2024年11月26日( 火 )

交通事故が激減、年間死傷者は2ケタに!(後)

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日本大学 理工学部 交通システム工学科 准教授 安井 一彦 氏

少子化、高齢化、人口減少が進行

 ――2020年東京五輪は、1964年東京五輪と大きく時代背景が異なります。日本は成熟社会になっており、東京も2020年、25年ぐらいまでは何とか現水準を保てるとはいえ、それ以降は少子化、高齢化、人口減少が加速度的に進みます。このような時代背景は、交通システムにどのような影響を与えますか。

 安井 この問題を考えるには、交通に限らず、上下水道などを含めて東京のインフラのほとんどが昭和40年(1965年)前後にできているため、老朽化していることに注目する必要があります。私の専門分野でもある信号機も、交通戦争と言われた昭和40年代に、横断歩道と一緒に一気に東京を中心に大量に整備されました。そのおかげで、自動車事故は大きく減りましたが、現在、そのすべてが老朽化しています。
 少子化、高齢化、人口減少が加速度的に進んでいくなかで、「安全と円滑性」を維持しながら、次世代に対し、どのような交通インフラが相応しいのかを考えていく必要があります。

ソウル市内の公共交通の改革事業

fukei4 ここでは、あくまでも1つの参考例として、韓国ソウル市の交通改革の成功例をお話しします。2002年当時の韓国ソウル市内の交通渋滞は、地下鉄開発の遅れもあり、最悪の状況でした。とにかく車は増え続け、とくに朝の出勤時の渋滞は、社会問題になるほどでした。また市内を走る高速道路は、老朽化していました。

 そのときに、2002年のソウル市長選に立候補したのが、現代建設社長や国会議員の要職を経験した前の大統領の李明博(イ・ミョンバク)氏です。李氏は公約に、(1)潤いのある都市づくり、(2)歩行者空間改善事業の促進:高速道路を撤去し、河川に復元、市庁前、南大門広場を造成、(3)交通体系改変事業の推進:バス路線の再編成、入札、共通料金制度の導入――を掲げ、当選しました。
 韓国の場合は日本と異なり、掲げた公約はすべて任期中に実現しないと、大変なことになります。その反面、実現すれば大きな評価が得られ、次のステップに進むことができます。李氏は任期中に公約をすべて実現し、08年2月25日に第17代大韓民国大統領に就任しました。

 李氏はソウル市長在任中に、まず環境整備を大々的に進め、ソウル中心部を通り抜ける清渓高架道路を取り除いて「清渓川」を復元し、市民の憩いの場だけでなく生態系の宝庫にしました。「ソウルの森」は、ニューヨークのセントラルパークやロンドンのハイドパークのような市民の憩いの場を目指して、1年間の工事の後、05年6月にオープンし、ソウル市民に40万本の木々や鹿を始めとする100種以上の動物が生息する広大な自然空間を提供しています。この改革で、清渓川の路線だけで、1日に12万5,000台の交通量が削減されたと言われています。「車が増えるので、どんどん道路をつくりましょう」という発想から、「道路をつくるのはもう止めて、市民の憩いの場にしましょう」という発想への転換は、結果的に市民に喜ばれました。ソウルは観光都市でもあるため、外国人観光客にも高い評価が得られました。

走った距離で収入が得られる料金制度

 続いて李氏が行ったのが、交通(バス)体系改変事業でした。02年より前のソウル市内のバスは、同じ路線に何社もバス会社が入り込み、朝は大渋滞、夜になると客の奪い合いのために、バスがデッドヒートを繰り広げていました。
 李氏はソウル市長に就任すると、ソウル市内で混乱の起こっているすべてのバス路線を白紙にして、ソウル特別市所管の研究機関・ソウル研究院に路線を引き直させました。
 結果的に、バス路線を4色に色分けして再編成し、担当バス会社は入札制にしました。同時に、走った距離でバス会社に収入が得られる料金制度を導入、お客の少ない路線でもバスが嫌がらずに走るようになり、市民の評判がとても良くなりました。また、バス専用路線(BRT)を走るので、たとえ一般道路が渋滞していたとしても、バスの渋滞はありません。

 以上は、韓国ソウル市の例ですが、少子化、高齢化、人口減少が加速度的に進んでいく東京においても、このような思い切った改革もヒントになるかもしれません。

日本と海外の交通ルールの違い

 ――2020東京五輪前後に、日本政府は年間2,000万人の外国人来日を予測しています。来日する外国人に対して、先生のご専門の分野から何かメッセージはありますか。

 安井 最近は、ツアーの内容が東京や京都などの大都市中心のツアーから、レンタカーや公共交通などを利用して、個人で日本の地方都市や名所、景勝地を訪ねる旅行が人気を博しています。レンタカーなどを利用される場合は、日本の交通ルールを正しく理解していただく必要があります。
 一例として、「踏切での一時停止」があります。皆さんは、自動車教習所で踏切は一時停止し、窓を開け左右の安全を確認してから発信しなさいと教えられたと思います。しかし、踏切での一時停止を義務づけている国は、私の知る限り世界で日本だけです。海外では、大型車やバスの一部を除いて、徐行で安全を確認し、速やかに危険な踏切を通過するのが一般的なのです。
 このような交通ルールの違いは、かなり多くあります。些細なルールの違いでも、大事故につながる可能性もあるので、よく注意しないといけません。
 2020東京五輪までには、日本の交通ルールと海外のルールの違いについて、わかりやすいパンフレットを多国語で作成し、レンタカー、レンタサイクルのお店やホテルなどで配布していただくなどの配慮は必要かと思います。

 ――本日はお忙しいなか、ありがとうございました。

(了)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
yasui_pr安井 一彦(やすい・かずひこ)
 日本大学理工学部工学部交通システム工学科 准教授。
 1959年生まれ。81年3月、日本大学理工学部交通工学科卒業後。同年4月に同大学理工学部交通工学科副手。85年4月に同大学理工学部交通工学科助手、97年10月に博士(工学)取得。99年4月、同大学理工学部社会交通工学科専任講師、99年4月~2005年3月、(財)日本交通管理技術協会参与(非常勤)を経て、現職。

 
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