2024年12月24日( 火 )

「領袖」となった習近平主席の次の一手!(2)

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(株)アジア通信社 代表取締役社長 徐 静波 氏

「国退民進」と「国進民退」

 ――昨年は、一部のマスメディアで、習近平主席と李克強首相の仲が取り沙汰されました。この点はどのようにご覧になられていますか。

 徐 今、中国経済は多少足踏み状態になっています。その原因の1つは習主席と李首相の経済政策の違い、といわれています。官僚たちが、政策の設計段階、実行段階で右往左往してしまっているわけです。

 李首相が「国退民進」を提唱する一方で、習主席は「国進民退」を提唱しています。「国退民進」とは、国営企業の独占分野の一部を民間に開放し、中国を一気に市場経済に持って行き、活力をつけるという考え方です。一方、「国進民退」とは、国営企業を充実させ、経済の安定を保ったうえで、民間企業のことを考えるというやり方です。前者は国営企業と民間企業の割合をできるだけ拮抗させることを目標に掲げるのに対し、後者は国営企業の比率をもっと高めて、経済を安定させることを最優先にしています。

例を見ない「14億人の市場経済」

kakusa 徐 この違いがもっとも大きく現れているのが、農村(地方)と都会の関係です。李首相は農村からもっと都会に人口を移動させ、マンション、電化製品、車などを買ってもらうことによって、市場を活性化させ、そこで生まれたお金の一部を社会保障制度に回すことが可能であると考えています。

 しかし、習主席は農村(地方)から都会への移動は、あくまでも社会保障制度と一体化した改革でないと政情不安が起こる可能性があると考えています。それは、たとえば農村から上海に移動してきたおじいさん、おばあさんが病気になり、上海の病院に行っても保険が効かないからです。中国の国民健康保険は地方ごとに違います。その場合は高額の治療費を全額自己負担するか、保険の効く農村の病院に行くしか選択肢はありません。農村から都会への移動は、年間2,000万人、3,000万人単位で起こります。もし、李首相の提唱する経済政策を進めようとすれば、その進行過程であまりにも国の負担が大きすぎると考えています。一見すると、「鶏が先か、卵が先か」的に見えますが、人類史上、数億はあっても、14億人の資本主義・市場経済は例がありません。一気に進めるかどうかを慎重になるのは当然のことと思えます。

可能性が出てきた李克強首相更迭

 徐 しかし、いずれにしても、このままの状態では、経済政策の設計、実行に影響が出てしまいます。そこで、今中国では、李首相が第2期習近平政権(2019年~2023年)の首相に相応しいかどうかが取り沙汰されています。今年の第19回共産党大会で、現実的な選択肢として、首相が交代する可能性も出てきました。

 中国の政権は、毛沢東と周恩来の「毛周体制」、胡錦濤と温家宝の「胡温体制」など任期10年を同じ首相が務めるようなイメージがありますが、過去に遡ればそんなことはありません。江沢民主席時代の首相は、前半が李鵬、後半が朱鎔基、鄧小平時代の首相は、華国鋒、趙紫陽、李鵬と3人が務めています。

AIIBには先進国の英知が結集

 ――昨年大きな話題となりました、アジアインフラ投資銀行(AIIB)および、「一帯一路」の進捗は如何でしょうか。

 徐 AIIBは順調に進んでいます。現在、加盟国は大幅に増え、96カ国(創設時点では57の国や地域)を超えました。アジア開発銀行(ADB)を加盟国数では大幅に超えたことになります。日本とアメリカを除く先進国は、全て加盟しています。さらに、南米の多くの国から、加盟に関する積極的な打診を受けています。日本のマスコミ報道では、当初「中国の銀行」という誤った報道がされました。もちろん、最初の構想は中国ですが、現在、中国資本は30%を切っています。何よりも、創設時点から、イタリア、フランス、ドイツなどのEU諸国、イギリス、オーストラリア、韓国など親米国も参加して、まさに先進国の先端知が結集しています。アジア地域開発、インフラ建設などに大きな力を発揮していくことができると考えています。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
jo_pr徐 静波(じょ せいは)
政治・経済ジャーナリスト。(株)アジア通信社社長兼『中国経済新聞』編集長。中国浙江省生まれ。1992年に来日し、東海大学大学院に留学。2000年にアジア通信社を設立し、翌年『中国経済新聞』を創刊。09年に、中国ニュースサイト『日本新聞網』を創刊。著書に『株式会社 中華人民共和国』(PHP)、『2023年の中国』など多数。訳書に『一勝九敗』(柳井正著、北京と台湾で出版)など多数。日本記者クラブ会員。経団連、日本商工会議所、日本新聞協会等で講演、早稲田大学特別非常勤講師も歴任。

 
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