2024年12月23日( 月 )

早急にAI活用を!技術裁判に苦しむ裁判官

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(協)建築構造調査機構 代表理事 仲盛 昭二 氏
技術顧問 京極 勝利 氏

 構造計算の偽装や施工の不具合により十分な耐震強度を有していないことが判明した久留米市の欠陥マンションに対し、久留米市に是正命令(建替え命令)を出すように求めた訴訟について、その判決からは、裁判官の苦悩が感じられる。建築関係法規による法的な部分だけでなく、力学などの工学的な部分で構成される「建築構造」という専門的分野において、工学的分野まで考慮した判断を裁判官は迫られる。改めて建築裁判の問題点について考察する。

担当件数の多さ

 裁判官1人がどれほどの件数を担当しているのか。日本弁護士会作成の資料によると、大都市の裁判官は、常時、1人あたり、単独事件を約200件、合議事件を約80件抱えているとされる。

 さらに毎月40件前後の新たな事件が追加されるので、一般市民からは想像できないほど、裁判官は超多忙な業務をこなしている。これは、裁判の件数の増加に対して裁判官の定員の増加が追いついていないことが主な原因だと考えられる。

 たとえば、民事訴訟において、口頭弁論や弁論準備の期日が、次回まで2~3カ月も空くことが一般的であり、このことに不満を抱く原告や被告も多い。この2~3カ月の間、裁判官が何もしていない訳ではなく、裁判官は、200~300件の事件抱えている審理を必死に進めているのである。

多岐にわたる分野

 民事訴訟の内容はさまざまである。日本の法令の数は、憲法・法律・政令から規則など、その数は8,307種類(2017年3月1日現在)も存在する。このほかにも、各自治体が制定している条例なども存在するので、裁判官がこれら法令や条例のすべてを把握して、適切な判断を下すことは極めて困難である。

 建築を例にとれば、建築基準関係規定には、建築基準法令のほか、建築物の敷地や構造や設備に関する法律、政令、省令、条例などが含まれ、建築関係だけでも膨大な量の法令に適合することが要求されている。

 さらに、建築構造設計に関していえば、国交省の告示や日本建築学会の規準や指針、日本建築センターの規準や指針などに適合していることも、建築確認においてチェックを受け、適合していない場合には是正を求められる。

 社会には、医療、交通、IT、化学、機械などさまざまな分野が存在し、それぞれの分野に関する法令が数多く存在する。裁判官も1人の人間であり、数百件もの担当事件すべてに関連する法令を把握し、適切な判決を書くことは極めて困難であると思われる。

 例に挙げた欠陥マンションの場合、行政の是正命令を求めた訴訟の判決では建築関係規定の適用を誤った判決となっており、建築関係者の間で問題視されている。

 裁判官が審理に十分な時間を使えないことを見越した行政や大企業は、裁判官の判断を自らに有利なほうへ誘導するテクニックを使う。また、裁判を引き延ばすことで原告を疲弊させ、原告の数が多い場合には、その足並みの乱れを待つ。

人間の限界

 多岐にわたる事件について、関連法規を掘り下げて審理を進めることは、裁判官1人あたり数百件という担当件数を考慮すれば、もはや限界を超えている。そのため、法令の適用を誤るケースも生じる。

 もう1つ、裁判で大きな問題となっているのは、裁判官の異動である。

 裁判官は公務員であり、定期的に異動がある。異動の際に、担当案件の次の担当者に確実に引き継ぎが行われていれば問題ないが、数百件もの事件を短期間に引き継ぐことは、現実問題として難しい。

 審理の途中で担当の裁判官が交代した事件は、裁判官が事件内容を把握しないまま審理が進められるか、事件内容を把握するために、審理が大幅に後退するのである。実際に、裁判官が交代した事件の半数以上の割合で、審理が後退しており、時計の針が大幅に戻されているのである。

 長期間の審理となっている事件では、裁判長も陪席の裁判官も交代し、当初の審理内容を知っている裁判官が誰もいないという事態も起きている。

 この現状を解決する手段は、もはや人工知能(AI)の活用しかないのではないか。AIが、事件内容を把握し、関係する法令を選択し、判例も参考にしつつ、的確に判断をする。裁判官は、もっと高い見地、広い視野で大局的に判断をすることに力を注ぐことができる。

 裁判の審理にAIを導入することを真剣に検討すべき段階にきている。迅速かつ適切な裁判審理の実現を目指してほしい。

▼参照記事
・欠陥マンション訴訟で浮き彫りになる久留米市の職務放棄
・欠陥マンション裁判で法律を曲解、結論ありきの福岡高裁判決

 

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