広葉樹の植栽で森林を再生(3)
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多良木町森林組合 代表理事組合長
味岡グループ 代表
味岡 和國 氏森林再生への挑戦
下降傾向にある林業のなかで健闘する多良木町森林組合は、新たな挑戦に取り組んでいる。その挑戦は、広葉樹の植栽である。まずは、15年春にシラカシ6,600本(2.22ha)、16年春にヤマザクラ6,000本(2ha)、トネリコ1万140本(3.38ha)、ヤマモミジ6,000本(2ha)を、味岡組合長の所有する山林にそれぞれ植栽した。味岡組合長は、先の熊本地震発生の際に、森林の危機と再生について次のように語る。
「我々の森林組合内は、広葉樹の植栽を始めました。なぜなら、森林を再生するためです。我が国の森林の主力であるスギ・ヒノキなどの針葉樹は、根が浅いので、保水力が低く、土石流の大きな原因となります、一方、広葉樹は縦横に深く根を張ることで、保水力を高め、土石流の発生を防ぎます。今の木材の材価は、立方メートルあたり約1万円前後です。ここ数年、価格が上がることはありません。厳しい市況です。さかのぼって、戦後に国策で日本全国の山にスギ・ヒノキを植栽することを推進しました。国が補助金を出して、各地の山地にどんどん植えていき、そしてその木材の加工場を国と自治体が補助金を出して各所の森林組合に開設し、稼働させました。そして結果的には、生産過剰となりました。そのようななかで、通常スギやヒノキは40~50年のサイクルで伐採されますが、その伐採を10年単位で延長するように国から下されております。それが2、3回続くと60、70、80年となり、木材の価値が低下することで、山を手放す林業従事者が増加しております。なぜそのような状況となったのか――。さまざまな理由がありますが、木の品種改良ができなかったことです。さらに、切らずに先延ばしされた木の質は低下し、間伐材が増えてしまっています。バイオマスでの用途がありますが、エネルギーとして使用して採算ベースに乗せるには最低でも10万m3の間伐材が必要で、その規模の設備投資は莫大となり、ほとんどが稼働していないのが現状です。そのため我々は、独自でスギ・ヒノキの針葉樹に変わって、広葉樹を植えております。現在、広葉樹の山が存在するのは北海道と、九州では九州大学が椎葉村に所有している原生林だけではないでしょうか。広葉樹を植えることで生態系を良化させ、さらに自然災害から地域を守ることができるのです。これは、山林で仕事を行う専業者であるからこそできる提言です」。
先の熊本地震の際の阿蘇での土砂崩れについて、スギを阿蘇外輪山全体に植えたことが土石流発生の原因とし、1日も早くスギを伐採して、広葉樹や低床の木を植えることを味岡組合長は提唱する。
「春は桜、秋は紅葉など、自然に沿った山林に戻すことが急務です。そして山林で保水されることで、洪水を防ぐことができます。地震が発生した後の二次的な被害が最小限となるのです」(味岡組合長)。
だが一方で、広葉樹の植栽には針葉樹よりも約3~4倍のコストが必要となる。さらに、森林・林業の事業は半世紀から1世紀単位の仕事となるが、なかでも広葉樹においては最低でも100年――すなわち1世紀の歳月を要するという。今から植栽しても、樹木として使えるようになるためには、2~3代後になるのだ。しかもその間、経済面から見ると1円の業績をもたらすことはできない。すなわち収入はない。
環境の保全、そして自然災害の観点からの実施で、「理念には賛成だが、実際に今の山林を広葉樹に植え替えることは、とても困難である。なぜなら生業であるから、スギ・ヒノキをすべて広葉樹に変えれば、生活が成り立たなくなる。林業以外に収入源があればできるが、林業のみで生計を立てている人々は難しいだろう」(林業関係者)と、理想と現実の狭間で悲観的な意見もある。
(つづく)
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