2024年11月27日( 水 )

既存建物の不正・偽装への取り組み~仲盛昭二氏が各地で講演

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 福岡県久留米市のマンション住民らから欠陥建築問題の調査依頼を受けている仲盛昭二氏(協同組合建築構造調査機構代表理事)は、RC(鉄筋コンクリート)造建物の不正・偽装問題について、この夏、各地で講演してきた。仲盛氏は、「RC造建物の不正・偽装は、天文学的な数字にのぼる。私が明らかにしたのは、耐震性強化のために事前警告だ」と述べている。同氏は、欠陥建築裁判で証拠となる技術調査報告書・意見書を作成してきた。全国、至る所で欠陥建築の悩みを抱えている例があり、「自分の経験が生かされるのであれば全国どこにでも飛んで行って、所有者が抱える問題を技術的に支援したい」と決意を語った。各地での講演内容を紹介する。

 これまで4度に及ぶ国との裁判における経験、久留米の欠陥マンション裁判における経験等を踏まえて、以下で述べる既存建物の不正・偽装の事実を、今後、建物の所有者(区分所有者を含む)に知らせるべく、行動を開始しなければならないと思っています。

 「既存建物の不正・偽装」とは、以降に詳しく説明する「鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造の建物における柱・梁接合部(仕口)の検討の偽装」です。RC造・SRC造の柱梁接合部(仕口)の安全検討に関しては、2007(平成19)年以前の設計の建物のほとんどにおいて、意図的に検討が行われておらず、構造計算が偽装されたまま、建築確認済証が交付され、接合部が不適切な建物が建築されました。これは、柱・梁接合部の検討を規準通りに行えば、柱や梁の部材断面が極端に大きくなるため、経済的な理由から、不正が行われ続けていたものです。この構造設計者による意図的な不正・偽装を暴き、建物所有者に告知します。これは、建物の耐震性を強化するための事前警告というべきものです。

 建物の所有者にとって、建物が法令や規準に基づき設計され、安全かつ適法であることは当然のことです。上記に述べたような建物は、意図的に規準通りの設計を行っていないのです。

 したがって、地震時の安全性に問題がある可能性が多大にあり、また、建物所有者の資産を大きく減じる可能性が非常に高いと言えます。
 重大な欠陥があったマンションにおいて、デベロッパーに対し、「全戸の買取り」を命じた判例があり、上記に挙げた、構造計算における偽装は、デベロッパーにとっては、大きな脅威となります。今後、社会現象に発展する事案です。

1.鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造の建物について

 RC造・SRC造の柱梁接合部(仕口)の安全検討に関しては、2007(平成19)年以前に設計された建物のほとんどにおいて、意図的に検討が行われていませんでした。以前から、RC造構造計算規準(日本建築学会)において、接合部の検討が定められていたものの、建築確認審査において指摘されることがなかったことから、ほとんどの設計者が検討を省いていたのです。姉歯事件と同じ「耐震偽装」そのものであり、「不正行為」です。この偽装が行われている建物の数は天文学的な数字です。

 2007(平成19)年以前に設計されたマンションの構造計算書を調査すれば、非常に高い確率(80%以上)で、接合部の検討が、意図的になされていないことを、容易に確認することができます。耐震強度に置換すると、20~30%前後の強度不足です。この事実は、民間の建物だけではなく、公共の中規模以上の建物にも、被害が及んでいるのです。

 また、2007(平成19)年以降の設計の建物であっても、建築確認機関によっては審査の際に柱梁接合部検討の偽装を指摘しないまま建設された建物があるとの情報も私の元に寄せられています。なぜなら、久留米の構造計算偽装による欠陥マンションの裁判において、建築確認行政であった久留米市は、現在の審査担当部署が「(欠陥マンションの)建築確認は適切だった」という公式文書を裁判所に提出しているからです。このことから、特定行政庁の建築確認審査部署の認識は、以前と変わっていないのではないかと思われます。

 現在の確認審査機関(特に民間お審査機関)は、この重要なことを把握しているからこそ、このチェックが絶対的に義務付けられ、指導しています。この規定を満足するように設計するためには、梁・柱の部材をかなり大きくする必要があり、またコンクリートの強度も大幅にアップしなければ設計不可能です。要するに、建物の経済コストが上がる最大の要因なのです。だからこそ、この一番重要な項目の検討を、悪意はなかったにせよ、意識的に偽装して、経済性を優先させていたのです。

 この「柱梁接合部(仕口)の検討」は、構造設計者を一番悩ませる領域だったので、行
政の無知・無能に付け込んで、偽装していたものと思われます。

2.構造スリットの問題(柱と壁の接続法の偽装)

 柱梁接合部の偽装と同様に、構造スリット(柱と壁の間で力を伝達しないための構造的空隙)についても、相当数の物件において、意図的に施工されていません。構造図に記された構造スリットが施工されていない場合、大地震時に、柱などの部材に大きな被害が生じ、最悪の場合、内部の人間が避難できないこともあり得る、非常に危険な偽装です。

 この偽装は、構造図と構造計算書、及び、実際の建物の調査により確認する事ができます。2007(平成19)年以前に設計された建物の30%前後において、構造スリットの未施工という不正が行われていると思われます。横浜の傾斜したマンションや、また名古屋のマンションでも、構造スリットの未施工が発覚し報道されました。私たちが熊本地震で被害を受けたマンションを調査した結果でも、相当な数のマンションにおいて、構造スリットが施工されていませんでした。

3.私たちの取り組み方

 マンション管理組合や区分所有者の方から相談があれば、私たちは、状況をうかがい、建築確認通知書を閲覧します。建築確認通知書の構造計算書・図面を確認すれば、柱梁接合部の偽装以外にも、構造計算における偽装を発見することが可能です。

 構造計算書の偽装などを発見した場合、まず、行政に通報します。そして、行政から、デベロッパー、設計事務所、ゼネコン(設計・施工の場合)に対して、調査を命じることになります。

 デベロッパーなどから適切な根拠に基づく回答や調査結果が提出される可能性は限りなく低く、対応に苦慮することになります。

 まず、建物所有者に警鐘を鳴らし、そこから行政に向かうよう勧め、行政が各建築関係者に対し調査を命じるという流れを作れば、行政は、デベロッパー・設計事務所・ゼネコンに対して再検証の命令を出さざるを得ません。いわゆる「グー・チョキ・パー理論」の構図です。

 シャンパンタワーが、上から注げば下まで到達するように、8割以上の確率で目的に到達できます。その時点で、最終仕上げとして、当方が、建物所有者に助け舟を出すという形が、建物所有者にとって、棄損された価値を取り戻すための、非常に有効な解決手段となるのではないかと思っています。

 この文書で警告を発した、構造計算の偽装の問題は、天文学的な数の建物において、問題となる可能性があり、デベロッパー(マンション販売会社)やゼネコン(建設会社)は事を収めるためには、判例にあるように、問題が起きたマンションを買い取らざるを得ません。たとえば、1棟あたりの平均戸数が50戸とした場合、3,000万円×50戸=15億円前後の資金を要します。これと同じ問題が生じたマンションが10棟あった場合、150億円もの買い取り資金が必要となり、デベロッパーやゼネコンの会社存続ができない状況に追い込まれます。だからこそ、【シャンパンタワー理論】を展開すべきなのです。

 この問題を提起し、行政やデベロッパーを相手に、対応を求めていくことは、私たちでなければ難しいことです。なぜなら、現役の建築士が自らの名前を出して、行政や不動産業界、建築業界を敵に回して立ち向かうことは、現実的に難しいからです。

 もし、裁判に発展するような場合は、なおのこと、私たちの経験と知識を活かせる場面があることは間違いありません。法的には、「建物の引渡しから20年」という除斥期間(時効)の定めがあり、引渡しから20年経過した建物の瑕疵責任を追及できないことになっています。しかし、相手が大手デベロッパーであれば、社会的な影響を考慮し、対応せざるを得ないケースも考えられます。

 分譲マンションを購入することは、人生における大きな買物です。その財産が、業者の利益のために、コストダウンを目的とした構造計算の偽装が行われていたことは、購入者を欺く卑劣な行為です。このようなマンション所有者等が抱える問題の解決を、技術的に支援できればと思っております。

 

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