「平成の玉音放送」を海外メディアはどう報じたか(3)
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SNSI・副島国家戦略研究所 中田 安彦
以上の海外報道の分析を踏まえていくと、これはあくまで私の推測であることをお断りしておきたいが、今回の天皇陛下の行動は「日本国憲法に違反しないギリギリの範囲においての安倍政権への言挙げだった」と解釈するほかはない。これは日本の週刊紙である「週刊ポスト」が書いているが、最初にNHKが「生前退位の意向」について報道したのは7月13日の夜7時のニュースだったが、この日は参院選開票日の3日後だったが、同時に官邸の杉田官房副長官が沖縄入りして都内にいなかったタイミングだったという。このタイミングで出すことで、官邸の「不意をつく」狙いがあったのだろう。
安倍首相は、7月10日投開票だった参院選の最中は、憲法の「け」の字も遊説で言わなかったにもかかわらず、開票日から一夜明けた記者会見では、憲法改正に向け、「我が党の案をベースにしながら、衆参各院の3分の2を構築していく。それがまさに政治の技術だ」と、予想通りに豹変し、憲法学者らから激しく批判された自民党改憲草案をベースにすると断言した。この草案では、天皇は現在のような「象徴」ではなく、「元首」と第1条で規定している。
自民党改憲案には、「公の秩序維持」を理由にした基本的人権の制限など、元首規定以外にもさまざまな復古的な内容があるが、長年、象徴天皇の役割を真摯に模索されてきた天皇陛下にとっては、元首規定は自分の努力を打ち砕かれると感じた改憲草案だったに違いない、と私は推察する。そこで天皇陛下は、すでに集団的自衛権の閣議決定や憲法違反の疑いが強い安保法制を法制化した安倍政権に対して、「一矢報いる」にはどうすればよいか、憲法に違反しないかたちでそれを訴えるにはどうするかを、深く考えたはずである。そして出てきた答えが、「国民に支持されている象徴天皇の深化」というものだっただろう。
その思いは今回の「お気持ち」のなかの、たとえば「即位以来、私は国事行為を行うと共に、日本国憲法下で象徴と位置づけられた天皇の望ましい在り方を、日々模索しつつ過ごして来ました」という部分や、「皇太子の時代も含め、これまで私が皇后と共に行って来たほぼ全国に及ぶ旅は、国内のどこにおいても、その地域を愛し、その共同体を地道に支える市井の人々のあることを私に認識させ」たという部分によく現れている。(お気持ち全文)
自分が模索してきた象徴天皇という存在を、次の世代にもスムーズに定着させるには、生前退位を認めていない現在の皇室典範の改正(=憲法改正は不要)が必要不可欠であり、その際の国民的議論を通じて、象徴天皇をまず第1条に規定した日本国憲法の意義を再認識してほしいという思いだったと私は推測する。天皇が、現行憲法で決められた象徴天皇の役割の深化を望むことは、憲法違反でも何でもない。それに対して、自民党憲法草案を実現しようとしてきた自民党保守派の政治家の発言は、憲法違反そのものの拙劣な発言が散見され目に余る。たとえば、参院選の最中にツイッター上で話題になった、改憲派の自民党議員らの発言を収録した動画がそれだ。
この動画は、安倍晋三首相が会長と務める「創生日本」という保守系団体の東京研修会(平成24年5月10日)の録画映像だ。ネット上では「憲法改正誓いの儀式」と題されたこの動画では、安倍首相の側近で日本会議メンバーの衛藤晟一衆議院議員が「いよいよ、本当に憲法を変えるときがきた」と挨拶している。これは、まあいいとしても、法務大臣(第一次安倍内閣)を務めた長勢甚遠衆議院議員が、「国民主権、基本的人権、平和主。この3つをなくさなければ本当の自主憲法にならないんですよ」と述べているのには、背筋が寒くなった。明らかな憲法違反の発言である。さらに、そのような過激な発言を繰り返すメンバーがそろうなかで、城内実衆議院議員(外務副大臣)は、「日本にとって一番大事なのは、皇室であり国体です」と述べている。「あなた方は本当に天皇陛下のお言葉を読んだことがあるのか」と言いたくなるほどだ。(動画)(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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