豊洲市場・盛土問題に関する建築構造技術者の見解
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協同組合建築構造調査機構 代表理事 仲盛 昭二
東京築地市場の移転先である豊洲新市場において、土壌汚染が問題となっている。東京都が土壌汚染対策として、敷地全体を厚さ4.5mの盛土とすることを決定していたが、実際には、肝心の食品を扱う建物の下部に盛土が施工されず、空洞となっていることが判明し、大きな社会問題となっている。
豊洲市場の土壌汚染対策は、外部有識者の「専門家会議」で検討され、都に対し市場敷地内で盛土をするよう提言が出され、東京都は2008年8月~14年11月、外部有識者が土壌汚染対策工事の工法を検討する「技術会議」を設置した。技術会議の議事録によると、工法は公募され、地表から深さ2mを掘削して厚さ50cmの砕石層を敷き、その上に高さ4.5mの盛り土をすることが決まった。建物意の地下部分が空洞になった図面は、13年12月には作成されていたが、外部有識者による「技術会議」において、この図面が提示されず、妥当性の議論が行われていなかった。
東京都が、有識者の意見をまったく聞かずに独断で、工法を変更していたのである。私は、建築構造技術者なので、土壌汚染に関する専門知識は持ち合わせていないが、建築確認などの行政手続きと照らし合わせて、東京都の盛土不施工隠蔽問題を考えてみる。
建築確認を例にとると、建築確認申請をし、審査を受け、確認済証が発行され、工事に着工する。一旦、建築確認済証を受けた建築工事は、建築確認図面の通りに施工しなければならず、中間検査および完了検査において厳しくチェックされ、図面と実際の建物に相違があれば、検査済証が交付されず、建物を使用できない場合もある。工事の途中で設計変更が生じた場合には、計画変更や軽微変更などを建築確認機関に届け出て、承認を得なければならない。公共建築物の場合、建築確認ではなく計画通知という手続きになり、行政の内部だけで完結しているので、設計変更などに関してルーズであることは、以前から懸念されていたことである。
豊洲市場の場合、有識者で構成される技術会議などが設けられていたので、建物敷地下部の盛土を取り止め、地下ピット(空間)を設けるのであれば、関係部署の意見を聞いたり、承認を得ることは、基本中の基本である。東京都側にどのような事情があったのか不明であるが、地下ピットが土壌汚染対策として有効かどうかという議論以前に、工法変更を隠蔽していたことが、行政手続上の問題である。
行政手続き上の問題以外に、構造上の問題を挙げてみると、地下があれば、構造階数が増える、土圧が掛かる、杭頭に作用する地震時の水平力が増加するなど、構造上、危険側となる要素が数多くある。地下部分の変更に関して、適切な構造検討が為されていない場合、建物にひび割れや沈下などが発生し、汚染された土壌が建物内に侵入する可能性もある。民間の建物であれば、図面になかった地下が増えるということは、根本的な変更なので、構造所の安全性は適切に検討しなければならない。その建物が、市場という都民の生活の根幹施設であれば、なおさらのことである。
「地下階が増える」という構造上の根本的な変更に関して、適切な検討が為されているか否かは、構造計算書を点検すれば容易に判別できるはずである。今後、東京都から、変更に関する構造検討記録や構造計算書等が公開されるかというと、これまでの情報公開における、いわゆる「ノリ弁」状態の資料しか公開されないか、もしくは記録そのものが存在しない可能性すら考えられる。私はこの10年間、国、福岡県など多くの行政庁と、構造に関する議論を重ねてきた。また、私が設計に関係していない物件の相談まで数多く持ち込まれ、構造検証や行政との協議を行ってきた。その過程で明らかになったのは、「行政のずさんさ」「市民(国民)の安全よりも行政組織を守ることを最優先する自己保身体質」「行政組織に不利な情報は一切公開しない隠蔽体質」、「責任転嫁、無責任体質」である。これは、すべての行政に共通する体質である。
従って、豊洲の問題も、東京都(行政)側は、最後まで真相は明らかにされないと思われるが、小池都知事が本気で都の体質を変えようと考えているのであれば、都の体質にメスを入れるべきであり、私も小池知事に期待したいと思う。
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