―武雄温泉間も在来線を走る。FGTは走行中に車軸の長さを変えるが、このため駅近くの線路に軌間変換装置を備えたアプローチ区間を設けなければならない。アプローチは武雄温泉と新鳥栖の2カ所。新鳥栖で軌間変換したFGTは鹿児島ルートに乗り入れるが、他にもフル規格の新幹線が走っているため、その運行管理システムの改修に時間がかかるためだ。FGT量産化と新鳥栖アプローチの完成は同時期を予定し、25年春から鹿児島ルートを走るというのが国交省の描くシナリオである。
着工が認可された当時、長崎県の担当者は「在来線区間に使われる佐世保線は単線。他にも列車が走るのでどうしても行き合いで時間のロスが出る。フル規格が無理なら、せめて全線を複線化してほしい」とこぼしていた。計画では、複線化されるのは肥前山口―武雄温泉間。工事は新幹線整備費の枠内で段階的に実施される。22年度までには大町―高橋間を複線化。25年春までに順次、全線を複線にしていく。佐世保線は他にも普通列車や特急「みどり」が走っているので、これらの利便性を確保するのが理由としているが、要は行き合いを避けるのが目的ということだ。
長崎県の担当者がいうように新鳥栖―武雄温泉の全線を複線化した方がFGTを効率よく運行できそうだが、肥前山口は長崎本線と佐世保線の分岐点でもある。長崎本線は23年後とはいえ経営分離されるので複線化の恩恵は必要ない。そんな思惑が透けて見えるが、先にあるのはやはり全線フル規格化だろう。
鉄道インフラ整備は地元にプラス
6者合意の中身をつぶさにあたっていくと、何としても佐賀県にフル規格を飲ませたい国やJR九州、長崎県の焦りが浮かび上がってくる。地元では、時短にかかる費用対効果の面から長崎ルートの意義を疑問視する声は根強い。しかしリレー方式やFGTであっても、新幹線という安定した鉄道インフラが整備されることは長崎、佐賀両県にとってプラスになると理解する必要はある。問題は経済効果が現れるかどうかだ。今年全線開業5周年を迎えた鹿児島ルートは成功していると言えるだろう。一方、今年部分開業した同じ整備新幹線の北海道新幹線は早くも利用客が伸び悩んでいる。北陸新幹線も計画通り新大阪までの全線が開業しなければ、その成否を判断することができない路線だ。
長崎ルートはやはりFGTという不透明かつ中途半端な妥協点で落としどころを図るのではなく、やはり全線をフル規格化しなければ地域経済の活性化につながらない。6者合意はそのための布石となりうるのか。すべては佐賀県の出方次第で決まる。
(了)
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