豊洲新市場の水産仲卸売棟の設計に関する日建設計からの回答
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豊洲新市場の水産仲卸売場棟の設計について、協同組合建築構造調査機構の仲盛昭二理事長は、NetIB-NEWSを通じて、構造設計の専門家としての疑義を指摘してきた。日建設計に対して、3月と4月の2度、同社代表宛てに質問状を送付。回答が得られなかったため、一度、同社の本社を訪問(担当者不在)のうえ、あらためて同社広報室に質問を実施。7月26日、ようやく回答が得られた。
同社への質問は下記の通り。
1.保有水平耐力計算における構造特性係数(Ds値)の偽装
必要保有水平耐力を求めるために用いる係数の一つである構造特性係数(Ds値)は、建築基準法施行令 第82条の3及び建設省告示「昭55建告1792号」に定められており、この規定に適合しない建物は法令違反の状態です。
水産仲卸売場棟の柱はSRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)であり、1階の柱脚(柱の最下部)は地下部分に埋め込まれていない「ピン柱脚」(設計者が計算書にピン柱脚とのコメントを明確に記入)となっています。ベースプレートより下部の層については鉄骨が存在しないので、保有水平耐力計算のおける構造特性係数(Ds値)は、RC造として計算しなければなりません。
しかし、日建設計の構造計算書では、1階のDs値も上階と同じ数値が採用されており、SRC造におけるDs値「0.05」の低減が為されており、RC造として計算されていません。
構造特性係数(Ds値)を、RC造の値ではなく、ピン柱脚では採用してはいけないSRC造の値を採用した理由について、法的根拠も含めてお聞かせください。2.Ds値を低減したため、保有水平耐力がNG
水産仲卸売場棟の保有水平耐力計算において、規定に反しSRC造の特例を採用し、正しい(RC造の)Ds値よりも「0.05」低減された数値となっているため、この点だけを取り上げても、約15%の耐力偽装となっています。
御社の説明では、「耐震強度は東京都が定める1.25を上回る1.34なので安全」と説明していますが、1階のDs値を適切にした(SRC造の低減を採用しない)場合、1.34×(0.3/0.35)=1.14 < 1.25で、耐震強度が、東京都条例に定めている1.25を下回り「NG」という結果になります。
東京都条例に定めた保有水平耐力比(耐震強度)を満たしていない状態であっても、それを、日建設計は、「構造上安全」と考えるのか、「補強などの対策必要」と考えるのか、法的根拠も含めて、御社のご見解をお聞かせください。3.ピン柱脚の鉄量が不足
ピン柱脚には鉄骨が存在しないため、1階柱頭と比較して極端に耐力が減少することを防ぐため、柱脚の鉄量(鉄骨+鉄筋+アンカーボルト)を、柱頭の鉄量と同等以上とすることが、「2007年版建築物の構造関係技術基準解説書」(国交省監修)に明記されています。水産仲卸売場棟の構造計算では、柱脚の鉄量は、柱頭の56%しかないので44%も不足した状態となっています。
この状態は、大地震が発生した場合に、建物の肝心の足元が崩れ、建物全体に被害が及ぶことになります。もし、この点について、御社が、設計時において、特別の検証を行っているのであれば、検証記録を提示してください。
また、設計段階で、特別の検証を行っていないのであれば、鉄量が規定の半分程度しか存在しなくても問題ないということになりますが、御社のご見解をお聞かせください。4.層間変形角が建築基準法施行令第82 条の2 に違反
御社の構造計算書では、「層間変形角が1/200を下回っていること」(明確な法律違反)について、コメントを追記しており、層間変形角が法令の規定に適合していない建物であることを、自ら認識しています。
御社の構造計算書では、計算書に階数の矛盾があり、二つの事象において階数を使い分けています。これは、層間変形角を操作するために、階数を変更し、階高を高く設定したとしか考えられません。5.検査済証の交付について
2016 年12 月28 日付で、東京都建築主事より、豊洲市場の全街区について「建築物及びその敷地が建築基準関連規定に適合している」(建築基準法第七条五項)ことを証する「検査済証」が交付されています。
ただし、検査済証は、完了検査により、図面と施工が合致していることを確認するものです。御社が受けた完了検査では、構造計算書の中身までチェックしているのでしょうか。以上の質問に対し、同社広報室から返ってきた回答は以下の通り。
お世話になっております。
7月21日にメールにて頂戴したご質問について回答します。
豊洲市場の建物の安全性については、市場問題プロジェクトチームにて確認済みです。
下記のリンクをご参照ください。
http://www.toseikaikaku.metro.tokyo.jp/shijyoupt-index.htmlよろしくお願いいたします。
株式会社日建設計 広報室
以上の日建設計の回答について仲盛氏に解説を求めたところ、以下のような、コメントが寄せられた。
仲盛昭二氏 日建設計は、上記の質問に対し、「市場問題プロジェクトチームにて安全を確認済み」と、法的・工学的な根拠に基づく回答から逃げており、建築技術者として甚だ不誠実な行為である。回答から逃げた理由は、「回答できない」からである。明らかに建築関係法規に違反した設計を行ったという事実を、法的・工学的に正当化させることは不可能なのである。
日建設計及び東京都知事に質問状を送付した後に開催された、第8回(平成29年4月26日)~第10回(平成29年6月5日)の市場問題プロジェクトチームでは、質問内容に関する議論は一切行われていない。たとえば、第10回の議事録を見ると、構造計算における床の厚さの誤りや積載荷重に関する問題には触れているが、建築関係法規違反である「層間変形角の制限値違反」、「保有水平耐力計算における構造特性係数の偽装=結果的に構造耐力不足」、「1階柱脚の鉄量が規定の半分程度」などといった、重大な建築関係法規違反について論じられていない。
なぜ、再三の指摘にもかかわらず、構造上の重大な問題を議論しないのであろうか。構造耐力が不足していることは、市場関係者の安全に関わる問題であり、地震が発生した場合に、市場が機能を果たせない恐れもある。市場の存在が成立しない可能性もある、非常に重大な問題にもかかわらず、プロジェクトチームで議論しない理由は何か。
それは、この構造上の大問題を取り上げれば、市場の移転ができなくなるからである。土壌汚染問題は、汚染が解消されたことを確認できれば、移転に支障がないという判断になるであろう。しかし、建物の構造上の安全性が確認できない場合、建て替えや補強などの措置が必要となり、事実上、市場の移転は不可能になるのである。
築地市場の老朽化、豊洲市場は巨額の公費により建築済みという状況で、豊洲への移転ができなければ、東京の市場問題は、数十年前に戻って、再度、計画をやり直さなければならなくなる。
市場移転は、東京都にとって重大な問題であるが、日建設計が建築関係法規に違反した設計を行った事実を指摘しているのである。「安全が確認されている」という次元の問題ではなく、法令違反という行為が、建築基準法や建築士法による処罰の対象となるということである。このことは、国土交通省の見解を求めることとする。過去の処分事例では、「建物の安全性は関係なく、設計業務そのものが懲戒の対象」とされている。まさに、日建設計の法令違反の設計行為は、これに該当するのである。
※回答内の参考資料9ページをそのまま転写。カラーの書込みは日建設計による書込み。
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