【和歌山市発砲事件】覚せい剤の惨劇に遭った地場土木業者の実像(中)
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公共工事が主体の地場土木業者
和歌山市発砲事件の背景を探るため、溝畑容疑者が従業員として勤務していた和大興業(株)を調べた。同社の創業は1970年1月。78年7月に設立され、79年8月に現商号に改組した。現代表である溝畑容疑者の母親は、親族が経営するA社に62年4月入社。37年務めた後、81年6月にA社とB社の非常勤取締役に就任。その後、99年9月に退任し、同時に和大興業代表に就任した。
同社の監査役は溝畑容疑者の父親である。父親はA社において代表を3度務め、B社の設立に発起人として携わっている。なお、B社の現代表は溝畑容疑者の2歳上の兄。兄はA社和歌山支店(所在地は和大興業と同じ)に98年4月入社し、そのキャリアをスタートさせた。父親は、和大興業に下請工事を出すC社の役員に名を連ねている。その法人登記には、溝畑容疑者も元監査役(2015年8月退任)として名前が残っており、C社の発行済株式はすべて溝畑一族4名で保有。和大興業を含む関係会社4社は、それぞれの地場で土木工事を主体に事業を展開している。
以上の4社のなかで最も事業規模が大きいのが和大興業である。同社は近年、公共工事とC社の下請工事を主体に安定した業績を維持。2015年8月期は、売上高7億2,325万円、経常利益882万円を計上。流動比率179.2%、約3億円のキャッシュを保有。自己資本比率37.8%と財務内容はまずまずといったところ。和歌山県や和歌山市から受注した道路・河川の土木工事をはじめとする官公庁元請の工事高は4億9,207万円、売上高に占める割合は68.0%となっている。直近4期は売上7~8億円台で推移し、毎期利益を残している。業績不振や経営悪化はなく、会社の状況が今回の事件に影響したとは考えにくい。
意外な人物像、町内会にも積極参加
「これが撃ち合いじゃ!」。溝畑容疑者が自分を撃つ前にそう叫んだと言われている。職場の仲間を撃ったことからして、常軌を逸した行動であるが、溝畑容疑者を昔から知る関係者から聞いたのは狂気のイメージからかけ離れた人物像だった。
「よく買い物に来られていましたけど、とくに変わった様子もなく、頑張って会社で働いていました。ウチの店は近所やから、ほかの社員の方もようけ来られますけど、今まで仲が悪いとか、そういった印象はありませんでしたね。そやから最初の事件があった時は、正直、信じられませんでした」と話すのは、和大興業近くにある作業用品店。10年前に店をオープンして以来、商品の売り買いや隣近所付き合いで同社従業員を見てきたという。溝畑容疑者は、「町内会でも自ら手を上げて役に付いたりしていた」(同氏)とのこと。社会活動にも積極的な人物であったようだ。
溝畑容疑者は母親の後継候補であったとされている。和大興業の発行済株式4,500株のうち、2,450株を所有する最大株主でもあった。会社事務所に併設された自宅の土地164m2は、父親から16年12月に贈与されていた。兄は、08年2月に関係会社B社の代表に就任。A社でも15年5月に同族の新社長が就任している。次は溝畑容疑者の番ということで準備が進められていた様子がうかがえる。
そうした目論見をすべてご破算にしてしまったのが、溝畑容疑者の覚せい剤の所持・使用から始まっていく今回の発砲・立てこもり事件だった。近所付き合いのなかで語られる“真面目な跡取り”というイメージとは裏腹に、同業者からは「昔から薬物使用のウワサが絶えなかった」との声を聞く。取引業者のなかで、溝畑容疑者の強引さに反感を抱く声もあり、好感が持たれていた被害者の石山氏とは対照的だ。自ら望んだ町内会の役も強引な姿勢が批判を受け、1年も経たずして降ろされたという。仕事や人間関係のストレスから、覚せい剤に手を出してしまったのだろうか。
(つづく)
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