北朝鮮の「核実験中止」宣言~米国の暴君の出方が不透明(前)
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板門店での南北首脳会談(27日)を控えて、北朝鮮が21日、核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験を中止し、北部の核実験場を廃棄すると発表した。これは非核化宣言ではない。すでに「核兵器保有国家」であるとの自信に基づいた戦略的な発表である。
ところが、米国のトランプ大統領は「非常に良いニュースで、大きな進展だ」と野放図なツイートをした。北の独裁者の手のうちは見えているが、米国の暴君の会談戦略を世界の識者たちが読めないというなんとも奇妙な展開になってきた。韓国の文在寅政権は依然として、北朝鮮の使いパシリ状態だ。ヒトラーが勢力伸長した当時の欧州情勢すら連想させる状況にある。今回の北朝鮮の声明に、最も端的な評価を下したのは、アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)韓国部長のビクター・チャである。政治ニュース専門サイト「Axios」にコメントを求められ、彼は「今回の発表は非核化宣言ではない。北朝鮮が責任が持てる核兵器保有国家になることができるという宣言だ」と断じた。
チャは、トランプ政権の駐韓米大使に擬せられたコリア通である。彼によれば「北朝鮮はこれまでの交渉のなかで、核実験を中止すると言明していた。今回の発表はその言動を公式化したものでしかない」。
さらにポイントは、北朝鮮が「核による先制攻撃をしない。核兵器と核技術の移転をしない」と言っている事だ。これでは北朝鮮が「核兵器保有国家として、米国と対等に交渉するぞ」というスタンスを取っているに過ぎない。
「米朝首脳会談が近づく中で、核・ミサイル実験を中断することぐらい、なんでもない」と、ジョージ・W・ブッシュ政権当時の米国国家安全保障会議(NSC)メンバーは、同サイトにコメントした。「(会談が終わったら)元に戻すことができる。(一時しのぎの)目薬みたいなものだ」と辛辣である。
コリア情勢に関する専門家の見立てはこの通りだが、肝心のトランプ大統領の出方が不透明だ。「非常に良いニュースで、大きな進展だ」というツイートは、米国の暴君らしい野放図なものではあるが、どのような戦略をホワイトハウスが組み立てているのかは明瞭でない。トランプ大統領は北朝鮮の発表に先立つ19日、安倍首相との日米首脳会談終了後の記者会見で「もし会談が成功しないと思ったら、会談には行かない。会談にこぎ着けても、生産的なものでなければ、途中で立ち去るべきだ」と言明していた。
それから2日後に北朝鮮は、南北首脳会談(27日)を見越して、米韓両政府に「核・ミサイル実験中止」のマヌーバー(詐術)を駆使したわけだ。
「国家核戦力建設という大事業を短い期間で完璧に達成した」。北朝鮮の発表は、自信に満ちている。従って北朝鮮の戦略は、米国の暴君に「花をもたせる」策略である、と考えた方がいい。(つづく)
<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「忘却の引揚げ史〜泉靖一と二日市保養所」(弦書房、2017)。関連記事
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