2024年12月23日( 月 )

小売業―かつてない激変期(3)~新しい職種

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 韓国では高齢者の無料バスを利用した個人宅配が話題になっている。年金システムが不十分な韓国では高齢者が年金だけで暮らせないという事情もあって、高齢者による宅配が広がっているのだという。
中国でもアプリを使った個人による請負配達が拡大している。中国ではアリペイやテンセントの個人決済システムの浸透で、賃金や代金の決済が簡単にできるだけに今後ますますの広がりが予想される。
個人配達者はアプリを使って待機し、配送会社からの連絡で荷物の受け取り配達を行い、賃金や報奨金をすぐに受け取ることができるからだ。加えて、顧客からの結果評価が配送会社のもとに届くようになっているから、労使双方にメリットがある。

 アメリカでも同じような現象が起きている。たとえばウーバーのように宅配のニーズを取り込む「ドアダッシュ」。飲食専門の配送会社がレストランから売上の20%を受け取り、ダッシャーと呼ばれる個人宅配者にアプリで配送を発注する。宅配者は配送可能距離とそのほかの条件を設定し、だいたい5~8ドルで配送を請け負う。加えて、チップは全額自分のものというシステムだ。そんなダッシャーの中には1日に200ドル以上稼ぐ人もいるという。このシステムが我が国に伝播するのは時間の問題であるといってもいい。

競争者の増加が進化を促す

 ECやそれに付随するシステムの参加者は今、急激に増えている。参加者が増えればそこに競争とそれにともなう改善が加速度的に進む。これがかつてとは決定的に違うラストワンマイルの現場だ。
 Googleが主催するGoogle・ルナ・エクスプライズという優勝賞金3,000万ドルの純民間月探査機のコンテストがある。世界中から30チーム前後が参加、撤退を繰り返しながら無人月探査機の開発を競っている。日本からもHAKUTOというグループが参加している。問題は開発した探査機をどんな手段で月に送り込むかだが、多数の開発者がアイデアを競っている。
 直接開発ではなく、複数の競争者を世界中から集める間接開発という手段を講じるGoogleのこの考え方は「衆知こそ進歩の母」というスタンスだ。
 異分野や異質の研究者による競争、協業が生み出す結果はおそらく、直接開発よりずっと投資効率が高い。
 競い合う参加者が増えるほど、取り組むテーマの完成度は向上する。新しい販売形態変更の試みにもこれと同じことがいえる。自身で大金をかけて開発するより、広く世界の知恵を集める。そのほうがはるかにローコストでしかも収穫が大きい。

 インターネットという新たなツールが生まれたことは、従来の流通業に大きなインパクトを与えた。しかもそれはさらなる進化を生む。
 社会的認知を得たECはAIの進化をともない、従来、クリアが困難だった問題点を比較的容易に解決するだろう。あとは実験と経験、反省を繰り返すことを加われば改善はさらに進む。ECはまさに小売のスイングバイなのである。

ブレークスルー的現象

 交通事故統計が始まった当時、1948年前後の交通事故死は車の総数が3万台に過ぎなかったが3,790人だった。そして昨年、車は8,000万台と激増したにもかかわらず、ピーク時には1万6,000人を超えた死者が3,694人と激減した。その理由は様々だが、問題対策を重ねることで結果が劇的に変わることを物語る。手段の拡大と参加者の拡大は今後のEコマースの革新的拡大に重なる。

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
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