「北朝鮮の穴」に吸い込まれつつある韓国の2つのナショナリズム(前)
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北朝鮮がICBM(大陸間弾道弾)の開発に成功した。核実験にも成功しており、金正恩(キム・ジョンウン)の独裁国家が戦略兵器を両手に保有したことになる。ICBM発射は、米国の独立記念日に照準を合わせた「対米威圧」だったが、その後に開かれたG20会議でも、米中ソ日韓の周辺5カ国の足並みは乱れが目立ち、ものごとが北朝鮮ペースで進んでいることを浮き彫りにした。ポイントは、北朝鮮はいかなる事態になろうと、核開発は放棄しないし、北朝鮮は自滅しないということだ。中国とソ連が、間接的に支えているからだ。日本の敗戦後、朝鮮半島には2つの国家が生まれた。それは今、「核保有国」と「反日国家」になった。日本人は眼前にかかる霧を取り除き、腹を据えて「2つのコリア」に対処する必要がある。
ICBM開発に成功した北朝鮮の生存戦略
北のICBM発射をめぐって、毎日新聞解説面に3人の談話が載った。
一読して明瞭なのは、彼ら専門家の想定を超えて事態が進んで来たということだ。平岩俊司・南山大教授は、「米国の一番の誤りは、北朝鮮の体制の強靭さを過小評価したことだ」と指摘した。クリントン政権は「枠組み合意」をつくり軽水炉建設を支援、ブッシュ政権はテロ国家指定を解除した。オバマ政権は「戦略的忍耐」政策を取った。この間に北朝鮮は、核とミサイルの開発を着々と進めて来たのである。ICBM開発をレッドライン(我慢の限界)としたトランプ政権も、手の打ちようがないのが実情である。北朝鮮の核開発は、基本的には「弱者の恐喝」である。
核開発によって、北朝鮮人民の幸福な生活が保障されるわけではない。あくまで金親子三代王朝の保持が、その目的である。「国体護持」を図ってきた大日本帝国が、2つの核爆弾とソ連の侵攻で敗退した事実を、北朝鮮なりに学習した成果とも言える。核開発、ミサイル開発、融和的な中ソの3つが、北朝鮮の生存戦略だ。一方の韓国はどうか。
現在の韓国には、2つのナショナリズムがある。1つ目は「大韓民国」であり、2つ目は「韓民族国家」である。前者は、朝鮮戦争の荒波を潜り抜けた自由主義国家だ。後者は金大中(キム・デジュン)政権以降に顕著になってきた「南と北の共存国家」である。反共イデオロギーが脱色された韓民族中心主義志向だ。これは文在寅(ムン・ジェイン)政権でさらに加速化し、拡大しつつある。
問題は韓民族ナショナリズムが、北朝鮮という「地球の穴」に吸い込まれつつあるということだ。北朝鮮の人民は、自らの悲惨な生活実態にもかかわらず、「ICBMという花火」を見て至福感に包まれる。韓国民のなかには、北のICBMを「韓民族のICBM」として受け止めるという、民族自尊主義の陥穽に陥っている。(つづく)
本稿著者の下川正晴氏の著書『忘却の引揚げ史 泉靖一と二日市保養所』が上梓されました。日本人にとって最大かつ最後の民族的グローバル体験だった敗戦後の「引揚げ」。そしてその狭間で忘れられようとした女性たちが医療の助けを仰いだ二日市保養所の埋もれた歴史を、下川氏が掘り起こします。
▼関連リンク
・忘れられた「二日市保養所」の真実 下川正晴著『忘却の引揚げ史』7月下旬刊行<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)を歴任。国民大学、檀国大学(ソウル)特別研究員。日本記者クラブ会員。
メールアドレス:simokawa@cba.att.ne.jp関連キーワード
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