小売業―かつてない激変期(12)
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表5はあるスーパーマーケット企業3店の年商の推移である。いずれの店も開店から4~5年で売上のピークを迎えているが、それ以後の数値を追ってみるとC店以外はピークアウト以降、一度も前年実績を上回っていない。このことは一度売上が下降を始めるとほとんど回復が不可能ということを示している。人口増と経済成長による成長がなくなったバブル崩壊以降は競合だけが増加することになり、何もしなければ当然、売り上げは減少する。表5はその状況を端的に物語る。
これは地方スーパーに突き付けられる問題を示している。更新投資をしなければ表5の問題を発生させるが、それを予見してリスクを伴った投資をするためにはかなりの決断が要る。経常利益率が低いスーパーマーケットの経営者としては投資より「人的頑張り」で窮状を打破しようとするのが普通だ。店長が変われば業績が変わる。しかし、その可能性は極めて低い。かくて際限のない売上の低下が始まる。気がついたらどうしようもないレベルまでのところに売上が低下してしまったという事例だが、同じようなケースは少なくない。
具体的な対策結果の実例
スーパーマーケットの売り場面積についてはさまざまな意見があるが、頻度の高い食品の買い物でお客が一番要求するのは「近い」ということである。「近い」を言い換えると「速い」。つまり、日常性の高い買い物には時間をかけたくないということである。食品スーパーやコンビニの商圏が小さい理由は、そんなお客の要求が強いからということになる。
近い、安い、品ぞろえというスーパーに対する三大要求のなかで問題になるのが品ぞろえである。いくら近い、安いといっても目的の商品がなければお客にとってメリットがない。さらに品ぞろえが良くても必要以上の面積は時間がかかるという点でそのメリットを消す。
大店法の規制下で、一時は150坪型が一世を風靡したこともあるが、これではもちろん必需品の品ぞろえができない。
生鮮のアイテムやそのほかのアイテムの必要最小限をそろえるには、最低300坪が必要というのが一般的だが、デリカテッセンやベーカリーといった現代競合化で必須の売り場を充実させようと思えば、少なくとも400坪の売り場面積は必要になる。
では、さらなる充実を図って、600坪、800坪となるとどうだろう。今や食品の売り上げ構成が50%を大きく超える日本型GMSには1,000坪を超す売り場をもつ店もあるが、そんな店はお客にとって毎日の店ではない。せいぜい週末に行くという程度である。
必要以上の取扱商品数もいろいろな問題を発生させる。日常生活に必要なのは」生鮮で1.000アイテム程度、総数では8,000程度もあればたいていの日常ニーズは間に合うのである。広い売り場と多くのアイテムは対象顧客の拡大には役に立つが、販売期間の短い食品はそれにともなうロスの危険が絶えず付きまとう。
ロスというのは金銭の損得だけでなく、鮮度という店の信用の根幹にかかわる問題にも影響するから、その管理にも多大なコストがかかるということになる。
近い、安い、速い。それに「素敵」を加えた店舗戦略をどうとるかはス-パーマーケットの大きな課題ということである。表6は300坪型のスーパーマーケットの競合対策事例の結果である。隣接競合する大型ショッピングセンターの開店にあたり、まず、店舗に隣接する敷地にドラッグストアと飲食店舗を付加した。ついで既存店舗にリカーとベーカリーを付加したが、店舗面積の付加は建物の制限でできなかった。
いわゆる増床なき付加である。付加による既存売り場の問題は雑貨を縮小した。理由はスーパーマーケットにおける雑貨は顧客デマンドが低いからである。雑貨の縮小は隣接するドラッグストアにも追い風になる。いわゆるテナントとの棲み分けである。
これらの付加の結果は相応の効果として現れた。売り上げは対策前の1.6億から2.4億にまで増えたのである。約40%の増加ということになる。店舗面積を増やさず、雑貨アイテムを縮小しての結果だから、スーパーマーケットに対するお客のデマンドがどこにあるかを端的に示しているといってもいいはずだ。(つづく)
<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。関連記事
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