マイナス出発から上場まで辿りついたJR九州~公益性追求の宿命
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九州旅客鉄道(株)(JR九州)は、旧国鉄から分離民営化した鉄道会社では本州3社(東日本、西日本、東海)に次いで4番目。三島会社(九州、四国、北海道)のなかでは初となる株式上場である。東証1部に上場した10月25日、メディアからは、赤字路線の削減などによる公共交通機能の低下を懸念する声があがった。しかしそれは、民営化から上場に至るまでの同社の歩みを顧みると杞憂のように思える。
プラスに転じた3つのマイナス
民営化当初、JR九州は、3つのマイナスを抱えていた。1つは『鉄道事業の赤字』。1987年4月の民営化で、鉄道事業の赤字を前提とした「三島会社」には、その損失の埋め合わせに経営安定基金が与えられていた。しかし、その運用益は、バブル崩壊(91年)とともに激減。必然的に、JR九州は、多角経営で鉄道事業の赤字を補填することが急務となった。言い換えると、“多角化を促進”した。
目指したのは、多角経営によって非鉄道事業が売上高の5割以上のシェアとなる民間鉄道会社のビジネスモデル。鉄道を起点とした開発を促進し、新たな市場を生み出し、相乗効果で利益を獲得するという、交通・都市開発・流通事業が一体となったスキームだ。それを速やかに実現することができた要因は、2つ目のマイナス要素『旧国鉄時代に肥大化した組織』も影響した。
経営を安定させるためにはリストラは不可避。1万名近くの職員の再就職先を探す苦労があった。しかし、そのことが受け入れ先となった自治体や企業を通して地元経済との結びつきを強める効果を生んだ。残った職員たちは、『鉄道マン』に向いているか否かという判断基準を持ち、試行錯誤のなかで仕事を選び、多角化を進めた。そこに、外へ出た仲間たちが、出向先で得た民間のノウハウを持ち帰った。こうして鉄道事業を主軸に据えた地域密着型の企業グループが構成された。
3番目のマイナス要素は、旧国鉄時代の不祥事やスト権奪還を目指した「スト権スト」などによる『社会的信用の失墜』だ。民間企業としての持続性を高めるには、信用を取り戻すという命題が課せられていた。このマイナス要素が、否応なしに、JR九州全体の「公」の意識をより強固なものにしたと言える。今日、CSV(経済・社会の共通価値の創造)を追求する企業が増えているが、公共交通を維持し、地域経済の発展に貢献しようとする同社の企業姿勢はCSVと言えるのではないだろうか。
上場に際して「株式上場はゴールではなく、新たなステージへの出発点」と語った現代表取締役社長・青柳俊彦氏は、鉄道畑でキャリアを積み、鉄道事業本部長を務めてきた。その青柳社長のもと、新たなスタートを切ったJR九州が、鉄道事業を維持しつつ地域経済とともに発展・持続する企業であり続けることに期待したい。
【山下 康太】
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