2024年11月24日( 日 )

日本の未来を開く科学技術イノベーション戦略:米中に勝てるか(前編)

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」から、一部を抜粋して紹介する。今回は、6月16日付の記事を紹介する。


 我が国は世界最高レベルの知的財産立国を目指す方針を打ち出している。その実現のため、年間4兆円を超える科学技術関連予算を投入してきた。これまで長年に渡り、科学技術をベースにしたものづくり大国として国内の雇用を創出し、海外市場において「メイド・イン・ジャパン」の評価を高めてきた日本であるが、今後はそうしたものづくりのベースの上にソフトパワーを加える時代に突入したといえるだろう。例えば、iPS細胞の医療への応用には大きな期待が寄せられている。これも科学技術イノベーション戦略の成果といえよう。

 とはいえ、課題も多い。グローバル化が進むなか、日本企業の国際競争力が低下することは由々しい事態である。成長産業に欠かせない技術の流出を防ぎ、模造品対策を強化するためにも、特許として守るべき技術やアイディアは日本国内の権利化だけでは不十分となっている。確かに、わが国企業による国際特許出願件数は増加傾向にはある。

 しかし、欧米企業と比較すれば、見劣りするばかりだ。なぜなら、自国に出願している特許の内、海外にも出願している比率で見れば、アメリカが53%で、ヨーロッパが47%であるのに対し、日本は29%に留まっているからだ。しかも、中国や韓国の特許出願数は急増しており、特に、中国はアメリカを抜き去り、2011年には特許出願数で世界1となった。2012年には世界シェアーの4割を占め、その後、今日に到るも、その勢いは止まるところがない。

 最近、中国が世界を驚かせたのは、環境技術である。黄砂やPM2.5などによる環境汚染が深刻化している中国。大気、水源、土壌の汚染が進み、健康被害が広範に報道されるようになった。政府の環境保護局の報告書によれば、北京だけで毎年100万人もの奇形児が生まれているとのこと。こうした状況に対して、環境浄化の技術開発が焦眉の急となっている。汚染大国の汚名を返上すべく、習近平国家主席の大号令の下、環境改善に向けての取り組みが加速。

 そこで登場したのがスモッグ吸引装置である。公害の深刻な地域に実験的に導入が始まった。巨大な空気清浄機といえるだろう。注目すべきは、石炭工場や自動車から排出されるガスを浄化するのみならず、集めた汚染物質からダイヤモンドを製造するという関連技術に道筋をつけたことである。確かに石炭もダイヤモンドも基本元素は同じである。商業化はこれからだろうが、いち早く特許申請がされた模様だ。

 また、同じ技術を応用し、自転車を走らせることで、汚染された大気を浄化させる装置も発明されたという。名付けて「大気浄化自転車」。「必要は発明の母」というが、環境汚染というピンチを逆手に取り、新たな環境浄化技術の発明、開発につなげているのが、最近の中国である。

 そうした背景もあり、意匠登録出願件数でいえば、中国は世界1の66万件と圧倒的である。韓国ですら6万5,000件であるのに対し、日本は3万2,000件に過ぎず、欧米のみならず、アジアの新興国の後塵を拝する状況に甘んじている。また、商標登録出願件数でも、中国は140万件とダントツで、日本は10万件に過ぎず、中国の10分の1にも及ばない。

 では、どこに問題があるのであろうか。わが国の知的財産を保護するという観点からいえば、現場の特許庁に働く審査官の数は諸外国と比べて少ないことも一因と思われる。具体的に言えば、わが国の審査官の数は約1,700人である。対して、アメリカは約7,800人、中国においても約5,700人となっており、特許に関する早期審査体制を確立し、わが国の知的財産を守っていくためには必要な専門家の増強が焦眉の急といえるだろう。

※続きは6月16日のメルマガ版「世界最新トレンドとビジネスチャンス」第69回「日本の未来を開く科学技術イノベーション戦略:米中に勝てるか(前編)」で


著者:浜田和幸
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