博多駅前陥没事故に『消えた事故要因』、検討委の報告を改ざん?
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昨年11月8日に発生した博多駅前陥没事故で、原因の究明にあたった検討委員会(以下、検討委)の報告書の極めて重要な内容が、その概要書において消えていることがわかった。消えた内容とは、陥没箇所の地質構造や物性の不均質性を前提とした施工前の詳細地質調査や設計における対応が不十分だったと指摘するもの。高島市政が、責任逃れを図るためには極めて不都合な内容である。
概要書で消えていた検討委の指摘
検討委は、首都大学東京の西村和夫副学長(都市環境学部教授)を委員長、土木工学の技術者や福岡県外の地下鉄関係者が委員として昨年11月29日に設置。事故後の地質調査などをふまえ、今年3月30日までに検討を重ねていた。その結果、今年5月に出された報告書によると、事故を起こした工事に関し、設計時に行われたボーリング調査は2010年と11年に行われた2カ所。市交通局は、これに他事業で行っていた4カ所を加えた計6カ所で設計を行い、工事を発注。13年に同工事を受注した大成建設(株)を代表企業とする共同企業体(以下、大成JV)は、施工時の15年11月に新たにボーリング調査を追加。それぞれの調査が行われた位置関係を見ると、陥没事故の発生箇所付近では2本のみ。検討委は、トンネル上部にある地層(難透水性風化岩)に、堆積環境やその後の風化度合いによる強度や厚さのバラツキがあったとし、「一部は岩盤とは言い難いほど軟弱」とも指摘している。
事故の原因について、検討委は、95ページにおよぶ報告書のなかで以下のように結論づけた。
ところが、同報告書を要約した6ページの報告書概要では、以下のように記載されていた。
見比べると一目瞭然。概要で引用された文章は基本的に一言一句同じだが、後半の部分がすっぽりと抜け落ちている。
陥没を招いた施工後の変更
施工時、大成JVは、新たに自前で実施した調査に基づき、トンネル上部の厚みを増すため、天端を約1.2m下げるようトンネル断面形状を変更。これがアーチアクション効果の減少を招き、陥没を招いた原因の1つとされた。アーチアクションとは、「石のブロックをアーチ状に組むとブロック相互に圧縮力が働き、ブロック同士を接着していなくても梁の構造を保つことができる。アーチ形状が寝てくると、圧縮力が弱まり、やがて梁の構造を保てなくなる」(検討委員会の報告書より)というもの。
加えて、トンネル上部の地層のさらに上の層(未固結帯水砂層)からの水圧に対し、当初、薬液を注入して地盤を強化するよう計画されていた補助工法も、都市部の地下を走るライフラインなどの地下埋蔵物が支障となることから実施されなかった。同工事は、トンネル断面や地盤強化の補助工法など、重要部分について変更を余儀なくされており、調査不足に言及した報告書(原本)の内容をふまえると、発注者である市交通局側にも責任があったことは明白だ。
責任逃れの高島市政に助け舟
福岡市役所は5月31日、検討委の報告を根拠とし、発注者である市交通局による設計や監督に損害賠償を負うべき過失はなかったとして、大成JVとの間で、大成JV側が陥没事故による現場の埋め戻し費用や事故現場の近くにある事業者などへの損害賠償を全額負担することで合意。6月16日の福岡市議会一般質問で、市役所側にも責任があると指摘する高山博光市議(城南区)に対しては、市交通局のトップは、「(設計時における地質調査は)通常の都市NATM工事と比較して少ないとまでは言えない」という報告書の極めてごく一部を引用して反論した。
「陥没事故の賠償については大成側との間で話がついており、ほじくり返されることを嫌がっている」(市議会関係者)。市交通局によると、問題の報告書概要は、国の研究機関である国立研究開発法人 土木研究所が作成したという。報告書と報告書概要は、どちらも市交通局ホームページからリンクがあるが、95ページもの分厚い報告書を読む市民はまずいないと踏んだのだろう。実際に、市役所側が、都合の良い部分を切り取って責任逃れをする様を見れば、確信犯的な改ざんと思わざるを得ない。
【山下 康太】
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