一般メディアが語る「中国」はわかりやすすぎる!(1)
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東京大学大学院総合文化研究科 川島 真 教授
今中国は世界の大国になった。中国を抜きにした世界や東アジアの構想は考えにくい。
しかし、中国が「どのような大国なのか」あるいはこれから「どのような大国になるのか」と問われると答えに窮する。中国を説明する際の常套文句に「“群盲象を撫でる”ではなく、“等身大の中国”を捉えねばならない」というのがある。しかし、国土は日本の25倍、米国の2倍で人口は日本の10倍、米国の4倍、以上ある中国の「等身大」を一体誰が知っているのか。
川島 真 東京大学大学院総合文化研究科教授に聞いた。川島先生は話題の近刊『中国のフロンティア』(2017年3月.岩波新書)と『21世紀の「中華」』(2016年11月.中央公論新社)を通して、この謎解きに挑戦している。そして、そこには、北京の言説からも、英語や日本語の言説からも、私たちが目にすることができなかった事実が書かれている。きめ細かく、客観的に考察をしていく必要がある
――本日は近刊『中国のフロンティア』を中心に中国の「世界進出」(外交政策)について色々とお聞きしたいと思っております。
川島真氏(以下、川島) ご紹介いただいた近刊『中国のフロンティア』(2008年‐13年の事実)と昨年末に出版しました『21世紀の「中華」』(2012年後半‐16年の事実)はその成り立ちは大きく異なります。しかし、読者にお伝えしたかった点は共通しています。中国の外交政策は2008~9年頃から急速に変化しました。そうすると、次に「その変化をどのように説明するのか」ということが問題になります。この問題に対して、研究者はそれぞれが独自にとてもきめ細かく考えています。
ところが、世間一般のメディア、言論空間で語られる内容は、しばしば「中国はおどろおどろしい強硬政策をとっており、何でも自分の思い通りにやろうとしている」という、とても“わかりやすすぎる”ものになっています。それは、それであながち間違いとは言いません。しかし、実態に即して、時系列に、もう少し丁寧に、きめ細かく、客観的に考察をしていく必要があると思っていました。
もう少し中国に寄り添って考える必要があります
実態に即して考察をするとは、とりあえずはまず中国に寄り添って考える必要があるということです。
論点は大きく分けて3つあります。1つ目は、中国外交の相手、すなわち世界進出する相手国の立場になって考えてみることです。日本のメディアでは、中国の世界進出を論じる場合、「中国が進出する」という中国が“主語”のものがほとんどです。中国が世界進出する際に中国側に要因があることはもちろんです。しかし一方で、中国を受け入れる主体がなければ中国は進出できません。つまり、受け入れ側にも要因があるということです。この双方から考察していかないと、正しい解を得ることはできません。
2つ目は、中国の世界進出を全て主席(現在であれば習近平主席)の大号令のもとに、「一君万民体制」(ただ一人の君主にのみ生来の権威・権限を認める)で行われているというステレオタイプ的な見方が本当に正しいものであるかどうか、という問題です。
3つ目は、日本に向けている外交姿勢が中国の全てで、日本以外の国に向けているものと同じであるかどうかという問題です。中国の外交姿勢は東西南北で大きく異なっています。その内、日本、米国、台湾などが位置する東に向けている外交姿勢が、現在では一番強硬で厳しいものとなっています。それに、対抗していかなければいけないことはもちろんです。
しかし、一方で「では、日本は中国との関係に関し、未来に向けてどのような外交姿勢をとっていくべきなのか」を考える際には、残りの西南北に位置する国々(欧州、アフリカなど)への外交姿勢を考慮した上でないと、正しい判断はできません。
中国の現場「フロンティア」に行ってみることです
以上の3つのことを考察していくための方法論は2つあります。1つは、時間があれば、実際にそのものが変化している中国の現場「フロンティア」に行き、あるいは中国社会の中に入って対話をし、その現場でものを考えることです。この方法論に基づき著したのが『中国のフロンティア』です。実際に私が、2008年から13年にかけて、アフリカ、東南アジア、或いは金門島などに行き、その現地の目線から捉えようと記してきた文章をまとめたもので構成されています。
一方で、『21世紀の「中華」』は、2つ目の方法論に基づいて書いています。それは、文献を読み込んで「日本側がそれをどう受けとめているのか」、また「日本側がそれを受けとめた上で、海外発信をどのように行うべきか」という視点です。14年から16年に雑誌等に発表した短い文章を基本に構成されています。
(つづく)
【金木 亮憲】<プロフィール>
川島 真(かわしま・しん)
1968年神奈川県横浜市生まれ。1997年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程、単位取得退学、博士(文学)。現在、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻教授(国際関係史)、専攻は中国近現代史、アジア政治外交史。世界平和研究所上席研究員、nippon.com企画編集委員長、内閣府国家安全保障局顧問などを兼任。
著書として『中国近代外交の形成』(名古屋大学出版会、サントリー学芸賞)、『近代国家への模索 1894‐1925』(岩波新書)、『中国のフロンティア』(岩波新書)、『21世紀の「中華」』(中央公論新社)他多数。編著として、『東アジア国際政治史』(共編、名古屋大学出版会)、『チャイナ・リスク』(岩波書店)他多数。関連キーワード
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