『主治医は自分』という発想~アンチ・エイジングからリバース・エイジングへ(2)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
前回述べたように、我が国は、世界に冠たる長寿大国である。確かに日本人の平均寿命は年々伸び続け、厚生労働省のデータによれば女性は90歳に手が届くほどだ。この2年ほど、世界第一位の座を香港に奪われているが、人口700万人超の香港と1億2,000万人超の日本では元来比較の対象にならないだろう。そのため、実質的に日本が“世界一の長生き民族“と言っても過言ではない。
実に喜ばしい限りであるが、この種のランキングや評価には常に落とし穴も隠されている。それは平均値の恐ろしさということである。100歳を超えても元気な高齢者がいる反面、40代、50代で過労死やストレス死に襲われる日本人も増えている。個人差の大きさにも注目する必要があることはいうまでもない。
また、100歳以上の人口について日米で比較をしてみると意外な結果が見えてくる。2018年8月、ベトナム戦争での捕虜生活を生き抜き、「歯に衣着せぬ」発言でトランプ大統領にも噛みついたジョン・マケイン上院議員が81歳で亡くなり、その葬儀が首都ワシントンの議事堂ホールで行われた。その際、ひと際注目を集めたのは彼の母親であった。何しろ御年106歳。息子の棺にお別れのキスをする姿は凛々しい限りであった。100歳以上の高齢者に限れば、アメリカのほうが日本より人口比でも現場で活躍する実数でも圧倒的に長寿大国といえるだろう。
アメリカといえばファーストフードの普及がすさまじく、脂肪分の取りすぎで肥満や糖尿病に苦しむ人々が多い。ところが、人口比で見れば日本より100歳以上の高齢者がはるかに多いのはなぜだろうか。また、それ以上に注目すべきは現役で活躍中の高齢者の数はアメリカのほうが多い点である。この違いはどこから生じているのだろうか。
答えはアメリカで急成長を遂げているアンチ・エイジングの発想にありそうだ。我が国では「抗加齢」と訳されているが、医学やナノテク技術の飛躍的進歩により、身体機能や細胞のメカニズムが遺伝子レベルまで踏み込んで科学的に分析できるようになってきた。であるならば、老化や加齢も1つの疾患と捉え、予防や治療によって克服していこうという発想が生まれたということなのである。
ちなみに、「1%の大金持ちと99%の貧困層」とまで揶揄されるほど、富の格差が広がっているのがアメリカだ。そんな中、トランプ大統領は不動産王の名を欲しいままにした大資産家であり、しかも史上最高齢となる70歳で大統領に就任。次々と暴露される女性スキャンダルを見ても、年を感じさせないバイタリティーの持ち主である。その言動は常に世間を騒がす「前代未聞の大統領」であることは間違いないだろう。
しかし、2018年5月、現役最高齢の国家元首の座はマレーシアのマハティール首相に奪われた。何しろ、93歳の首相誕生である。当面この記録が塗り替えられることはなさそうだ。マハティール首相もトランプ大統領もどこまで世界最高齢の指導者として活躍することになるのか大いに見ものである。2人とも食生活に気をつかい、細胞の活性化につながる栄養分を摂取することにも人一倍熱心とのこと。まさに、アンチ・エイジングの代表選手ともいえるだろう。
思えば、人間の体は60兆個を超える膨大な数の細胞から成り立っている。とはいえ、元を辿れば1つ1つの細胞は極めて小さなものである。この1つ1つの細胞のメタボリズムを飛躍的に高めることにより人間の運動能力や判断力を強化しようとの発想が生まれても不思議はない。たとえば、ミトコンドリアは各細胞にパワーを与えるエネルギーの製造元である。そこで筋肉細胞のなかにあるミトコンドリアの数を人工的に増やし、エネルギー効率を高めようという研究が始まった。アメリカ人らしい取り組みといえるだろう。
生きている間はさまざまなアンチ・エイジングの努力や工夫を重ね、自らの夢を実現しようと能動的に動き続けるアメリカ人。そうした好奇心をビジネスとして受けとめる環境こそが、アメリカ人の間でセンテネリアンズ(100歳以上の人)が増えていることの一因といえそうだ。倫理的な問題や宗教観の違いを別にして、不可能としか思えない夢を実現しようと国家を上げて取り組む姿勢を見せているのは、「創造的破壊」を繰り返すアメリカのアメリカたる所以ではなかろうか。「そんなことはあり得ない」と既存の常識で否定してしまえば、新たな未来社会は生まれない。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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