2024年11月05日( 火 )

驚くべき勢いで公約を実現するトランプ新政権(前)

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副島国家戦略研究所・中田安彦

 ドナルド・トランプ新政権が誕生して、2週間が経過した。2週間目の途中の先月27日に発表した、イラクやシリアを含む中東7カ国からの難民の入国禁止を始めとして、新大統領は議会の手続きが必要ない大統領令(エグゼクティブ・オーダー)を乱発して、各省庁の閣僚人事の承認も済まない間に、政権の舵取りを行い、世界中を驚かせている。

usa_america2-min 1月20日の就任演説で、現在のアメリカを破綻した国家になぞらえ、グローバリストたちに牛耳られてきたワシントンの支配層に対する「挑戦状」を叩きつけたトランプ新大統領が意識しているのは、まさに1990年代以降のアメリカ主導のグローバル化経済で取り残された困窮する有権者たちだった。

 新大統領は、就任早々、多くの政策的に効力を持つ大統領令と覚書(メモランダム)を発表した。ホワイトハウスのウェブサイトによると2月3日時点で大統領令は7つ、覚書は11出されており、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉からの永久的離脱はメモランダムに含まれている。

 その他、この2週間でトランプ新政権が打ち出した政策やオバマ前政権の政策の見直しには、大統領令で、オバマケアによる金銭的負担の軽減策やその廃止の方向性、アメリカ南部のメキシコ国境への壁建設、不法移民政策の強化、優先すべきインフラ建設計画の明確化、移民・難民の受け入れ停止、連邦職員の退任後5年間のロビイング活動の禁止が打ち出されており、覚書では、海外で妊娠中絶を支援するNGO(非政府機関)に対する公的援助の禁止、軍人以外の連邦職員の新規採用の当面の凍結、パイプラインの新規建設についてもの、オバマ政権で建設の是非が問われた州をまたぐ石油パイプラインの建設許可、米軍の強化、30日以内にISISを打倒する計画を立案すること、国家安全保障会議(NSC)の組織改組などが含まれている。NSCというのは、国家安全保障担当補佐官が議長を務めるホワイトハウスにおける最重要の安全保障の機構であり、かつてはキッシンジャーやブレジンスキーがトップを務め、大統領を補佐してきた。現政権では、「ロシアびいき」とメディアから批判された、マイケル・フリンが率いる。

 なかでも、NSCの組織見直しでは、従来常任メンバーであった、統合参謀本部議長と国家情報長官を非常任メンバーとした。変わって常任メンバーに、トランプを選挙戦のときから支援してきた、保守系メディア「ブライトバート・ニュース」の編集長で新政権のチーフ・ストラテジストに起用された、スティーブ・バノンを加えた。統合参謀本部議長というのは米軍の4軍を統率する制服組のトップであり、1949年以来常に常任メンバーとして参加してきたわけで、この改組は理解に苦しむところがある。関連する案件では出席を認められているため、大きな変化ではないのかもしれないが、トランプ政権はISISの殲滅を選挙期間中から主要な安全保障の目標としてきただけに統合参謀本部議長の常任はずしは不可解である。バノンが率いてきたブライトバート・ニュースは、早い話が日本で言う「ネット右翼」御用達のニュースサイトであり、差別主義を助長する編集方針に貫かれていた。バノンは「ニューヨーク・タイムズ」に対するインタビューで、「メディアは抵抗勢力(the opposition)だ」と発言するなど「武闘派」そのものである。

 発足する前からトランプ政権は、ロシアとの関係や自ら築き上げてきたビジネスを政権とどのように切り離すのかを巡って批判を受けてきたが、発足一週間にして、中東諸国からの一時入国禁止の政策の発表で、全米で抗議行動の洗礼を浴びてしまった。就任早々、スパイサー大統領報道官が、就任式の聴衆の数を巡って既存メディアを激しくこき下ろしたり、その数について大統領が実際よりも数を多く吹聴していることが「もう一つの事実」(オルタナティブ・ファクト)であると、選挙期間中もメディアに出ずっぱりだった、大統領顧問のコンウェイ女史が擁護したことなどもあった。更に、大統領は選挙後にも言っていた、「不法移民による数百万の不正投票」の疑惑に対する調査も蒸し返した。大統領の激越さを和らげるのではなく、むしろ一緒になってメディア批判を繰り返す報道官、顧問、ストラテジストたちが既存メディアとの対立を激化させていった。問題となった入国規制の大統領令は、スティーブ・バノンのアイデアで、各省庁に対する根回しなしに、いわば抜き打ちで発表したようだ。国務長官や司法長官も決まっていない段階でこのような大きな政策変更を打ち出すのは前代未聞で、これがトランプ政権の特徴をよく表している。トランプ政権は入国規制の大統領令署名後に、全米や全世界の空港で起こった大混乱や280人にものぼる一時の身柄拘束の発生を受けて、メディアには「オバマ政権でも同じようなことをやった」と釈明したが、その後、識者の調査では、根回しの徹底も含めて、似て非なるものだったことがわかっている。しかし、このことも「オルタナティブ・ファクト」というのだろう。

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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