北朝鮮の「核実験中止」宣言~米国の暴君の出方が不透明(後)
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金正恩の登場以来、彼の動向を見守ってきた韓国の元統一院長間・康仁徳氏は最近、NHKの番組でのインタビューで「日本語でいえば、悪賢い」と断じて見せた。
笑止千万なことに、安倍首相とトランプ大統領の首脳会談は、財務次官のセクハラ疑惑で影が薄かった。北朝鮮の核もセクハラも、ヤブの中というお粗末な状況なのだ。もちろん、21世紀の日本にとっては、南北首脳会談、米朝首脳会談のほうが、はるかに重要だ。セクハラ疑惑の報道も、隔靴掻痒である。つぎはぎだらけの「証拠音声」では、真相解明にはほど遠い。
戦争末期の日本政府は、最後までソ連の仲介に頼って、最後は裏切られた。今の日本はセクハラ煙幕もあって、国家の未来が闇の中というお粗末さである。不人気な「戦争屋」が、融和主義者を乗り越えた歴史的な教訓がある。それを知るには、米アカデミー賞を受賞した映画「ウィンストン・チャーチル〜ヒトラーから世界を救った男」を見ればよい。ヒトラーの台頭を前に、チェンバレンらの平和(融和)主義と葛藤するチャーチルの苦悶を描いた作品だ。現在の東アジア状況との類推で見ることもできる。安倍首相が観覧したのもうなずける。
本土決戦を辞さない英国民、国王という映画のハイライト部分は、ソ連の仲介に頼った日本の終戦政局と対比すると、まことに興味深い。荻原遼をご存知だろうか。
昨年末、80歳で死去した彼を「偲ぶ会」が22日、東京都心で開かれた。北朝鮮の金王朝打倒を訴えた元「赤旗」平壌特派員である。ソウル特派員時代、拙宅にお迎えして、女房の手料理でもてなしたことがある。「うまいですねえ」。あの時の明るい声が忘れられない。
彼の著作はほとんど読んだ。高知出身の貧しい青年が、苦学しながら朝鮮語を学んだ。日本共産党に入党して「赤旗」特派員になったが、「地上の楽園」は「地上の地獄」だった。その失意と反抗の生涯が痛々しい。2003年に出した文春新書「拉致と核と餓死の国・北朝鮮」を読むと、その概要が理解できる。
彼は北朝鮮が核開発を認めた2002年秋、北朝鮮からソウルに亡命して来ていた黄長燁・元朝鮮労働党書記にインタビューした。北朝鮮の核外交戦略を尋ねた荻原に、黄は次のように答えた。
「取り引きでアメリカに譲歩して、実質的には核兵器の生産を続けながら、日本と国交正常化して賠償金を獲得し、新義州や開城に経済特区をつくり、経済再建を図っている」
今から14年前の金正日時代の詳言だが、現在の金正恩の戦略とまったく同一であることに驚く。北朝鮮の「だまし手口」は不変であることを、銘記すべきだ。萩原の生涯は、北朝鮮の真実に目覚め、その打倒にかけた生涯だ。彼は前述の著書の後がきに、中野重治の詩の一節を引用した。
「やがて、そうなるであろう。しかし、そうなるであろうか。しかし、なるであろう」
金王朝が人民の手で打倒される日を、何度夢見たことであろうか、と萩原は書いている。「私ももう少しだけ生きて、そんな日を見たい」。虚飾の南北首脳会談を前にして、彼の無念の思いが胸に響いてやまない。(了)
<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「忘却の引揚げ史〜泉靖一と二日市保養所」(弦書房、2017)。関連記事
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