2024年11月23日( 土 )

【特別対談】経営の根元を考える「理念経営」のすすめ(中)

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(一社)福岡県中小企業家同友会 代表理事
(株)ヒューマンライフ 代表取締役 中山 英敬 氏

日創研・福岡経営研究会 会長
健康住宅(株) 代表取締役 畑中 直 氏

最も大事であり最も難しい「健全な価値観」を手に入れること

 ――「理念」という言葉はいろいろな意味で語られますが、それぞれが考える理念とはどのようなものでしょうか。

 畑中 「理念」とは読んで字のごとく「理(ただ)しい、念(おも)い」という意味です。であれば「経営理念」は、正に経営者の考える「健全な価値観」が表現されたものでなければならないと思います。
 たとえば、よく言われる、経営者が持つべき「価値観」に「左手にそろばん、右手にロマン」それに加えて「背中に我慢」というものがあります。やはり、企業は利益を上げ続けなければなりませんし、事業自体の魅力となるロマンも必要です。さらに、誘惑の多い経営者には易きに流れないための「やせ我慢」も必要だと思います。
 社員さんだけではなく、経営者にとっても「健全な価値観」を手に入れることは、簡単なことではありません。

 中山 私自身は理念とはどんなに環境が変わろうが決してぶれない考え方、究極の目的。根底にある価値観であり、永遠に追求し続けるものだと思います。同友会で定義している理念とは「事業経営を行うにあたっての経営の価値判断の基準となる根本的な考え方を表明したもの」で「企業の目的は何か、何のために経営を行うのか、どのような会社を目指すのかを述べたもの」と言えます。

 ――健全な価値観により理念を定めても、それを経営幹部や従業員に浸透させることはさらに難しいと思いますが、いかがでしょうか。


 畑中
 これはやはり、経営者がまじめに頑張るしか方法はないと思います。社長は誰よりもお給料をいただいているわけですから、当然、誰よりも仕事をしなければなりません。「理念浸透」のためには、社長が本気で理念通りに生きている姿を見せるのが、最も効果的な方法だと思います。
 しかし、当然のことですが、頑張るだけでは疲弊するだけです。そこには企業の成長はありません。先ほども申し上げましたが、努力している社員さんが正当に評価される社風や制度も必要ですし、多少面倒で気恥ずかしくても、朝礼などでの経営理念の唱和なども大事ではないでしょうか。
 中山 弊社でも朝礼で理念に基づくスローガンの唱和を行っています。弊社のスローガンは『「日本一のコールセンター」を目指して―ありがとうが飛び交うコールセンターにしよう!』です。私たちが掲げる『日本一』とは、会社やコールセンターの規模ではありません。「あそこに電話したときの応対は素晴らしい。いつも元気で明るくて、優しい気持ちや思いやりの気持ちが、どんどん伝わってくる」と言われるような、日本で一番、電話の応対が素晴らしいコールセンターのことです。

「伝えよう」としているだけでは理念は浸透しない

 ――ヒューマンライフには「相互信頼」という経営理念が掲げられていますが、従業員への浸透については、どのように感じていらっしゃいますか。

nakayama2 中山 理念を「伝えよう」としているときには、なかなか伝わりませんでした。ふとしたときに、従業員はさまざまな課題を抱えながら働いていることに気づいたのです。その課題を解決するため、コミュニケーションを積極的にとるようにしました。しばらくして、従業員の表情が明るくなってきたのです。積極的にコミュニケーションをとることで、仕事だけでなく、プライベートにおける課題まで私の耳に入るようになってきました。私も積極的に、その課題について世間話的に従業員へ話しかけていったのです。すると、「社長は私たちのことを考えてくれている。話を聞いてくれる」という雰囲気が醸成されはじめたのです。常日頃のトップの言動は従業員から見られています。ある管理職の女性からは、「社長変わりましたね」とも言われました。
 そのとき私は、従業員を「変えよう変えよう」とするだけではだめだ。社長が変わることで会社も変わり始めるのだと気づきました。理念(価値観)は、その人の生き方や仕事のなかで見えてきます。従業員がどうかという前に、自分自身の常日頃の言動が理念に沿っているかが最も重要なのです。自分の生き様(従業員への思いや仕事への姿勢)で伝えていこうと思いました。弊社は創業当時から「Let’s live a full life!」という基本理念はありましたが、その頃に社内外の信頼関係の重要性に気づき、「相互信頼」という経営理念を新たに設けたのです。経営理念や経営指針があっても根底に信頼関係がないと何も伝わらない。

 ――御社はコールセンター事業ということもあり、従業員数が多いですが離職率は低いですね。

 中山 弊社は正社員60名、パートさん約100名に働いてもらっています。弊社では毎月20~30名の従業員と個人面談を行っていますが、基本的には話を聞くだけです。「最近、仕事はどうだ」「何か困っていることはないか」と投げかけると、従業員から要望や提案が出てきます。すぐにできることは着手し、時間がかかることは計画を立てて取り組みます。また、できないことは何故できないかを説明します。そういうことを続けていると、嬉しいことに、共通して「この会社は人を大切にしてくれる」と言ってくれます。
 弊社では女性も多く活躍していますが、小さなお子さんを持つお母さん方も少なくありません。そんなお母さん方には、「母親業」を優先してくださいね、と言っています。子どもが急な病気や怪我をしたときには、そちらを優先してほしいのです。よく人材不足と言われますが、規模の大小に関わらず、魅力ある会社には人が集まってくれます。弊社でも採用活動を行っていますが、入社1~2年の従業員が「この会社は人を大切にしてくれる」と宣伝してくれるのです。その結果、ありがたいことに毎年目標人数は採用することができています。

 ――健康住宅も離職率の高い業界内でありながら、離職率が低いことに加え、一度退社した従業員が戻ってきていますね。

 畑中 現在、一度退社して弊社で働いてもらっている社員さんが8人います。ご存知のように、住宅会社は設計や住宅営業、現場監督といった特別なスキルを持ったスペシャリストで構成されます。なので、同業者からの引き抜きに合いやすい業界です。たとえば、優秀な設計士や営業マンを引き抜いたことで、一気に業績が向上することも珍しくありません。必然的に、給与水準も他の業界より高いのではないでしょうか。弊社の8人の出戻り社員さんも、当時はいろいろな事情で退職したのですが、しばらく他社で多くの経験を経たうえで、我が社の噂を聞きつけ、「戻りたい」と申し出てくれました。その彼らが、「会社が変わった。それ以上に社長が変わった」などと、口をそろえて言ってくれます。昔はよっぽど酷かったんだろうなぁと思いますが(笑)。戻ってきた社員さんは、弊社しか知らない社員さんに「うちは良い会社なんだよ」なんて言ってくれたりもしますし、感謝してくれます。
 住宅会社では、優秀な社員さんの独立も珍しくはありません。今でも入れ替わりが非常に多い業界でもあります。創業間もない頃は、弊社も入退社が頻繁にありました。
 今の社風の根底に「理念経営」があることは紛れもない事実だと思います。

(つづく)
【文・構成:永上 隼人】

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