ドナルド・トランプ候補の支持率はなぜ急降下したのか(5)
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副島国家戦略研究所・中田安彦
少し脱線するが、共和党大会では、トランプの主たる主張である反不法移民や、黒人犯罪の犠牲になった警察官の問題に焦点が当てられた。いずれにしてもアメリカ国内の問題である。トランプというか典型的な草の根の共和党支持者の特徴は人種差別的な発言を率直に行うが、戦争については消極的であるというところだ。これに対して、民主党のエリートたちは、ヒラリーを取り巻くネオコン知識人や、シンクタンク関係者、そしてアレン司令官のような元高級軍人たちのように、実は戦争が大好きな人たちである。無論、トランプもあまりに外交政策に無知なために大統領になってもすぐにこういう軍国主義者に取り巻きを形成されていても足も出なくなるだろうと予想されるが、それでも直近で戦争をどっちがやりたがっているか、といえばそれはヒラリーなのだ。民主党大会のテーマは「ストロンガー・トゥギャザー」だった。いろんな人種や性的傾向、宗教のアメリカ人が一致団結しよう、アメリカ国民の格差も是正しよう、不法移民も受け入れるよ、というのはそれ自体は良いにしても、それが外に向かって帝国主義になっている傾向が今の共和党よりも強い。これを象徴するのがムスリム兵士のカーン大尉だったということだ。ヒスパニック系の移民というのは米兵の供給源だから、ということも考えるとカーン大尉問題の裏側が見えてくるはずだ。帝国主義を継続するためにアメリカは移民を受け入れるということになるからだ。
いずれにせよ、アイソレーショニストとして鳴らすトランプは、こういう場面こそ「ヒラリーがブッシュとオバマの戦争を継続しようとしている。イラク戦争にヒラリーは賛成した」と強く批判すれば大きな得点を得られたはずなのに、余計な部分で失言をしてしまってチャンスを無駄にしている。まるでわざとやっているのではないかと思えるほどだ。だから「マンチュリアン・キャンディデット」(この場合はヒラリー陣営の放った)だと疑われるのだろう。いずれにせよ、今のところはヒラリーこそがネオコンや軍需産業の支持を受ける「軍国主義者」であり、トランプは徐々にマイノリティになりつつある白人ブルーカラー層の怒りのはけ口としての代表である。
それでは、8月以降、大統領選挙をどのように楽しめば良いのか。今回の最後にそれをお伝えしたい。大統領選挙は各州ごとの選挙人(予備選挙の時は党の代議員だった)を選出する選挙である。人口比におうじて各州の選挙人が決められており、一票でも多く獲得した候補がその州の代議員を総取りする仕組みである。例えば、ニューヨーク州は29人の選挙人であり、カリフォルニア州は大票田で55人の選挙人が居る。一方、田舎州のワイオミング州などはわずか3人である。全部で538人の選挙人がいてこの過半数を獲得した候補が大統領になる。したがって過半数は270人となる。
そして、過去の選挙の結果などから、あらかじめ誰が候補者であっても大半の州で共和党支持、民主党支持と色分けが決まっており、選挙の帰趨は「激戦州」(バトルグラウンドとかトスアップと言われる)の勝敗で決まる。例えばフロリダ州の選挙人は29人だから、これが入れ替わると情勢が一気に変動すると言われている。今回はヴァージニア(13)、フロリダ(29)、オハイオ(18)、アイオワ(6)、ネヴァダ(6)、ノースカロライナ(15)あたりが激戦州になってくる。共和党大会がオハイオ州クリーブランド、民主党大会がペンシルヴェニア州フィラデルフィアで行われたのはそのためだ。最近のペンシルヴェニア州は民主党が強いので接戦になっても最終的にはヒラリーが同州の20人の選挙人を獲得することになるだろう。
(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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