ポピュリスト手法を駆使する小池都知事の政治手法と今後(後)
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SNSI・副島国家戦略研究所 中田 安彦
ついでに言うと、豊洲市場をめぐる問題は、単に建築計画がずさんだっただけではない。観光客向けとされる新市場近くにできる温泉付き商業施設「千客万来」の建設も、完成のメドは今のところ立っていない。豊洲市場のできる埋立地は、交通アクセスは運賃が高い「ゆりかもめ」しかなく、築地のように銀座から比較的近いという位置関係にもないし、築地本願寺のような歴史ある建物もない。実に人工的な土地で魅力は少ないのだ。
2003年に書かれたアメリカ人類学者の権威であるテオドル・ベスター氏の著書『TSUKIJI』で、初めて世界に知られるようになった築地市場の魅力は、実際の市場(場内)だけではなく、一般客向けの飲食店で構成される「場外」が醸し出す独特の雰囲気にある。今回の豊洲移転は、この場内と場外の関係を断ち切るもので、非常に評判が悪い(場外の店は移転しないし、さらに築地市場内には新施設の築地魚河岸が建設されるので、結局、観光客はこちらに集中するだろう)。また、小池知事が就任する前から日本共産党などは、築地移転問題を過去の都政が急がせてきた理由として、築地市場の敷地を突っ切って通る「環状2号線」の建設計画があると指摘していた。千代田区神田から江東区有明まで約14キロの道路というが、この道路は別名「五輪道路」と言われ、同じく埋立地にある晴海に建設される選手村から、世界の五輪会場に比べて建設費がべらぼうに高いことで批判を浴びた神宮の新国立競技場へのアクセスとして不可欠とされているが、ここで小池知事の宿敵である“都議会のドン”内田都議の献金企業が複数受注していることがわかった、と「週刊文春」がスクープした。
小池知事にならなければ、この築地の移転もさっさと行われてしまって、あっと言う前に歴史のある代々木の国立競技場を大した国民的な議論もなく取り壊してしまったように、ゼネコン主導でさっさと都民の監視のないまま工事が進んだことだろう(私は、2020年五輪は、旧国立競技場をそのまま利用できたと思う。過去のスタジアムの利用は、1932年のロサンゼルス五輪スタジアムを1984年大会で再利用した例がある)。しかし、それでも、仮に五輪道路の建設を止めることはできても、やはり豊洲に関しては移転の是非は、数カ月以内に決めなければならないだろう。巨大な豊洲新市場の建物をこのままで放置すれば、これまでにつぎ込んだ5,000億円が無駄金になってしまうため、私はさまざまな問題を孕む豊洲市場を、結局のところ使うことになると思う。そのために、豊洲に移転する業者に支援金を払ったり、築地の移転反対の業者に「慰謝料」としていくらかのカネを支払うことで、解決させようとすると思われる。あの豊洲を、総工費の半額でも出して買い取ってくれる酔狂な企業が出てくるなら、また別の話だが。
だからというべきか、小池知事は豊洲については「立ち止まって考える」とは言うものの、軽々しく「移転の中止」については決して口にしない。彼女にできることは徹底した情報公開までであり、どのようなプロセスで今に至るかを明らかにして、可能な限りのコスト削減を徹底してみせることで、都民に納得してもらう(諦めてもらう、とも言える)ことだろう。
仮に小池知事が、豊洲移転問題で大きく「指し手」を誤った場合は、選挙のときと同様に、都議会自民党が彼女に対して敵対姿勢を見せ始めるだろう。そのときに、彼女にとってのライフラインになるのは、中央・永田町の自民党のバックアップになる。
産経新聞が10日に報じたが、安倍晋三・自民党総裁は9日に、石原伸晃氏に代わって都連会長に就任する下村博文・幹事長代行に対し、「いらぬ対決姿勢を取る必要はない」と要求するなど、都知事選で分裂選挙になったしこりを急速に修復しようとしている、また、小池氏自身も94年から新進党、自由党や保守党の活動を通じて、連絡のある二階俊博・新幹事長をパイプとして頼みにし、初登庁の二日後に「手打ち式」を演出してみせた。党本部の支えは、今のところ大丈夫ということだろう。小池氏は一方で、大阪維新の会のブレーンでもあった上山信一慶応大学教授を「都政改革本部」の顧問に抜擢したり、選挙のときに支援を受けた旧みんなの党系の都議3人を中心に開かれた会合で将来の「小池新党」をほのめかすなどもしている。ただ、東京10区(池袋など)の小池氏の議席を埋めるための補欠選挙では、小池氏の盟友の元検事の若狭勝衆議院議員が出馬するとみられるが、二階氏や石破茂元幹事長を中心に公認を与えようとする動きもすでにもあり、このまま小池氏が自民党本部との関係改善を図ってしまい、新党がお流れになる可能性もある。この夏には、大阪維新の会の周辺では、いわゆる民進党に変わる「改革勢力」の輪を全国にネットワーク化しようと、党名を「日本維新の会」とする動きもあった。
自民党内では、安倍首相への影響力を競い合う関係の、維新の松井一郎代表と近い菅義偉官房長官と、二階幹事長の思惑の違いもあるなかで、東京10区補選では、いち早く二階・石破両氏は小池氏の盟友である若狭氏の擁立を主張したわけだ。先の話になるが、小池氏は中央政界の権力闘争と、都議会の力関係のなかをうまく泳ぎながら、自身の求心力を維持しながら、東京五輪の2020年の次の都知事選までのサバイバルを図ることになるだろう。
ただ、ハネムーン期間に権力基盤を固めることが、まずは最重要課題だろう。
(了)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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