日本への影響は?トランプ大統領によるイラン制裁再開(1)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
「アメリカ・ファースト」ならぬ「自分ファースト」を貫き続ける強気一辺倒のトランプ大統領。ついこの間まで「北朝鮮を地上から抹消する」とか「チビのロケットマンの核ミサイル発射ボタンより俺のほうが大きい」と豪語していたが、突然、「金正恩(キム・ジョンウン)は若いが賢い」とか「本気で交渉できる相手だ」と、発言を180度変えてしまった。日本政府もトランプ大統領の真意を測りかね、翻弄されるばかりだ。安倍首相はトランプ大統領とは直接会った回数も電話で話した回数も「世界一だ」と自慢するが、ここにきて雲行きが怪しくなってきた。何かといえば、イランへの経済制裁の再開である。
一方的な宣告
トランプ大統領は去る8月7日、自動車関連などを対象に対イラン経済制裁の第一弾の発動に踏み切った。ヨーロッパの同盟国の反対を押し切って、イラン核合意(2015年、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国の6カ国がイランと締結。イランが核開発を縮小することで、それまで課されていた欧米の経済制裁を解除)から1人離脱してしまった。
パリ協定やTPP交渉からも平気で脱退しており、「またか」といえようか。とはいえ、日本にとっては深刻な影響をもたらすに違いない。なぜなら、「11月5日には原油取引を含めたイラン核合意前の制裁をすべて復活させる」という方針を打ち出しているからだ。世界有数の原油産出国であるイランとアメリカの対立が深まれば、原油価格の高騰は避けられない。世界経済への悪影響は確実となる。イランは、1953年に発生した「日章丸事件」以来、我が国にとっては互恵関係を育んできた大切な友好国である。思い起こせば、第二次大戦後、日本はアメリカを始めとする連合国による占領下に置かれ、石油の輸入が自由にできなかった。そのとき、イラン国民の貧窮と日本経済の発展への足かせを憂慮した出光興産の出光佐三社長は「イランに対する経済制裁に国際法上の正当性はない」と判断し、極秘裏に自前のタンカー「日章丸」をイランに派遣し、イラン産原油を日本にもたらしたのである。
時代は変わって2018年。日本はイランとの間で各種の投資協定を締結し、日本企業も数多くイラン市場でビジネスを展開している。そんな折、日本にとって最大の同盟国であるはずのアメリカ政府は「日本がイラン原油の輸入をストップしなければ、イランと取引をする日本企業も制裁の対象にする」と恫喝してきたのである。トランプ政権は「イラン産原油の取引をゼロにすることが目標だ」という。とうてい飲める話ではないだろう。なぜなら、事前にすり合わせも何もないからだ。あたかも「日本はいまだにアメリカの占領下にある」とでも思っているようなトランプ大統領の一方的な宣告である。
トランプ流・狸の皮算用
日本がイランから輸入している原油は全輸入量の5%ほど。少ないと思うかもしれないが、精製コストが安く済むなど、イラン原油は高品質のため、ほかの原油に変えるとなると、たちまちガソリン価格に跳ね返る。このところ、イランの原油を輸入しているのは中国(26%)、インド(23%)、EU(20%)、韓国(11%)、トルコ(7%)、そして日本(5%)という具合である。
突然、アメリカからの一方的な制裁宣言を受け、イランは「トランプ大統領の決定は誰にも利益をもたらさない。アメリカの国際法に違反するような圧力には屈するわけにはいかない」と反発。「ホルムズ海峡の封鎖」で対抗する可能性すら示唆している。1日1,850万バレルの原油が通過するホルムズ海峡が封鎖されれば、世界は大混乱に陥る。世界の原油の3分の1が毎日、通過しているのがホルムズ海峡であるからだ。アメリカとすれば、自国内のシェールガスのおかげでエネルギー輸出国に変身しており、中東の原油に依存することはなくなったため、影響がない。
トランプ大統領からすれば、ヨーロッパや日本が危機的状況に陥ろうが、「アメリカからシェールガスを買えばいい」というわけだ。そうすれば「アメリカの対日貿易赤字も解消されるだろう」と、捕らぬ狸の皮算用を決め込んでいるに違いない。あるいは、「イランから買っていた原油をサウジアラビアから買えば済む話だ」と腹積もりしているのかもしれない。トランプ大統領にすれば、どちらに転んでも悪い話ではない。しかし、イランも黙ってはいない。8月13日、イラン国防軍需省は新型の国産短距離弾道ミサイルの公開に踏み切った。新型ミサイルを公開することでホルムズ海峡の封鎖を実行する軍事力を誇示する狙いが込められている。イラン軍は例年にない大規模での軍事演習をホルムズ海峡で実施することになった。当然のことだが、アメリカ軍は「航行の自由を確保するため、あらゆる措置を講じる」と対決姿勢を鮮明にしている。緊張は高まる一方である。
もちろん、ホルムズ海峡での戦闘や混乱は日本にとっては死活問題になるだろう。安倍政権は「日本はアメリカの同盟国だから大丈夫。きっと例外扱いしてくれるはずだ」と高を括っている模様。これまでトランプ大統領を全面的に支持し、その言動に一言も反対の声をあげてこなかった安倍首相である。「これだけ忠誠を尽くしているのだから、日本に悪く当たるようなことはないだろう」と信じている風だ。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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