2024年12月22日( 日 )

矮小化されている福田財務次官セクハラ問題

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青沼隆郎の法律講座 第6回

問われるべきは公務員の義務違反

 福田淳一財務次官(高級官僚)には、公務員として、法律上の職務忠実義務や守秘義務がある。

 セクハラが直接抵触する法律はない。行為がエスカレートして、「傷害罪」や「強要罪」「名誉棄損罪」「侮辱罪」「暴行罪」「強制わいせつ罪」「強姦罪」に問われることはある。情報提供を口実に性的勧誘を受けただけでは刑事犯罪ではない。

 しかし、たとえ福田氏が、女性に対するセクハラ行為を問われなくても、公務員としては、職務忠実義務および守秘義務違反の可能性が高い。福田氏は、財務省の内情について情報提供するかのような雰囲気を漂わせ、自らの劣情を満足させようとした。自身が事務方のトップを務める財務省が、森友問題や公文書改ざん問題で大きく揺れている、そのようななかでも身勝手な欲情を抑えることができなかった。

 かつての外務省機密漏洩事件(西山事件)では、取材記者と外務省女性職員との親密交際が断罪された。女性記者に財務省職員が、職務上で知り得た何らかの事実を漏洩することも同じだ。漏洩された情報の秘密性が問われるとの見方もあるが、誰が、何を基準に秘密性を判断するか、行為者が秘密と認識していなければ故意が成立しないのではないか、などの法律上の問題があるため、公知の事実でない限り、秘密性は認められる。

 マスコミは劣情目的の卑猥な言葉の報道に終始するが、問題の本質は、事務次官が女性記者に公知の事実でない、職務上知り得た情報を提供していたら守秘義務違反、酒場に呼出し、職務上の秘密を告知するそぶりで、単に劣情目的の会話をしただけに終わったなら、公務員の信用失墜行為としての懲戒理由となる。地位を利用して個人的劣情の達成を行うような人物を高級幹部に任命した監督権者の麻生太郎財務相の責任も問われる。

 麻生氏は、「被害」女性の証言が確認できなければ事務次官の責任は問えない旨の発言をしたが、公務員の守秘義務違反、職務忠実義務違反の被害者はいうまでもなく、国家であり国民である。麻生氏は、セクハラ責任しか視野にないようだ。

 さらに財務省は、被害女性に名乗り出るよう呼びかけ、国民の大反発を受けた。セクハラ事件とはなり得ない事件でさえも本物のセクハラ事件に仕上げる無能行為だ。犯罪は必ずしも相手・被害者が特定されなければならないものばかりではない。被害者は諸般の事由から、むしろ追及されないことが重要である。女性が被害者となる性犯罪においてはとくにその配慮が必要だ。

財務省は、被害を受けた女性記者が女性であるがゆえに、今後、職場に居づらくなり、職を失うことが予想される展開へと誘導した。その方針決定には、福田氏の守秘義務違反の問題を世間の目から遠ざけ、事件を矮小化する意図があったようにも思える。

 マスコミは、第一に福田氏の守秘義務違反の責任、第二に、福田氏の下品な行為による公務員全体の信用失墜の責任、かかる人物を行政事務の最高責任者に任命した麻生氏の任命および監督責任を追及すべきである。

【青沼 隆郎】

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)
福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

 

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