知られざる中国の現代版シルクロード「一帯一路」戦略の真の狙い(3)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
ロシアとの蜜月関係
また、注目すべきはロシアと中国の蜜月関係だ。実は、中ロの政治的関係の深化や国民レベルでの交流の拡大は安全保障の分野にも広がりを見せている。2015年以降、地中海はもとより、ウラジオストック周辺の日本海においても、中国とロシアの共同軍事演習の機会が増えているのだ。18年には中国の青島周辺で中ロの軍事演習が実施される予定だ。その背景には、習近平とプーチンという2人の指導者の強い軍事力信奉傾向と、アメリカ主導の戦後体制に挑戦し、新たな政治、経済の仕組みを形成しようとする強い意志が隠されている。
そのため、とくに中国は日本やアメリカが主たる出資者となって誕生させたアジア開発銀行(ADB)や、戦後世界の金融体制を形成してきた世界銀行や国際通貨基金(IMF)に代わる、アジア・インフラ投資銀行(AIIB)の影響力拡大に余念がない。加えて、陸や海のシルクロード計画にも着手。サウジアラビアのサルマン国王は中国の後、インド洋のモルディブを訪問したが、ここでも中国と協力してシーレーン防衛の拠点を構築する計画が進められている。
はたまた中国は「サイバー空間におけるシルクロード」計画も提唱しているほどである。これらも「シルクロード」という歴史的遺産に新たな時代に相応しい価値を吹き込もうとする中国的なアプローチにほかならない。
他方、ロシアは「ユーラシア同盟」を提唱し、ロシアの極東やシベリア方面の開発に、中国も巻き込み、海外からかつてない規模での投資も呼び込もうと躍起になっている。プーチンは「ロシア極東は協力したい人々にすべて開放する」と語気を強める。いうまでもなく、ロシアの極東地域は中国との国境線地帯を中心に石油、天然ガス、石炭、木材が豊富に眠っている地域である。また、ロシアの漁業資源の7割を占めているわけで、まさに「資源の宝庫」そのものである。
ただし、それだけ資源には恵まれているが、開発に従事する人がいないのが悩ましいところであろう。何しろ、極東地域の人口はロシア全体の5%以下で、常に労働力が不足している。国内のほかの地域からも優遇策で労働力を確保しようと工夫をしているが、思うような成果は得られていない。そのため、中国、モンゴル、韓国、北朝鮮といった国々にも働きかけを強め、労働力の確保に必死で取り組んでいるわけだ。
人や物資の移動に欠かせないのが鉄道や高速道路である。ロシアはヨーロッパ方面とシベリア極東を結び、さらに南北朝鮮縦断鉄道やサハリン経由で北海道を結ぶ国際輸送回廊計画を提唱中である。今後20年で世界の物流風景は中ロを軸に大きく変貌を遂げるに違いない。
しかも、プーチン大統領はシベリア鉄道を始め、あらゆる物流をAI化することで無人化を促進する「第4次産業革命」を実現する計画も温めている。中国の推進する「新シルクロード構想」はその発想を拡大、進化させようとするもの。当初、中国の「一帯一路計画」にはロシアが含まれていなかった。しかし、プーチン大統領の働きかけが功を奏し、中ロ合作の象徴的な事業が生まれつつある。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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