【2017衆院選・福岡】「壊し屋2(人)」のねらいはレッド・パージだった~リベラル派粛清で一気に進む憲法改正
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選挙戦も終盤に入り、既報の通り自民党圧勝の公算が高まっている。前の記事では今選挙における小池百合子・前原誠司の両氏を、「国難=安倍政権」延命を許した「戦犯」とみなして断罪したが、今回は違う視点からこのドタバタ合流劇を分析してみたい。
分析の視点は、この合流劇で両氏が当初思い描いていた「ねらい」が実現したのか、否かだ。合流効果を両氏の「ねらい通りだった」と見る場合
今回の「希望・民進合流」がもたらした影響・結果がすべて、両氏の「狙い通り」だとしたらどうか。投開票前だが世論調査をもとに、希望が惨敗・伸び悩み、立憲民主が躍進することを前提で考えてみよう。
(1) 希望の党が、設立時のロケットスタートとは裏腹に「3日天下」
(設立会見:9月27日~「排除」発言:9月29日)で終わったこと
(2) 「緑のたぬき」こと小池氏に対する失望感が広がったこと
(3) 「もりかけ」疑惑で解散前まで青息吐息だった自民党が大勝すること
(4) ほとんど決まっていた野党間の選挙協力が白紙に戻ったこと(一部で連携あり)
(5) 排除組が結集した立憲民主党が躍進したこと
(6) 希望の党がある程度の議席を獲得すれば、憲法改正発議のハードル
(衆・参両院で3分の2以上の賛成)を超える見込みであること
(7) 野党勢力に対する国民の信頼を失わせたこと
(8) 民進党が分裂して党内の右派議員が希望に移り、
自民・公明・希望・維新(保守≒極右)vsリベラルという色分けがはっきりしたこと
(9) 政権交代に盛り上がった国民の意気をそいだこと以上のほぼすべてがねらい通りだったと仮定すると、両者の思惑はこうなる。――
〝そもそも両氏は、希望の党を勝たせて政権交代するつもりなどさらさらなく(1)、小池氏は気まぐれな有権者心理を承知のうえで今回は悪役をかってでた(2)。ねらいは憲法改正にあり(6)、自民党を勝たせて(3)野党勢力に痛手を与えたうえで(4)(7)、憲法改正に反対する勢力を批判しやすくするためにひとまとめにして(8)、無力感にとらわれている国民(9)の隙をついて一気に憲法を変える〟
――(5)だけは想定外だったのかもしれないが、立憲民主党が獲ると予想されている議席数を考えれば、「誤差の範囲内」と高笑いだろう。
10月3日に希望の党の公認候補が発表された席上、民進党選対本部の玄葉光一郎氏はいみじくも、「民進党は、政権を担うには左に寄りすぎた」と語った。前原氏も自身のtwitterで、希望との合流の理由として民進党の左傾化と憲法改正論議に「臆せず議論し、自ら提案していく気概」を持つことをあげている。
要するに合流劇は、手の込んだレッド・パージ、「赤狩り」だったのだ。そもそも前原氏の正体はタカ派の改憲論者だ。安倍首相と親しい中西輝政・京都大学教授名誉教授の門下生でもある。中西氏はヒステリックな極右論壇誌の常連寄稿者だが、中西氏に対する前原氏の傾倒ぶりをみると、ほぼ同じ思想の持主とみて間違いない。ところで、前原氏の経済政策ブレーンを務める井手英策・慶応大学教授は、今年3月の民進党の定期党大会で「みんながみんなのために(all for all)」「弱者を見捨てない」とする名スピーチを披露し、万雷の拍手を浴びた。井手氏にすれば、野党根性が染みつきかけていた民進党議員に喝を入れたつもりでもあったはずだが、超一流の演説も党内の権力亡者たちには馬耳東風だったようだ。民進党はその後、蓮舫代表を追い落とすなどの迷走を続けたあげく、現在の体たらくに至っている。
井手教授は民進党が希望との合流を決めて以来、沈黙を守ってきた。重い口を開いたのは約1週間後の10月5日、自身のfacebookで「僕は小池さんとは組めません」と、はっきり意思表明した。同じ投稿内では、排除と選別を「僕のもっとも軽蔑する言葉」としながらも、前原氏とのつながりは「これまで以上に大事にしたい」とも書く。
前原氏と井手氏には、母子家庭で育ったという共通点がある。父親不在の影響か、より強い父性(国家)を求めるように見える前原氏と、障がい者の親族や「夜の仕事」をする母親の大きな愛情に包まれて育ち、自身のルーツである弱者の側からの視点にこだわり続ける井手教授。おそらく他者がうかがいしれない思い・体験を前原、井手両氏は共有しているはずだが、井手教授の「これまで以上に…」の言葉には虚しさも感じられて、寂しく響く。九州在住のある経営者は、「彼ら(小池、前原氏)はテロリスト。排除という暴力で国を破壊した」と憤る。また、「そう遠くない時期に憲法改正が発議されて、国民投票までいくだろう。ただ、国民もそこまで馬鹿じゃない。国民投票で否決して改憲論を永遠に封じ込めればいい」と語るメディア関係者もいる。
しかし、だ。無茶苦茶な理由の解散総選挙に怒りもせずに自民党を大勝させるような国の有権者が、どうして憲法論議だけ冷静な判断を下すと断言できるのか。おそらくは政府による大規模なプロパガンダと、直接お金をばらまくような「人参」政策、さらに北朝鮮の脅威をことさらに言い募って危機感を煽ることで、パニックに陥った国民がいとも簡単に誘導されるのは目に見えている。断言できるが、国民投票まで持っていきさえすれば、日本国民は簡単に憲法改正に○をつける。その「人参」候補として、ベーシック・インカム(BI)が浮上するのではないかと、記者はみている。根拠は、希望の党の公約にBIの導入が明記されていることだ。総選挙後に自民党と大連立を組んだ後、自民党が希望の公約に乗る可能性は大きい。
しかしBIは、現状の財政内容では実現不可能な施策であり、もし実現するならばどこかを削らねばならないのは明らかだ。BI実現と引き換えに何が要求されるのか……公的扶助や国民皆保険制度の廃止、年金制度の撤廃……たとえば毎月10万円が振り込まれ、同時に15万円が出ていくような、国民を絞りつくす「闇金」社会の到来を見るようで空恐ろしい。合流効果のねらいがはずれた(失敗した)と見る場合
上記にあげた(1)~(9)の事象が仮に、両氏の「そんなはずではなかった」結果だとしよう。万が一にもそうだとすれば、残念ながら記者はひとこと、「寝言は寝て言え」と吐き捨てる選択肢しか持たない。あからさまな票目当ての合流や、候補者人選で「選別」や「排除」の言葉を使うことで起きる反響を予測できなくて、なにがポピュリストか。馬鹿も休み休み言わねばならない。
自民党の獲得議席が280を超えようとしている今選挙の後は、「国有地を私物化し、お友達に便宜をはかり、旗色が悪くなるとなぜか北朝鮮のロケットが飛ぶ」ような男が再び総理大臣のイスに座ることになる。それもまた国民の選択、と道端の小石を蹴飛ばすしかないのか。権力者に舐められっぱなしで、本当にいいのか。
現在、『猿の惑星:聖戦記』が公開中だ。そのオリジナルである旧『猿の惑星』シリーズ4弾の『猿の惑星・征服』(1972年)は、米国の公民権運動の高まりを色濃く反映する社会派映画だった。物語の終盤、奴隷状態にあった猿の反乱を先導したリーダー猿のシーザーが、残虐非道な知事を抑えつけながらこう叫ぶ、「力をわれわれの手に!」。そう、尊厳(政治)を取り戻すには行動(投票)しかない。猿でもわかる理屈だ。
【総選挙取材班】
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