2024年11月22日( 金 )

博多駅前陥没事故、真相に迫る市民討論会~後藤惠之輔博士が講演

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市民の安全よりも経済性を優先

後藤 惠之輔 長崎大学名誉教授

 5日、福岡市内で、昨年11月8日に発生した博多駅前陥没事故に関する市民討論会(福岡・住環境を守る会主催)が開催された。討論会前には、地盤工学の専門家である後藤惠之輔 長崎大学名誉教授(工学博士)と、陥没事故の被害者でもある博多総合法律事務所の山本哲朗弁護士が講演。陥没事故の原因や事故後の対応について、活発な意見交換がなされた。

 後藤博士は、福岡市営地下鉄が博多駅に乗り入れる際に実施されたアンダーピニング(基礎補強)工事で、国鉄(当時)が設置した博多駅技術委員会(1978年5月~85年2月)の委員であった経験をふまえ、事故現場およびその周辺の地下水位が高いことは、当時から知られていたと指摘。陥没発生の50分前に、連続的地盤強化のためのAGF工法(注入式長尺先受工法)で用いる鋼管の間で、連続的な肌落ちが起きていたことに着目し、「鋼管でトンネル上の薄い岩盤に穴を開けた可能性がある」と語った。

市民討論会の様子

 討論会では、工事の発注者である福岡市に対し、市民の安全を軽視しているなどと疑問視する意見が次々にあがった。福岡市の地盤の脆さは、今に始まったことではない。討論会に参加した高山博光市議(城南区)によると、1975年から始まった福岡市営地下鉄の1・2号線の工事では、一部区間を除いて開削工法が用いられており、市民の相談やトラブルへの対応、通勤ラッシュの緩和を図るため、市職員の勤務時間が2通り作られたという。また、前出の博多駅のアンダーピニング工事では、「線路が1mm低下すればアラームが鳴り、2mm低下すれば工事中止、3mm低下すれば全工事ストップし原因究明にあたる」(後藤博士)という厳格なルールが用いられていた。

 安全性よりも「早く、安く」(経済性)が優先された。「設計の際に、建設コンサル2社に支払われた金額は、相場とされる工事費の3%を大きく下回る計5,200万円。図面を書いただけの費用」(高山市議)。星野美恵子市議(中央区)は、問題となった工法の変更(地盤強化の補助工法を薬液注入からAGF工法に変更、トンネル形状の変更)を市役所が把握していたとし、「市が“あわや”という状況を作ってきた」とコメント。荒木龍昇市議は、保険で設定されていた補償額がわずか1億円であったとし、「経済性を優先し、危険性を察知しながら続けてきた現・高島市政を象徴する綱渡り」と評した。

浮かれる市長と泣き寝入りの市民

博多駅前陥没事故

 事故後の対応にも疑問は尽きない。後藤博士は、陥没原因を究明するための現場保存の観点から、陥没現場を1週間で埋め戻した処置について否定的な見方を示し、「下水のバイパス流下、陥没穴内の水のポンプアップ、穴にH型鋼を組み、覆工板で覆工、交通の復旧」というプロセスを提示した。「まかり間違えば100人単位で死亡する事故」(高山市議)にもかかわらず、陥没事故について「はらわたが煮えくり返る」と表現した高島宗一郎福岡市長は、11月28日、埋め戻し工事に貢献した企業などを盛大に表彰。方や、謝罪に追われるのは市交通局トップのみ。事故を起こした側の最高責任者としての自覚は微塵も感じられない。

 事故の責任をすべて大成建設に押し付けた高島市政だが、事故で損害を受けた市民への対応は、大成側に立つ。損害賠償では、窓口の市が証拠書類を細かく要求。「ハードルが高すぎて7~8割が泣き寝入り。ADR(代替的紛争解決手続)の仕組みが必要」と、山本弁護士は語る。都合の悪い事実を隠ぺいし、市政トップの責任から目を背けた高島宗一郎福岡市長。中身が空っぽの高島市政に、次の“陥没”が起こりそうだ。

【山下 康太】

 

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