脱石油を目指すサウジアラビアの不信を買った安倍総理(後)
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サウジとの関係強化に積極的な中国の狙い
今後15年間で新たに600万人の若者が就業年齢に達する。彼らに就職口を準備しなければならないサウジとすれば、2030年までにGDPを倍増し、新規雇用者数を600万人にするという経済改革に挑戦せねばならないというわけだ。その目標を達成するため、今後5年間で720億ドルの政府資金を投入する計画が練られている。サルマン副皇太子の手腕が期待されているが、その前途は容易ではない。
世界的にグリーン・エネルギー革命が進行している。温室効果ガスを減らすためにも、異常気象を回避する上でも、石油依存から再生可能エネルギーへの移行を強力に図らねばという世界的なコンセンサスが得られるようになった。そのため、マイクロソフトをはじめ、IT業界や自動車産業においても、脱石油の動きが加速する一方である。ますますサウジアラビアのような石油依存の体質では生き残っていけない時代に差し掛かっているわけだ。
そこで副皇太子は、世界最大の石油会社、アラムコの株を上場させることで、国内経済の方向転換に必要な資金を確保しようとの構想を温めているようだ。アラムコを東京市場で株式上場し、その上場益で新たな投資ファンドを立ち上げ、その資金で人材育成やITと医療を組み合わせた新たな産業をサウジアラビアに根付かせようという構想である。アラムコの上場は、2017年を想定しているとのこと。
しかし、東京市場での上場が実現するか、中国の上海市場での上場が実現するか、どちらが実現するのかは予断を許さない状況が続いている。なぜなら、中国と日本を訪問した副皇太子はその後ニューヨークで開催された国連総会にも顔を出し、日本政府に対して協力の要請を重ねて行ったのであるが、安倍総理の同行筋からは期待したような返事が得られなかったという。そのため、副皇太子は日本に対する不信感を強めたようだ。このままでは、中国での上場が具体化しそうな雲行きである。実は、中国はアメリカと肩を並べる石油の輸入超大国となっている。近年の原油価格の下落を背景に石油の戦略備蓄を徹底的に進め、今では世界最大の石油備蓄国になっているようだ。中国各地に2,100カ所を越える戦略・商業石油備蓄基地が構築されている。近い将来、石油価格が上昇に転じた場合には、こうした安値で仕入れた原油を高値で売りさばくという芸当を中国は考えているに違いない。そうした意味でも、中国はサウジアラビアとの関係強化に日本以上に積極的に取り組んでいるわけだ。
いずれにせよ、サウジアラビアが2030年までに経済改革をどこまで成し遂げることができるかどうかは、世界経済にとっても大きな影響をおよぼすに違いない。2030年までにサウジアラビアは、イスラム文化圏の最大の保護者として国内に世界最大のイスラム博物館を建設する計画を準備中だ。何しろ、イスラム人口は全世界で40億人に達する勢いで増えている。中国とインドを足してもおよばない人口だ。
この巨大なイスラム人口を味方につけない手はない。メッカとメジナという2大聖地を国内に有するサウジアラビアは、宗教を武器にした新たな国づくりにも狙いを定めているようだ。観光資源としての開発の余地は巡礼地に限らず、紅海周辺にも眠っている。ディズニーランドのアラビア版を建設する計画も進行中といわれる。また、中東とアジア、ヨーロッパ、アフリカを結ぶ戦略的な要衝の地を占めているため、サウジアラビアは交通や物流の中心地としてインフラ整備にも取り組む考えである。
加えて、脱石油の未来図の中には、省エネや再エネといった視点も織り込んでいる。もちろん、石油以外の天然資源も北部を中心に豊かである。リン酸鉱物や亜鉛、ボーキサイト、金や高品位のシリカも確認されている。こうした資源開発に成功すれば、サウジの未来図は明るいものとなるだろう。
このような具体的な未来ビジョンを実現する上で、日本も中国も独自の経済戦略に則り、様々な形でビジネスチャンスに結びつけようと動いている。ところが、せっかく副皇太子が安倍総理との間で、経済技術交流に関する基本合意に達したにもかかわらず、その後のフォローで躓いてしまっているのは、実に残念である。
この10月には、サウジアラビアの首都リヤドで、初の日本サウジ経済協力会議が予定されている。何とかそれまでに、態勢の立て直しを図り、サウジアラビアの期待に応えるべく、日本の官民合同での経済協力戦略の構築が求められる。(了)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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