スタジアム建設を前進させるV・ファーレン長崎・高田社長の強運
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市と三菱重工に「渡りに船」の提案
「長崎の奇跡」が続いている。クラブ運営破綻の崖っぷちから一変して、J1昇格を成し遂げたV・ファーレン長崎。その立役者が、崩壊寸前のクラブ運営を引き受け、選手たちが全力でプレーする環境を整えた(株)ジャパネットたかたの前社長・高田明氏であることに異論を挟む余地はない。そして今、長崎の人々の念願でもあった長崎市内中心部のサッカースタジアム建設が現実味を帯び始めている。
V・ファーレンは、4月11日に行われた第7節、清水エスパルス戦でJ1初勝利をあげ、続く4月14日のガンバ大阪戦は3対0で完勝。J1残留に向けて大きく前進した。大きくふくらむサポーターと地元の期待。さらなる躍進に向けて、交通の利便性が高い市内中心部でのホームスタジアム建設は、必要不可欠な条件ともいえるだろう。
そのスタジアムの候補地となるのが、三菱重工の長崎造船所幸町工場跡地である。敷地の広さは約7ヘクタール。所有する三菱重工が、18年度末の同工場閉鎖にともない、跡地活用の事業者公募を実施。V・ファーレン長崎の親会社となる(株)ジャパネットホールディングスが外資系ファンドと組み、V・ファーレン専用スタジアムの建設を目指して、これに応札した。
幸町工場跡地は、中心部に平地の少ない長崎市で稀少価値があり、JR長崎駅にも近い。2022年度の九州新幹線長崎ルートの開業に合わせて、長崎駅および、その周辺地域では開発が進み、すでに新しい県庁舎と長崎県警本部が移転オープンしている。さらに長崎市は、ホテルを併設した大型コンベンション(MICE)施設を建設する予定だ。
長崎市内におけるスタジアム建設は地元ファンの宿願でもあった。14年から15年にかけて声があがった「茂里町スタジアム」プロジェクトには10万人の署名が集まった。当時、そのスタジアムの建設予定地とされていたのが、幸町工場に隣接する長崎市の中部下水処理場(23年度末に廃止予定)だ。
10万人の署名は、田上冨久長崎市長に提出されたが、「茂里町スタジアム」は、当時、田上市長が実現へ向けて邁進していた大型コンベンション施設の対案的存在でもあり、到底受け入れられるものではなく、寄せられた期待は市政への失望へと変わった。そのうち、V・ファーレン長崎の経営危機が表面化し、スタジアムどころではなくなったのである。
「実は当時、茂里町スタジアムの実現に向けて、三菱重工に対して幸町工場の土地活用の働きかけが行われていた。署名運動で高まった市民の期待も含め、現在のスタジアム建設を進める土壌は、すでに整っている」(地場不動産業者)。V・ファーレンが起こした奇跡によって、スタジアムの夢が復活した。一度は断念した市民の期待に応えたい長崎市の田上市長、跡地活用に公共性が求められる三菱重工の両者にとって、地元の理解をすでに得ているV・ファーレンの専用スタジアム建設は「渡りに船」ともいうべき提案ではないだろうか。
三菱重工の公募は16日に締め切られ、今月中に事業者を決定する予定。その直前におけるV・ファーレン長崎の2連勝は大きな追い風となる。クラブを立て直した経営手腕もお見事ながら、さらに大きなチャンスを招き寄せる高田明氏の強運には舌を巻くほかはない。
【山下 康太】
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